断章506

 天災は、大混乱・大波乱・大変化の契機になる。しかも、まるで平仄を合わせるかのように、天災と人災の生起には奇妙な一致がある。

 新春早々、ジャーナリスト・石 弘之は言う。

 「地下のマグマが一気に地上に噴出し、壊滅的な被害や寒冷化を引き起こす超巨大噴火は『破局噴火』と呼ばれる。世界中には大噴火の過去をもつ大火山が分布しており、万が一噴火すれば、地球全体に影響がおよび、その地域では住民の大量死、さらには深刻な寒冷を引き起こしかねない。

 では、今後起きるかもしれない破局噴火はどこにあるのか? 

 もしも最悪の破局噴火が起きるとしたら、その最有力の候補は『地上最大の活火山』といわれるアメリカのイエローストーン国立公園だ。世界初の国立公園に指定され、世界自然遺産に登録された世界で最も人気の高い国立公園の1つだ。カルデラを中心に広がる8991平方キロの公園は、あちこちで噴気が上がり熱水のプールが点在し、観光名所の間欠泉が1~2時間ごとに熱水を噴き上げる。草原では、バファロー(アメリカ野牛)やワピチ(大型のシカ)がのんびり草をはんでいる。

 これまで、約210万年前、約130万年前、約64万年前の計3回、破局噴火を起こした。

3回目は比較的小規模だったが、それでも巨大噴火の代名詞でもある1883年に起きたインドネシアのクラカタウ噴火の50倍の規模があった。噴火の周期は約60万年で、最後の噴火からするとその周期を迎えている。地下1500メートルほどの浅い地殻に、この公園の面積に匹敵する巨大な『マグマ溜まり』があって刻々とエネルギーをため込んでいるとみられる。(中略)

 イエローストーン国立公園が噴火した際には、人類の存亡の危機になると火山学者から警告されている。それは最大10億人の命を奪い、北米大陸を荒廃させる可能性がある。英国の科学者によるシミュレーションは、もしもイエローストーン国立公園で破局噴火が発生した場合、火砕流だけでも雲仙普賢岳噴火の1000万倍以上になり、3~4日以内に大量の火山灰がヨーロッパ大陸にまで運ばれる。

 火山から半径1000キロ以内に住む90%の人が有毒ガスや火山灰で窒息死し、地球の年平均気温は10~12℃下がり、寒冷化は6~10年つづくと考える研究者もいる。『世界のパン籠(かご)』といわれるアメリカの農業地帯は崩壊することになる」。

 「(あるいは)日本国内では、巨大カルデラ噴火を起こした火山は7つあり、そのうちの4つが九州に集中している。なかでも最大のものが、熊本地震で活発化が懸念される、阿蘇カルデラだ。神戸大学教授の巽 好幸は『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』のなかで、阿蘇山破局噴火した場合、2時間ほどで火砕流が700万の人々が暮らす領域を焼き尽くす、火山灰が日本列島を覆い、北海道東部と沖縄を除く全国のライフラインは完全に停止する、と断言する。

 日本列島では、これまで何度も富士山の宝永噴火の1000倍以上のエネルギーを放出する巨大カルデラ噴火を経験してきた。国内で最後に起きた巨大カルデラの鬼界噴火は、7300年前の縄文時代に遡る。

 プリニー式噴火であるこのカルデラ噴火は、数十キロの高さにまで巨大な噴煙柱が上がり、周囲から取り込んだ空気が熱で膨張するため噴煙はさらに勢いを増していく。大量のマグマが噴出したことで空洞ができ、それが陥没してカルデラができる。火砕流が発生した場合には、その速度は時速100キロを超えることもあり、付近の谷を埋め山々を乗り越えていく。

 九州の広い面積が焼き尽くされた後、中国・四国では空から火山灰が降り注ぎ、昼なお暗くなるだろう。そして降灰域はどんどんと東へと広がり、噴火開始の翌日には近畿地方へと達する。大阪では火山灰の厚さは50センチを超える。とくに雨が降れば火山灰の重量は約1・5倍にもなり、木造家屋はほぼ全壊する。さらに、首都圏でも20センチ、青森でも10センチもの降灰が予想される」。

 「かつて『世界第2の経済大国』として国際社会で畏敬された日本は、今や『衰退途上国』とさえ呼ばれるほどの経済の低迷がつづいている。豊かさを示す指標となる『1人当たりGDP』(市場為替レートによるドル表示)では、2021年には世界の30 位にまで低落した。2000年にはルクセンブルクに次ぐ世界第2位で、第5位のアメリカよりも高かったのに。

 かつては高い技術力を誇ったが、新型コロナウイルスの国産ワクチンは流行に間に合わず、累計1兆円の開発費を投じながら、国産ジェット旅客機はついに日の目をみなかった。30年前に日本の半導体ICの世界市場シェアは50%を支配していたのが、2020年には6%にまで落ち込んだ。2020年版『世界競争力ランキング』によると、世界主要63ヵ国・地域のなかで日本は34位で、過去5年間で最低順位に落ち込んだ。

 国債発行額は過去最高に積み上がり最悪の財政状態にある日本が、もしも大災害に直撃されたら直接的な被害だけでなく『経済破局』を招かないだろうか」(以上は、2023/01/02 東洋経済オンライン記事を再構成)。