断章553

 事態は、急展開中である。

 ワグネルの総帥、エフゲニー・プリゴジンは、「安心してください、正義の行進ですよ!」(とにかく明るい安村風に)と言った。

 「ワグネルの部隊は24日未明、ウクライナから国境を越えてロシア南西部ロストフ・ナ・ドヌに入った。プリゴジン氏が同市内のロシア軍南部軍管区司令部に入る映像が拡散している。動画の中でプリゴジン氏は、ワグネル部隊がロストフを封鎖し『すべての軍事施設を掌握』したと宣言。セルゲイ・ショイグ国防相ヴァレリー・ゲラシモフ総司令官が会いに来ない限り、このまま首都モスクワへ進軍すると述べている。

 BBCは、武装した兵がロストフ・ナ・ドヌでロシア軍南部軍管区司令部の庁舎を取り囲む映像は、本物だと確認した。

 イギリス国防省は、一部のワグネル部隊が『ヴォロネジ州から北へ移動しており、首都モスクワを目指しているのはほぼ確実』との見方を示している。同州の州都ヴォロネジは、ロストフ・ナ・ドヌとモスクワの中間地点にあたる。(中略)

 BBCロシア語の取材に対して消息筋は、ワグネルの部隊がヴォロネジでも軍事施設を制圧したと話した。ただし、ヴォロネジ市当局の発表はなく、ヴォロネジ州のアレクサンドル・グセフ州知事は、さまざまな偽の情報が飛び交っていると警告している。

 プーチン大統領は同日午前、モスクワで緊急テレビ演説を行い、ワグネルによる行動は国民への裏切りだとして、ロストフ・ナ・ドヌで『情勢安定化のため断固たる対応』をとると強調。『内部からの反乱はこの国を脅かす恐ろしい脅威だ。この国と国民を攻撃するものだ。そのような脅威から祖国を守るため、我々は厳しい行動をとる』と述べた。

 同時にプーチン氏は、正規のロシア軍と共にウクライナで戦ってきたワグネルの雇い兵たちを『英雄』としてたたえた。

 大統領は、プリゴジン氏は名指ししなかったものの、その演説は同氏への直接的な警告と受け止められている。

 プーチン氏は演説で、『国が第1次世界大戦のさなかにあった1917年』に言及し、当時は流血の内戦で『ロシア人がロシア人を殺した』ためにロシアの勝利が奪われ、外国が利益を得たのだと主張。

 『武装蜂起を計画し、戦場での同胞に武器を向けた者は、ロシアを裏切った。その代償を払うことになる』とした。さらに『この犯罪に引きずり込まれた者』は、『犯罪行為への参加をやめる』よう呼びかけた。

 これに対し、かねてロシア軍幹部を公然と非難していたワグネル創設者・プリゴジンの声に酷似した音声投稿は、『母国への裏切りについて、大統領は非常に間違っている』、『我々は母国の愛国者だ。我々は戦ってきたし、今も戦っている』と主張。

 『そして誰も、FSBロシア連邦保安庁)も、ほかの誰も、大統領が要求したように、我々に罪があると認めたりはしない』、『なぜなら我々は自分たちの国がこれ以上、汚職とうそと官僚主義の中で生きてほしくないからだ』と続けた。

 プリゴジンはこれに先立ち、メッセージアプリ『テレグラム』に、『自分たちは全員、死ぬ覚悟だ。2万5000人が全員。そしてその後にはさらに2万5000人が』と述べる音声を投稿した。プリゴジンはさらに、プーチン大統領の演説とは裏腹に、自分たちの行動は『ロシア国民のため』なのだと述べた。

 ロシア第二の都市でプーチン氏の地元でもある西部のサンクトペテルブルクでは、市内のワグネル事務所を警察や国家親衛隊が強襲したという地元情報もある。プリゴジン氏が関係するホテルやレストランの近くでは、『覆面をかぶり自動小銃を持った』人物たちが配備されたと、現地メディアは伝えている。(中略)

 かつて米国防次官補代理で中央情報局(CIA)捜査員だったミック・マルロイ氏はBBCに対して、プリゴジン氏はプーチン大統領にとって深刻な課題を突き付けていると指摘した。

 『ロシアのウクライナ侵攻は戦略的に壊滅的で、それをなんとかしようとするのにロシアが私兵組織に頼らなくてはならなかったということ自体、相当なこと。しかし今やプリゴジン氏は、そもそもロシアへの挑発など何もなく、ロシア国民は最初からうそをつかれていたのだと公然と認めている。これはかなりのことだ』と、マルロイ氏は話した」(2023/06/24 BBCニュースを再構成)。

 

 別の報道は、こう伝えた。

 「ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は、6月23日、ロシアがウクライナに対し“特別軍事作戦”を始めた理由について、『ウクライナ北大西洋条約機構NATO)とともに攻めてくるというストーリーを国防省がでっち上げ、国民や大統領をあざむいた』と主張した。

 ウクライナでの戦争を巡り、プリゴジン氏は軍や国防省を繰り返し批判してきているが、ロシアの“特別軍事作戦”をウクライナの“非武装化、非ナチ化”が目標という政権の説明を今回初めて否定した。

 さらに『戦争はショイグ国防相が元帥に昇格するために必要だった。ウクライナを非武装化し、非ナチ化するためには必要ではなかった』と強調。エリート層の利益のためにも戦争は必要だったという見方も示した。

 また、ロシアは侵攻に踏み切る前にウクライナのゼレンスキー大統領と協定を締結できたはずだったほか、戦争ではロシアで最も有能とされる部隊を含む何万人もの若い命が不必要に犠牲になったとし、『われわれは自らの血を浴びている。時間は過ぎ去っていくばかりだ』と述べた。

 具体的な説明はなかったものの、ロシア軍が自軍の戦闘機を破壊したとも非難。ロシア軍指導部の《悪》を『止めなければならない』とし、『数万人ものロシア軍兵士の命を奪った者たちには罰が課される』とした。

 プリゴジン氏はロシア軍に対する行動の呼びかけは『軍事クーデターではなく、正義のための行進だ。われわれの行動は決して軍隊の邪魔をするものではない』と主張。ショイグ国防相がワグネルの兵士の遺体2,000体をロシア南部の死体安置所に隠すよう命じたとも非難した」(2023/06/23 ロイター通信)。

 プリゴジンは、つい先日のインタビューでは、『貧しい家庭の息子たちが前線で次々に死んでいく中、エリートの子弟は戦争を避けようと海外で優雅に過ごしている』、『戦死した兵士の何万もの親族の悲しみが沸点に達した時、民衆はすべてが不公平だと言うだろう』と述べた。

 5月の(SNSへの)投稿では、『エリートが本気でウクライナ戦争に取り組まなければ、1917年と同様の革命が起き、戦争に敗れる可能性がある』と警告した。

 (ロシア)富裕層と一般庶民の所得格差が天文学的に広がる中、“階級闘争”に言及した発言の衝撃度は大きい」(2023/06/24 毎日新聞)。