断章381

 興味深い記事がある。

 12月16日付のロイター通信によれば、

 「空売り ―― Wikipediaによる注:投資対象である現物を所有せずに、対象物を売る契約を結ぶ行為のこと。商品先物取引外国為替証拠金取引でも用いられる用語だが、差金決済を前提としたこれらの市場では売り買いとも『空』である事が前提であるため端的に売り、ショートと呼ぶことが多い ―― で有名なアメリカ投資会社マディ・ウォーターズは16日、中国最大の住宅販売仲介会社、貝殻找房(KEホールディングス、本拠北京)に売りポジションを取ったことを明らかにした。

 マディは調査ノートで、KEが営業用に見せているデータベースのプラットフォームが新築住宅販売と報酬手数料収入を水増ししており、店舗数に稼働していない『幽霊』店舗も加えているほか、一部の取得資産の価値を過大に見せていると指摘した。新築住宅販売額については126%超、手数料収入は約77~96%水増ししているとし、加盟代理店の実際の数もプラットホームでの数よりはるかに少ないとしている。

 KEは中国の謄訊控股(テンセント・ホールディングス)とソフトバンクグループが出資し、データベースのプラットフォームをもとにオンラインと実店舗で販売仲介を展開している。昨年のNY市場での新規株式公開(IPO」では中国企業として当時では2番目に大きい21億ドルを調達した。

 マディはKEについて、かつて米国に上場していた中国の新興コーヒーチェーン・ラッキンコーヒーがアメリスターバックスのライバルとはやされながら、虚偽の売上高で株価を不正に押し上げていた一件を引き合いに出し、『ラッキンコーヒーに似て、虚偽な部分が極めて多い』と指摘した」。

 

 わたしは、株式のマーケットを注視している。というのは、株が上がれば景気が良くなり、株が下がれば景気が悪化するようになって久しい。先進国経済は、製造業ではなくて金融業が、“実物経済”ではなくて“株式マーケット”が経済の帰趨(きすう)を左右する“株式資本主義”だと思っているからである

 

 ここでも顔を出しているソフトバンクグループ(SBG)の株価は、3月12日に高値10,695円を記録して以降、下落を続け、この12月6日には5,057円の安値を記録した。

 孫 正義社長は、先般の株主総会で、「情報革命・AI革命の資本家としてリスクを取って投資を続けると強調した」。しかし、ソフトバンク・ビジョン・ファンド1号と2号、ラテンアメリカのファンドを通じて現在264社に出資しているが、「ほとんどの会社が利益を出していない」。さらに、「中国リスク」の直撃を受けそうである。

 

 現在の中国経済は、想定以上の落ち込みであり、「中国には『長痛不如短痛(長期間痛みを味わうより一瞬の痛みのほうがまし)』という言い回しがあるが、中国の影響力の大きさを踏まえると第3・四半期国内総生産GDP)成長率の4.9%への想定以上の鈍化は一瞬の痛みでは済まず、世界中に影響が広がることになるだろう」(2021/10/18 ロイター通信)ということだ。

 さらに、SBGの力の源(お財布)である中国アリババ集団などの中国IT企業が、アリババ創業者ジャック・マー(中国共産党員だった)の退任にみられるように、習 近平・中国共産党にひれ伏さざるをえないからである(何しろ全体主義体制なのだから)。

 

 SBGの株価は、炭鉱のカナリア ―― Wikipediaによる注:炭鉱においてしばしば発生するメタンや一酸化炭素といった窒息ガスや毒ガス早期発見のための警報として使用された。 本種はつねにさえずっているので、異常発生に先駆けまずは鳴き声が止む。つまり危険の察知を目と耳で確認できる所が重宝され、毒ガス検知に用いられた ―― である。

 

【補足】

 「5月16日、景勝地で知られる杭州西湖の湖畔にキャンパスを構える湖畔大学で、大学を表象化したかのような巨大自然石に大きく刻まれ、鮮やかに黄金に色付けされ光り輝いていた『湖畔大学』の4文字が削り取られた。

 同大学は2015年1月に聯想集団の柳 伝志、復星集団の郭 広昌、巨人互動集団の玉 史柱など中国ITビジネスを牽引する9人の企業家によって創立された。阿里巴巴(アリババ)集団創業者である馬 雲(ジャック・マー)が校長(学長)を務め、世界の大学のトップに君臨する米ハーバード大学を凌ぐほどの難関との評価も聞かれるほどだ。

 得意絶頂期の馬 雲が筆を揮った『湖畔大学』の4文字が表面から消え失せ、元の姿に戻ってしまった自然石は、昨年末から政治に翻弄されるがままの馬 雲の姿を象徴しているようにも思える。

 近年の馬 雲は習 近平政権が強力に推進するIT政策に沿ってネット・ビジネスを牽引する一方、華人企業家の筆頭格でもあるタイのタニン・チョウラワノン(謝 国民)やマレーシアのロバート・クオック(郭 鶴年)と提携し、東南アジアにおけるネット・ビジネスの展開に積極的に取り組んできた。この2人が鄧小平以来の共産党中枢との太いパイプをテコに中国ビジネスを大々的に展開してきたことは周知のこと。ことに習 近平政権登場以来、彼らと北京との緊密度は顕著である。

 たとえばタニンの場合、アピシット政権(2008~11年)以来の歴代タイ政権が中国と連携し推し進めてきたタイ国内の高速鉄道・輸送インフラ建設 ―― これを中国の側から見るなら東南アジアにおける一帯一路の根幹 ―― に、自らが率いるCP(正大)集団の将来を賭け、同時に悪戦苦闘の企業家人生の総仕上げを目指すとまで公言しているほどだ。

 こう見てくると馬 雲を一帯一路の水先案内人と見なすこともできるし、それだけに習 近平政権からするなら東南アジア進出における忠実な先兵だっに違いない。

 そんな馬 雲の動静が昨年10月後半にパタリと途絶え、程なくした11月には、アリババ傘下螞蟻(アント)集団はIPO(新規公開株)取引の中止を余儀なくされている。IPO市場、これまでの最高額が見込まれていたにもかかわらず、である。そのうえ規制当局がアリババに対し独禁法違反容疑で捜査に着手したというのだから、やはり異常事態だろう。

 馬 雲の動静について様々な報道が乱れ飛んだ末の今年1月20日、馬雲は久々に公の場に姿を現し、自らが創設した『馬 雲公益基金会』による『郷村教師奨』のオンライン授与式に参加している。その発言に注目が集まったが、彼は『今後は全身全霊を教育事業に捧げる』と挨拶するに止め、90日間ほどの動静不明については言及を避けた」(2021/06/01 WEDGE Infinity: 樋泉克夫・愛知県立大学名誉教授の記事から)。