断章258

 中国共産党は、“今のところ”成功している全体主義政党である(「紅い」頭巾をかぶり「紅い」シャツを着ている)。成功に幻惑された日本の「左翼」学者たちは、「中国の特色ある社会主義思想」という全体主義の政治とイデオロギーを批判しないし、つまるところ同じ穴のムジナであるから批判できないのである。

 

 「香港メディアによると、民主派の前立法会(議会)議員ら少なくとも52人が6日、香港国家安全維持法(国安法)違反(国家政権転覆罪)の疑いで逮捕された。民主派は、昨年9月に予定されていた立法会選の立候補者を調整するため、同年7月に予備選を実施したが、今回逮捕されたのは予備選に出馬したメンバーらとみられている。昨年6月末の国安法の施行後、同法違反の容疑で逮捕されたのは約40人。今回だけでそれを上回る逮捕者となり、警察当局が国安法違反の取り締まりを本格化させた形だ」(2021/01/06 産経新聞)。

 

 「中国共産党は2021年7月、結党100年を迎える。新型コロナウイルスの猛威をほぼ抑えこみ、足元の経済は好調だ。しかし、世界から祝福の声は上がらない。習 近平総書記(国家主席)の下で、強権的な一党支配を強める中国は、国際社会との摩擦を覚悟のうえで『強国』路線を突き進む。

 昨年12月24~25日、党の最高指導部メンバーが執務室を構える中南海の『懐仁堂』は、張り詰めた空気に包まれていた。習氏が党のトップ25にあたる政治局員を全員集め、『民主生活会』を開いたのだ。生活上の悩みを民主的に話し合う会議ではない。参加者は自分の至らぬ点を反省するとともに、上司や同僚の欠点を批判する。もともとは建国の父、毛沢東が政敵をあぶり出すために始めたとされる。

 習氏は12年秋に最高指導者の地位に上り詰めてから、とりわけこの会議を重視してきた。今回のテーマは『習近平の新時代における中国の特色ある社会主義思想を真剣に学ぶ』。中国国営の中央テレビは政治局員がひとりずつ習氏に向かって報告する場面を映し出した。それぞれが習氏への忠誠を誓ったにちがいない。

 ちょうど同じタイミングで、独占禁止法を所管する国家市場監督管理総局が中国のネット通販最大手、アリババ集団の調査に入ったのは決して偶然でないだろう。

 アリババをめぐっては、傘下の金融会社アント・グループが20年の11月初旬に予定していた上海と香港での株式上場に、金融当局が待ったをかけたばかりだ。習指導部は『帝国』とも称される巨大企業グループのアリババを一気に追い詰めようとしている。

 きっかけは、アリババ創業者の馬雲氏が20年10月に『すぐれたイノベーションは監督を恐れない』と発言したことだったとされる。習氏が、自身と中国共産党への挑戦と受け止めたとしてもおかしくない。大きな力を持ちすぎたアリババと馬氏をこれ以上、野放しにしておく選択肢はなかったのだろう(引用者注:その馬は、中国共産党員だった)。

 20年1月に湖北省武漢で新型コロナの爆発的な感染拡大が始まり、習指導部はかつてない窮地に陥った。厳しい言論統制が対応の遅れを招き、共産党の一党支配そのものに批判の矛先が向いたからだ。(中略)

 日本経済研究センターが昨年12月にまとめた予測によると、中国は名目GDPで28年にも米国を超える。コロナ危機の前は、早くて36年以降とみていた米中逆転が大幅な前倒しとなる。中国から始まったコロナ危機が、逆に中国を強くするという皮肉な未来が現実味を増す。

 一党支配に自信を深めた習指導部は、一気に攻勢をかける。20年10月下旬に開いた党の第19期中央委員会第5回全体会議(5中全会)では『双循環』という名の新戦略を打ち出した。習指導部が描く中国経済の未来図だ。国内市場を主体とし、外需への依存を減らす。描き出すのは、中国が世界に頼るのでなく、むしろ世界が中国抜きでは立ちゆかなくなるグローバル経済の姿だ。

 その狙いは、5中全会の直後に党理論誌の『求是』に載った習氏のことばに凝縮されている。『国際的なサプライチェーン(供給網)のわが国に対する依存度を高め、供給を断とうとする外国への強力な反撃と威嚇の能力を形成しなければならない』。習氏は米国の大統領がトランプ氏からバイデン氏に代わっても、中国にデカップリング(分断)を仕掛けてくる可能性は排除できないとみているのだろう。

 実際、国際社会が中国に注ぐ視線は厳しさを増している。昨年6月末には香港国家安全維持法の制定を強行し、香港の高度な自治を保障する『一国二制度』を有名無実にした。〈中略〉我が道を行く習指導部は孤独を恐れず、国際社会との衝突はいまよりさらに激しくなっているように思えてならない」(2021/01/04 日本経済新聞)。