断章233

 「われわれは裸で生まれ、また裸で死んで行く」という。

 しかし、生まれてくるときに、金のスプーンを咥(くわ)えて生まれる児もいれば、粗末な木の匙(さじ)を咥えた児もいる。また、死に際しても、痒(かゆ)い所に手が届くケアを受けつつ死ぬ老人もいれば、貸間に詰め込まれて“生活保護費”を掠め取られながら死んでいく下流老人もいる。そもそも、こんな“法話”をする僧侶からして、拝観料でガッポリ稼いで高級外車に乗る観光寺院の僧侶もいれば、檀家が激減した寒村でやっとのことで古い軽四を維持している女僧侶(男の僧侶はみんな都会に去った)にと、格差拡大・大分断なのである。

 

 今日も今日とて、高級ホテルにある「なだ万」に、マダムがお二人、ランチをしようとご来駕なさいました。ホールスタッフの案内でいつものお席に着座されると、すぐにフロアマネージャーがやってきた。「奥様。申し訳ございません。実は、いつものマグロが、海が荒れて市場に入荷しておりませんので、今日はお出しできないのですが」と、腰をかがめて言うのであった。「しょうがないわね(韓流ドラマなら、チッと舌打ちする場面である)。じゃあ、今日は、天婦羅御膳をいただくわ(注:税サ込で7,623円である)」と、年かさのマダムがおっしゃった。

 

 片や、今日も今日とて、コンビニの駐車場に停めた車の運転席で、会社員がレン・チンした「チャーハン弁当」(398円)をかき込んでいる。

 そして、わたしの今日の昼食メニューは、1個88円の半玉キャベツの三分の一を塩・胡椒で炒めて茶碗飯に乗せたキャベツ丼と、ゆでたワンタンメン(5袋で298円)である。半熟の目玉焼きを乗せると完璧だが、予算オーバーで断念である。

 

 作家の橘 玲は、11月19日の『ZAI』オンラインに、「アメリカの極端な経済格差は持続不可能だが、超富裕層の資産に高率の課税をすれば、多くの社会問題が解決する」と主張する『つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等』(光文社)の紹介記事を書いている。

 

 「雑誌『フォーブス』によると、資産10億ドル(約1000億円)以上のビリオネアがアメリカには705人もいる(2019年)。その一方で、国民の半分ちかくがその日暮らしの生活をしている。この極端な経済格差は新型コロナでさらに広がっているとされるが、こんな異常な状況が長く維持できるとは思えない(持続可能性がない)。

 だったらどうすれいいのだろうか。今回はエマニュエル・サエズ、ガブリエル・ズックマンの『つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等』(光文社)から『富裕税』という興味深い提案を見てみたい。(中略)

 サエズとズックマンは冒頭で、2016年9月26日に行なわれたヒラリー・クリントンドナルド・トランプの大統領候補テレビ討論会を取り上げる。トランプが納税申告書の公開を拒否していることについて、『カジノのライセンスを申請したときに提出した納税申告書しか公開されていませんが、それを見るかぎり、彼は連邦所得税を1銭も払っていません』とクリントンが批判した。するとトランプはほこらしげにそれを認め、『それは私が賢いからだ』と返したという。

 著者たちは、これが『不公平税制の勝利の瞬間』だという。もはやアメリカでは、税金を払わないことが誇るべきアピールになったのだ。その結果、いったいなにが起きたのか。アメリカの経済格差についてはすでの多くの報告があるが、その驚くべき実態をかんたんにまとめておこう。(中略)

 1) 労働者階級(成人の1億2000万人)の平均所得は1万8500ドル(約190万円)。著者たちが強調するようにこれは計算間違いではなく、1億人を超えるアメリカの成人が年収200万円程度の生活をしている。

 2) 中流階級(9600万人)の平均所得は7万5000ドル(約750万円)。これは日本のサラリーマンの平均収入(平均441万円/2018年)より7割も多く、アメリカの中間層は『世界的に見ればいまだ裕福なひとびと』だ。この層の収入は1980年以来、年1.1%の割合で増加している。微々たるものに思えるが、これでも70年ごとに所得は倍増し、孫世代が祖父母世代の2倍稼ぐことになる。アメリカの中流階級の子どもたちは親のゆたかさを超えられないかもしれないが、祖父母は超えられるのだ。

 3) 上位中流階級(2200万人)の平均所得は22万ドル(約2200万円)。アメリカの典型的な富裕層で、郊外に広々として家を所有し、子どもたちを学費のかかる私立学校に通わせ、十分な年金を積み立て、保証が手厚い医療保険に入っている。

 4) 上位1%(240万人の富豪たち)の年間平均所得は150万ドル(約1億5000万円)。その頂点にいるのがジェフ・ベゾス(資産13兆円)、ビル・ゲイツ(10兆円)、ウォーレン・バフェット(8兆円)などの超富裕層だ。

 この所得分布からわかるのは、『現在のアメリカ経済において憂慮すべき問題は、中流階級が消失しつつある点にあるのではなく、労働者階級が驚くほど少ない所得しか受け取っていない点にある』ことだ。

 著者たちは、こうした極端な経済格差はアメリカに特有な現象だという。1980年当時、上位1%の所得が国民所得に占める割合は、アメリカでも西欧諸国でも10%程度だった。現在、西欧諸国では上位1%の所得の割合は12%に増加したにすぎないが、アメリカは20%にもなった。同時に、下位50%の所得の割合はアメリカが12%に減ったのに対し、西欧諸国では24%から22%になったにすぎない。『高所得民主主義国のなかで、アメリカほど格差が拡大している国はない』のだ。

 なぜこんなことになるのか。ひとつは、給与税(社会保険料)や消費税(売上税)など逆進的な税制によって所得の少ないアメリカ人に過酷な税負担が課されていること。もうひとつは、アメリカの富裕層が税金を払っていないことだ。アメリカのほとんどの社会階層が、給与税や消費税を含め所得の25~30%を税金として国庫に納めているが、超富裕層だけは例外的に20%ほどしか払っていない。―─これは日本も同じで、合計所得金額1億円までは累進的に所得税の負担率が上がり30%程度になるが、それ以降は下がりはじめ50億円を超えるあたりから20%以下になる(関口智立教大教授『資産課税の累進性高めよ』日本経済新聞2019年11月17日)。

 フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグの資産の大半は配当しないフェイスブック株で、含み益には課税されない。その結果、税を徴収できるのはフェイスブック法人税だけになるが、それも〈タックスヘイヴン〉を使った租税回避で消えてしまう。

 『合法的税圧縮』の手法を税の専門家たちがグローバル企業や富裕層に広めたことで、アメリカは法人税や資本課税の大幅な引き下げを余儀なくされた。高い税率のままだと、ますます租税回避が進むだけだからだ。〈タックスヘイヴン〉の存在によって世界各国は税率の引き下げ競争に巻き込まれ、『資本への課税はますます減り、労働への課税はますます増える』悪循環に陥ってしまったのだ。(中略)

 提案されるのが『富裕層への課税強化』だ。・・・もちろん法人税や富裕層への税率を大幅に上げれば、資金は〈タックスヘイヴン〉に逃げてしまうだろう。したがってこれは、国際社会が租税回避を完全に封じることが前提になる ―― 引用者注:この後、著者たちの租税回避を完全に封じ、どこにも逃げ場がなくなった状況での“行動プラン”が説明されるが、実現可能とは思えない。興味のある方は『ZAI』オンラインか原著を参照してほしい。(中略)

 保育への公的支援が貧弱なアメリカでは、託児所の年間費用が幼児1人あたり2万ドルに及ぶケースもざらにある。アメリカの母親の収入は第一子の出産後、父親に比べて平均31%も減少するが、これは「事実上、政府支出の不足分を補うため、女性の時間に重税を課しているのに等しい」。アメリカは国民皆保険でないため、民間医療保険の保険料が「民間の税金」となり、もはや人頭税と化している。医療保険の年間平均保険料は労働者1人あたり1万3000ドル(約130万円)で、あまりに高すぎて成人のおよそ14%が無保険のままだ。

 北欧などヨーロッパのリベラルな国々はどこも高率の消費税で社会保障を賄っているが、消費税には逆進性があるため、それによってさらに格差を拡大させてしまう。それにもかかわらずなぜ消費税の税率だけが上がっていくのかというと、個人所得税法人税、資本課税の引き上げが租税回避の誘因になってしまうからだ。

 だが誰もが『同額の所得には同額の税金を支払う(租税回避の逃げ場がない)理想世界』では、もはや効率の悪い消費税に依存する理由はない。消費税を廃止して、国民所得(労働所得+企業利益+利子所得)に6%の均等税(国民所得税)を課して基礎税収を確保したうえで、富裕層課税で国民所得のおよそ10%分に相当する税収を確保すれば、国民全員に医療や育児を提供できるし、公立大学への助成金の増加などにより、高等教育を受ける機会も均等化できるという。(中略)

 民主的な社会では、市民(有権者)の95%が得をする提案が受け入れられる可能性はじゅうぶんにあるだろう。国家がさらに財政支出を拡張できるというMMT(現代貨幣理論)が話題になっているが、政府の借金が増えればひとびとは『国家破産』を恐れてお金を使わなくなるだろう。それを考えると、財政を悪化させずに95%の国民の可処分所得が増える富裕層課税のほうが、これからの“左派ポピュリズム”の主流になっていくのではないだろうか」。

 

 わたしは、日本の未来のために(“左派ポピュリズム”だからではない)、資産課税の累進性を高めることに賛成である。

断章232

 「ちょっかいをしかけてくる外敵に対して自衛することのできない社会は、かならず自主独立を失い、場合によっては集団としてのアイデンティティをも失って離散消滅するであろう」(『戦争の世界史』)。

 

 鳥は余りにも飛びすぎて、羽はボロボロになり、すっかりくたびれ果てて、巣の中に籠(こも)っている。なので、見ようによっては、鳥はいなくなったように見える。すると、鳥無き里のコウモリ(注:すぐれた者や強い者のいない所で、つまらない者がいばることのたとえ)ということが起きるのである。

 2001年のアルカイダによる本土攻撃以来、アメリカは20年に及ぶ戦争を、あのアレキサンダー大王でさえ弱音を吐いた地域で継続してきた。そして諸々の要因の重なりによって、世界を飛び回ることが困難になっている。コウモリは、「いよいよ出番だ」と腕まくりしている。

 

 「中国とインド両軍がにらみ合っているインド北部ラダック地方の係争地域で、中国軍が『マイクロ波』による攻撃を仕掛けたと中国の学者が16日までに明らかにした。攻撃を受けたインド兵は占拠地の一部から撤退し、奪還に成功したと主張している」(2020/11/16 毎日新聞)。

 本当にそうなら、それは南シナ海でも尖閣諸島でもありうることである。インド・ヒマラヤの風は冷たいが、日本周辺海域の波も高いのである。

 

【参考】

 「さまざまな予想が飛び交っているが、結果がどうなろうと、ひとつだけはっきりしていることがある。仮にバイデン氏が大統領になったとしても、米国がいきなり世界への関与を深め、かつてのような指導力を振るうわけではないということだ。いま各国にとって大切なのはこの現実に目を向け、今後の対応をより深く考えることだ。

 むろんバイデン氏が勝てば表面上は、米国が発信する政策は大きく変わるだろう。温暖化対策の国際枠組みである『パリ協定』や世界保健機関(WHO)への復帰、同盟の再生……。バイデン氏は1月20日の就任日にこれらを表明し、『米国が戻ってきた(The US is back)』と宣言するに違いない。

 しかし、世界のリーダーに求められる外交力や政治力を、米国がただちに取り戻せるとは思えない。米国は今、長い治療を要する内患に苦しんでいるからだ。バイデン陣営の幹部もそのことは分かっている。同氏の外交・安全保障ブレーンは最近、欧州の一部識者との会合でひそかにこう力説したという。『自分たちが政権を取っても、すぐに米国が世界に復帰(come back)すると思わないでほしい。新型コロナウイルスへの対応など、当面は国内の難題に忙殺される。米国が何をしてくれるかではなく、米国復帰のために何ができるか考えてほしい』。

 米国は中東やアフガニスタンで約20年、米近代史上で最長ともいえる戦争を続けてきた。米社会には戦争疲れが広がっている。米シカゴ・グローバル評議会の世論調査(今年7月)によると、国際問題に積極的に関与すべきだと考える人は68%で、2年続けて減った。外交目標の実現に極めて効果的な方法をたずねると、同盟維持は55%、軍事介入は17%にとどまる。他国への軍事支援については共和、民主両党の支持層の36~47%が減らすべきだと答えた。

 新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかける。感染による死者は22万人を超えた。ベトナム戦争の4倍に迫る人数だ。コロナ対策で、財政赤字先の大戦に次ぐ規模にふくらみ、貧富の格差もすさまじい。1%の金持ちが米株式・投資信託資産の約半分を占めるほどだ。

 米政治に詳しいラリー・サバトバージニア大教授は『南北戦争を除けば、米国はいま最も分断された状態にある』と語る。まず、この分断を癒やし、国内をまとめなければ、米国が世界のリーダー役を担うのは難しい。それには数年ではなく、十数年かかるかもしれない。

 だとすれば、少なくともその間、他の民主主義国が中心になって米国の役割を補い、秩序が壊れないよう支えていくしかない。主要7カ国(G7)のメンバーである日英独仏、イタリア、カナダといった準大国(ミドルパワー)が、まずその役目を引き受ける必要がある。

 こうした情勢を話し合おうと、日英の政治家や有識者による日英21世紀委員会は9月11~12日、オンラインで会議を開いた。約7時間にわたる議論では、次のような意見が印象的だった。

・仮にバイデン政権が生まれても外交上、米国に過剰な期待を抱いたり、性急に何かを要求したりするのは賢明ではない。

・国連機関などに米国を深く関与させるには、米国も恩恵を感じられる姿に改革する必要がある。

・それにはミドルパワーが主導的な役割を果たすしかない。

 日本は何ができるのか。日本は環太平洋経済連携協定(TPP)を主導するなど、通商分野では米国の「不在」を埋める役割を果たしてきた。米国以外の準大国(ミドルパワー)の役割が重要になる

 より課題になるのは安全保障である。インド太平洋では核保有国の中ロやインド、パキスタンがひしめき、朝鮮半島台湾海峡でも緊張が高まっているからだ。そこでヒントになるのが、政策研究大学院大学が今週まとめた提言だ。日米豪印による定例協議を首脳級に格上げし、そこに英国などを加える。米中ロ印パを含めた、インド太平洋のミサイル管理の枠組みを提唱する――ことなどを挙げている。後者の実現は簡単ではないにしても、議論に一石を投じる意味はある。

 もっとも、日本自身が防衛への投資をもっと増やさなければ、こうした提案は説得力を持ちづらい。日本が安定した防衛力を整えなければ、地域の安全保障も損なわれてしまうからだ。日本の防衛予算は国内総生産GDP)の1%程度にとどまっている。中期的に、北大西洋条約機構NATO)が基準とする2%をめざすべきだ。

 米民主党系のシンクタンク幹部は、『バイデン政権が生まれ、日米同盟の強化に動いたら、日本側はどう応えてくれるのか。防衛予算をGDP比2%に増やす用意はあるだろうか』と問いかける。米国の同盟国であるオーストラリアは向こう10年間で国防予算を1.4倍に増やす方針を決めた。現地メディアによると韓国はGDP比ですでに約2.5%の予算を3%にもっていく目標を掲げる。

 米国の一極体制が終わったといわれてから久しい。準大国が米国の指導力に頼っていればよかった休息の時代は終わった」(2020/10/29 日本経済新聞電子版・秋田 浩之)。

断章231

 「戦争は繰り返し起きている。文明が発展しても、民主政治が行われても、戦争は減らない。記録の残る過去3421年のうち、戦争がなかったのはわずか268年である。現在、戦争は人類の競争と自然淘汰の究極の形となっている。ヘラクレイトスは『戦いは万物の父である』と述べた。戦争、あるいは競争は、アイデア、発明、制度、国家などあらゆるものが生まれ出る有力な源だということである。平和は不安定な均衡状態であり、超大国が存在するか、互いの力が釣り合っていないかぎり、平和は保てない」(『歴史の大局を見渡す』)。

 

 「2020年9月27日からはじまった『ナゴルノ・カラバフ戦争』は、11月10日夜のアゼルバイジャンアルメニア、ロシアの首脳による、紛争地域での敵対行為を終わらせるための合意文書への署名でひとまず終結した。合意はアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領、アルメニアのニコル・パシニャン首相、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が署名したもので、アリエフがこの合意を『アルメニアの事実上の軍事的降伏』と呼んだように、アルメニアの敗北を強く印象づける内容になっている」(塩原 俊彦)。

 この戦争の死者は、10月23日時点で民間人を含め1,000人を超えた(プーチン・ロシア大統領の発表では5,000人近い)。ナゴルノ・カラバフの住民の半数の約7万人が難民となった。公表された動画を見れば、アゼルバイジャン側の無人攻撃機を含む航空優勢が推測できる(一部報道では、トルコ軍がアゼルバイジャンを支援して参戦した)。

 

 「インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方の国境地帯で11月13日、両国軍が過去1年で最大となる砲撃戦を繰り広げ、双方で13人以上が死亡、数十人が負傷した。当局が明らかにした。戦闘が起きたのは13日午前。双方は『正当な理由のない』攻撃を仕掛けたとして互いを非難している。住民によると、砲撃は夜になっても続いた。

 インド支配地域の多くの住民は、停戦ライン『実効支配線』から避難を余儀なくされた。一方でパキスタン当局は、同国の支配地域側でインドの砲撃により多数の民家が焼けたと明らかにした。インドの軍と警察によると、兵士4人と8歳の少年1人を含む民間人4人、計8人が死亡。また、治安部隊や民間人少なくとも12人が負傷した。

 一方、カシミール地方のパキスタン支配地域のトップを務めるラジャ・ファルーク・ハイデル氏は、激しい砲撃により5人が死亡し、31人が負傷したと明らかにした。パキスタン軍は、死者のうち1人が同軍の兵士だったと認めている」(2020/11/14 AFPnews)。

 

 「日中の安全保障上の摩擦は強まっている。日本領空に近づく中国機に対する緊急発進は高水準が続いている。飛行空域は東シナ海上空が中心で、尖閣諸島上空を所管する南西航空方面隊による対応が大半を占めた。中国は西太平洋など遠方への戦力展開を目指しており、間に位置する日本周辺での活動量の増加につながっている。2019年10~12月には毎月末に人民解放軍の情報収集機『Y-9』が対馬海峡上空を経て東シナ海日本海を飛行する動きがあった。

 中国の動きは海上でも活発だ。この11月、尖閣諸島沖の接続水域を中国当局の船が航行する日数は年間282日を超え、過去最多になった。日本の“海の国境警備”は難しい対応が続く」(NHKニュースなどから抜粋)。

 

 「中国軍制服組トップの許其亮・中央軍事委員会副主席は『能動的な戦争立案』に言及。習 近平国家主席(中央軍事委員会主席)は、米国の新政権発足後も台湾や南シナ海をめぐる緊張が続くと予想し『戦って勝てる軍隊』の実現を目指しているもようだ。

 10月下旬に開かれた共産党の第19期中央委員会第5回総会(5中総会)は、軍創設100年を迎える2027年に合わせた『奮闘目標の実現』を掲げた。目標の具体的内容は明らかではないが、5中総会は『戦争に備えた訓練の全面的強化』を確認した。

 これに関連し、許氏は今月上旬に発行された5中総会の解説書で『受動的な戦争適応から能動的な戦争立案への(態勢)転換を加速する』と訴え、中国軍が積極的に戦争に関与していく方針を示唆した。国営新華社通信によると、陸海空軍などによる統合作戦の指揮、作戦行動などに関する軍の要綱が7日に施行された。要綱は軍の統合運用を重視する習氏の意向を反映したもので、新華社は『戦争準備の動きを強化する』と伝えた。

 党機関紙・人民日報系の環球時報英語版(電子版)は、今後の軍事演習では、敵国の空母による南シナ海台湾海峡の航行阻止を想定し、海軍の潜水艦、空軍の偵察機や戦闘機、ロケット軍の対艦弾道ミサイルが動員されることになりそうだと報じた。また、人工知能(AI)などの新技術を使い米軍に勝る兵器を開発するため、軍と民間企業が連携する『軍民融合』がさらに強化される見通しだ。5中総会で採択された基本方針には『軍民の結束強化』を明記。5中総会解説書は『国防工業と科学技術の管理で軍民が分離している状況が見られる』と指摘し、国家ぐるみの兵器開発体制の促進を求めた」(2020/11/16 時事通信社)。

断章230

 「現代とは一方では、近代から継承した『自由』と『豊かさ』を尊重する社会であり、他方では、その『自由』と『豊かさ』を人為的に維持・増進するために諸種の介入・保護・誘導・統制が導入された時代でもあります。自由と介入とは一見するなら相容れませんが、これら両面を有することが現代の特徴です。矛盾する2つの原理を調和させながら、人びとの『自由』と『豊かさ』を、社会として意識的に追求してきた動態が現代という時代」(小野塚 知二)だという。

 

 すなわち、資本主義とは、頑張って働けば、豊かになれると人々に約束する社会である。それは、企業・個人が、〈市場〉(=マーケット)で競争をくりひろげるシステムである。〈市場〉が「自由で公正」であるほど、早く大きなイノベーション・生産性の向上・経済成長が実現される。

 しかし、競争とは、本質的に弱肉強食・優勝劣敗である。〈市場〉のメカニズム、〈市場原理〉の下では、没落・倒産する企業、失業・零落する個人が出てくることは避けられない。〈市場原理〉は、生産力の飛躍的な向上に大いに役立つが、その裏面は富の偏在であり富の集中なのである(光には常に影が付き従う)。

 恐慌時やバブルが破裂すれば、おびただしい倒産・失業が発生し、社会的な混乱が起きる。それを回避しようとして、国家が諸種の介入・保護・誘導・統制をするようになったのである。

 その結果は、巨額の財政赤字、政財官の癒着、既得権益の蔓延、資産バブル、格差拡大、経済停滞などであり、あるいは重税国家(デンマークの消費税率は25%、国民負担率は約70%である。なお日本の国民負担率は約50%)である。コロナ禍も相まって、世界中の国々が困難な状況に逢着している。

 

 この状況を抜け出す道は、共産主義革命ではない。

 というのは、「生々流転、無限なる人間の永遠の未来に対して、我々の一生などは露の命であるにすぎず、その我々が絶対不変の制度だの永遠の幸福を云々し未来に対して約束するなどチョコザイ千万なナンセンスにすぎない。無限又永遠の時間に対して、その人間の進化に対して、恐るべき冒涜ではないか。我々の為しうることは、ただ、少しずつ良くなれ、ということ」(坂口 安吾)だからである。

 共産主義(地上の楽園)実現の実践において、「われわれが見出したのは、第1に『否定主義』。実現されるべき肯定的なものの明確なヴィジョンよりも『とりあえず打倒』という情念。第2に『全体主義』。社会の理想の実現のために特定の政党や指導組織に権力を集中し、思想言論の統制を行なうことが必要であるというイデオロギー。第3に『手段主義』(引用者注:あるいは利用主義)。未来にある『目的』のために、現在生きている人々のそれぞれに一回限りの生を手段化する(引用者注:利用する)、という感覚である」(見田 宗介)が、それらがもたらしたものは、陰惨な全体主義支配だったからである。

 

 改革は一歩一歩着実に!

 当面、富裕層への資産課税を強化して財源を確保し、AIやICTやロボットに対応できる有意義な「科学技術教育」(さらに職業職種転換訓練)への投資を、また中低所得者層の可処分所得が増えるような実質的減税をすべきである。

断章229

 世界のコロナ感染者数は5,200万人、回復者数は3,380万人、死者数は128万人である(今なお日毎に増えている)。

 そんな中で、11月11日、日経平均株価は7営業日連続で値を上げ、バブル崩壊後の最高値を更新した(29年ぶりに)。

 

 「目下の株高については、金融緩和と財政刺激策の組み合わせによって『ジャブジャブ』に溢れ出てきたマネーが金融市場に向かっているとの指摘が多い。・・・さて今回は、普段何気なく使うこの『ジャブジャブ』という言葉にフォーカスして、実体経済と株価を読み解いていきたい。

 金融・経済の文脈で頻繁に登場する『ジャブジャブ』。もちろんこの言葉に明確な定義などないのだが、一般的には量的緩和による資金供給を表現する言葉として使われてきた。具体的には、日銀の長期国債の買い入れを通じたマネタリーベース(=日銀が世の中に直接的に供給するお金)の大幅増加である。マネタリーベースの約8割を構成する日銀当座預金は、日銀の資金供給によって『ジャブジャブ』にあふれかえった。マネタリーベースは2013年の量的・質的緩和の導入によって急激に増加した後、2016年末頃まで80兆円ペースで増加を続けた。

 もっとも、量的緩和の解釈は『日銀がおカネを大量に供給しても景気は回復せず、物価も上がらない』との評価が多数派である。資金供給を通じて民間銀行に貸出増加を促しても、そもそもの借入需要が乏しい状態では、実体経済におカネは行き渡らなかったからである。

 実際、日銀の長期国債購入によってマネタリーベースが鋭角に増加する反面、実体経済に染み出したおカネの合計であるマネーストックは緩慢な増加にとどまっていた。ゆえに量的緩和の効果は限定的であるとの理解が広く共有された。

 日銀は『マネタリーベース増加がデフレ脱却に一定の効果を発揮した』との見解を示しているが、実際のデータをみるとマネタリーベースとインフレ率の関係は実績・予想ベース共に不明確で、もちろん経済成長率との関係も希薄である。

 他方、現在の『ジャブジャブ』は本質が違う。マネタリーベース増加もさることながら、マネーストックが急増しているからである。マネーストックとは『金融部門から経済全体(金融機関保有分は含ない)に供給されている通貨の総量』すなわち、企業、家計などが保有する現預金の合計などであるから、マネタリーベースとは根本的に異なる。

 大規模な量的緩和策でも増加しなかったマネーストック(M3)はコロナ禍発生以降急激な上向きのカーブを描き、7月は前年比プラス6.5%と歴史的な伸びを示した。これは政府による家計支援策と銀行貸出の増加が主因である。このうち銀行貸し出し(≒企業の預金残高)には、資金繰り目的の『守り』の借り入れが含まれている。

 そのため危機が過ぎ去れば元のトレンドに復す性質があることを考慮する必要があるが、それでも銀行貸出(平均残高)は7月に前年比プラス6.4%と大幅に増加しており企業部門全体ではカネ余りの状態にある。また予算規模約13兆円の特別定額給付金はほぼダイレクトにマネーストック増加(預金増加)に繋がり、家計調査ベースの可処分所得は6月に前年比プラス19%と急増した。

 一口に『ジャブジャブ』と言っても、かつてのそれが主に日銀と民間銀行の間で生じたマネタリーベース増加を指していたのに対し、今の局面のそれは経済活動を担う主体(企業、家計)に直接行き渡っているという点で根本的に異なる。(中略)

 さて、マネー急増と聞いて連想するのはインフレであろう。そうした文脈で示唆的だったのは7月のアメリカ消費者物価だ。食料・エネルギーを除いた『コア消費者物価』は前月比プラス0.6%、前年比プラス1.6%と市場予想(前月比プラス0.1%、前年比プラス1.1%)を大幅に上回り、上向きのカーブに転じた。個人消費が鋭く持ち直したことで、厳格なロックダウン(都市封鎖)中に下落していた中古車(前月比プラス2.3%)、衣料品(同プラス1.1%)など広範な品目が伸びた。

 FRB米連邦準備制度理事会)が6月FOMC(米公開市場委員会)で示した物価見通しによれば、インフレ率は2020年にプラス1.9%となった後、2022年まで2%を超えず推移することになっている。しかしながら、足もとの物価の基調は思いのほか底堅く、インフレ率の上振れシナリオを想起させる。

 最後にこうした状態でワクチンの大量供給、ウイルスの弱毒化など何らかの要因で人々の予想より早期に経済が急回復する場合、どういったことが起きるのか考えてみたい。

 実体経済ではインフレ率加速が考えられる。じゃぶじゃぶに供給されたマネーが実体経済に滞留するなかで、需要が回復し、供給制約が残存すればインフレの条件が揃う。そうした中でFRBが長期の金融緩和を約束するならば、インフレの可能性はますます高まるだろう。

 通貨供給量と物価の関係は必ずしも安定的ではないが、経済活動再開の進捗にしたがって、これまでのインフレ基調が上方乖離するシナリオも考えられる。こうした状況は程度の差こそあれ、日本も同様である。

 金融市場では、政策当局が引き締めに動けず、『コロナバブル』とも言うべき状況が到来する可能性がある。すでに資産価格は実体経済対比で大幅に上昇しているが、だからといって失業率が十分に低下する前に金融引き締めに転じたり、緊縮的な財政政策に舵を切ることは現実の世界では考えいくい。

 日米の政策当局は資産バブルのリスクを認識しつつも、それに目をつぶり、景気刺激的な政策スタンスを維持するだろう。現在、一般的に広く共有されているメインシナリオはコロナ禍が長期化するなかで『景気低迷が続き、デフレ圧力が強まる』といった具合である。しかしながら、こうした逆のシナリオも一考の価値がある」(2020/09/02 東洋経済・藤代 宏一の記事を引用・紹介)。

 

 そして、どうなるのか?

 「景気は悪いが、株式市場だけが国家公認の賭博場として賑(にぎ)わっている。ばら撒いたカネはいずれインフレ、増税、通貨切下げなどで減価していくだろう。

 『信用拡大でもたらされた好景気は、結局のところ崩壊するのを避ける手段がない。残された選択肢は、さらなる信用拡大を自ら断念した結果、すぐに訪れる危機か、ツケを積み上げた結果、いずれ訪れる通貨制度を巻き込んだ大惨事かだけである』(ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス)」(by 石原 順)。

 但し、この「いずれ」が何年先かは、誰にも分からないのである。

断章228

 「戦前エリートはなぜ劣化したのか」という問いに対して、日露戦争後に「慢心と油断が生まれた。これが日本という小国のエリートにとって、死活的に重要な感覚を失わせてしまったといってよい。それは、時とともに変わっていくもの、すなわち国家を取り巻く環境の変化を捉える鋭敏な感覚である。日本は周囲の状況に上手に対応して、舵をとって行かなければ、沈没してしまう(引用者注:例えば、食糧さえも自給できていない)。周囲の状況の変化をつぶさに観察し、感じ取る能力が、とりわけ必要とされるのは、そのためであるが、その感覚がおとろえた。では、近代日本にとって、時とともに変化する環境とは、何か? それは今も昔も国際情勢と科学技術である。第3期(引用者注:昭和戦前期の)エリートは、それらに対する鋭敏な感覚を失ってしまった」と、磯田 道史は言う。

 蒸気船や蒸気機関車を見て、欧米の先進科学技術を学び取り入れなければ、日本は植民地にされるとの必死の思いは、明治維新後30年ほどでゆるんでしまったのだ。

 

 平成日本のエリートは、戦後日本の安定と繁栄による“慢心と油断”によって、昭和戦前期エリートと「同じ轍(てつ)を踏んだ」。国際情勢と科学技術に対する鋭敏な感覚を失ったのである。

 その結果は、第一に、韓国の世界的な「反日プロパガンダへの反撃の遅れであり、第二に、先端科学技術への立ち遅れである。「20年かけて政府が積み上げて来たIT戦略やITインフラは新型コロナ対策で全く役に立たなかった。まさにデジタル敗戦だ」(平井 卓也デジタル庁大臣)なのである。

 

 しびれを切らして、ついに自ら乗り出した経営者もいる。

 「4月3日、京都市内で行われた京都先端科学大学の入学式。日本電産CEOで同大運営法人の理事長である永守重信氏は、既存の大学教育への問題意識と大学改革についての思いを、集まった約2500人の新入生と保護者に訴えた。

 京都先端科学大学は4月1日に名称を京都学園大学から変更した。2018年3月に永守氏が大学を運営する学校法人京都学園(現・永守学園)の理事長に就任。100億円を超える私財を投じ、同大の改革を推し進める。

 永守氏が大学教育に一石を投じる背景には、今までの大学教育で『期待する人材がまったく出てこなかった』ことがある。永守氏は具体的な不満を次のように例示した。 『(大学を)卒業しても英語も話せない。経済学部を出ているのに、企業の経理に回されても決算書さえ作れない』。

 さらに永守氏は『多くの企業家はそんな人材を生み出す今の大学教育に失望している』『今の大学は偏差値とブランド主義に凝り固まっている』などと述べ、大学教育がいかに社会の変化に対応せず名ばかりになっているかを指摘した。

 今年度から京都先端科学大学では、学生の実践的な英語力向上のために通信教育大手ベネッセグループ傘下の外国語学校『ベルリッツ・ジャパン』から講師を受け入れる。2020年度には工学部の設置を計画しており、京都市内にある太秦キャンパスでは新学部向けなどの新校舎が建設ラッシュだ。

 永守氏はさらに日本電産の主力製品であるモーターについても言及。これからエンジンではなくモーターがさらに必要となる電気自動車時代を見据えて、『日本電産は世界最大のモーターメーカーだが、そのモーターの技術を学べる大学はどこにあるか』と大学の教育カリキュラムが実需に合っていないことも指摘した。設置を計画する工学部でもモーターを学べるカリキュラムを用意する予定だ」。

 さらに、「永守重信会長兼CEOは17日、自身が運営法人の理事長を務める京都先端科学大学のビジネススクールについて2022年にも開校する方針を示した。

 自身が『塾頭』に就任し、社内外から受講生を受け入れる。技術者出身の経営者を養成する。日本電産株主総会やその後の記者会見で構想を語った。永守氏は『日本では技術者が経営のことを知らない。技術系の人が将来、社長やCEOになれる経営を教える。“永守起業塾”をつくる』と述べた。場所はJR京都駅前を想定し、仕事を終えた受講生らが帰宅前に学ぶかたちを検討する。

 永守氏は1月の講演会でビジネススクールを開設する構想を公表していた。さらに医学部や小学校、中学校、高校を設ける考えも明らかにしている」(2020/06/18 日本経済新聞)。

断章227

 差し当たり、今冬の失業者に10万円の給付を。さらに、プログラミングなどを無料学習できる学校、訓練校コースなどの建設・拡充を急げ。

 

 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」とも言うが、凡そ、「勝ちには勝つ理由があり、負けには負ける理由がある」ものである。そして、勝つ理由のほとんどは、オーソドックスなもの(正道)である。

 それは、国家としての「勝者」と「敗者」を分けたものは何だったのかを探った『強国論』の結語が、「たゆまぬ努力が必要、奇跡など起こらない、完璧などありえないし、千年王国も天啓もありはしない、懐疑的な信念を持ち、独断を避け、注意深く耳を傾け、目をこらし、目的を明らかにし、手段を選ぶことが大切」(David・ S・ Landes)だと言うことからも明らかであろう。

 ―― 「正道(せいどう)」とは、自分にとって正しいということだけではなく、天に恥じることのない、人間として生きるべき正しい道という意味。「人間として何が正しいか」という極めてシンプルなポイントに判断基準を置き、それに従って正しいことを正しいままに貫いていく。つまり、嘘をつくな、正直であれ、欲張るな、人に迷惑をかけるな、人には親切にせよ。人間として守るべき当然のルール、「当たり前」の規範に従いつつ、日々努力を継続することである。

 これは、素朴な「処世訓」にすぎないように見える。しかし、「最初の素朴な見方は、概して後の時代の形而上学的な見方よりもヨリ正しい」(エンゲルス)とは、こうした「世俗の知恵」についても言えることなのである。

 

 もし、「雨にも負けず 風にも負けず 雪にも夏の暑さにも負けないで」まっとうに、オーソドックスに「正道」を貫いて生きてきたが、思いがけないコロナ禍により失業し、「刀折れ矢尽き(かたなおれやつき)」て暮らしに困窮する国民がいれば、それを助けることは、日本国家の、日本の政治家としてのミッションである(ちなみに、2020年分の政党交付金の総額は317億7368万円である)。