断章136

 次は何か? すでに警告は出されている。

 「スイスの製薬会社ノバルティスのバス・ナラシムハン最高経営責任者(CEO)は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大について、第1波は数カ月以内に収束する可能性が高いが、世界は第2波に備える必要があると、スイス紙のインタビューで語った。

 同CEOは『パンデミック(世界的大流行)には波がある。従って、試験やデータ収集を続けることが重要だ』と述べた」(2020/3/30 ブルームバーグ)のである。

 不吉な前例もある。

 「アメリカのウイルス学者で生物兵器の第一人者とされるスティーブン・ハットフィル博士によれば、世界の3大パンデミックとは①6世紀に東ローマ帝国を襲った『ユスティニアヌスのペスト』 ②14世紀の『黒死病』、そして③20世紀になっての『スペイン風邪』とのことである。(中略)

 元々は鳥インフルエンザスペイン風邪には3段階があったという。最初のフェーズ(段階)はカンザス州でアウトブレイクが始まり、高齢者を中心にアメリカ内で拡大した時期。驚いたことに、この頃は比較的症状は軽く、致死率は低かったという。

 そしてセカンドフェーズ。ここで致死率が一気に上がった。ウッドロー・ウィルソン大統領が第1次世界大戦への参戦を決め、南北戦争以来、50年以上も徴兵がなかったアメリカでは、欧州戦線へ送られる大勢の兵士が国内の数カ所に集まって集中軍事訓練を受けた。その際兵士の間で感染が広まり、米兵はウイルスといっしょに欧州へ派遣された。

 博士によると、その時のメカニズムはまだ解明されていないが、そこからスペイン風邪のウイルスは激変したという。致死率が高まったウイルスは世界に広まり、皮肉だがそれが戦争を終わらせるのに役立った。そして最後のフェーズでは、帰還した兵士が強くなったウイルスをアメリカ内にまき散らした。結果、ボストンからフィラデルフィアで50万人を超える死者をだした。同博士は、今回のコロナウイルスが、スペイン風邪のパターンになることを最も警戒しているという」(2020/02/03 東洋経済・滝澤 伯文)。

 

 滝澤 伯文が言うように、「3大パンデミック(疫病の世界的な大流行)は、『ユスティニアヌスのペスト』ではアフリカからの商品がコンスタンチノープルになだれ込んで商売が盛んになった後。『黒死病』ではマルコポーロの見聞録が口述で広まり、シルクロードが活況を呈した後。そして『スペイン風邪』はアメリカへの移民が拡大した時期と重なる。つまり、3大パンデミックはグローバリゼーションの避けられない副産物である」なら、新型コロナウイルスが一段落しても、グローバリゼーションが従前どおりに回復・継続する限り、また恐ろしい感染症(例えば、エボラ出血熱ウイルスとか)が広がることは、ありうることである(注:中国はハクビシンなどを食べることを禁じたが、禁じられれば余計に食べたくなるのも人のサガであろう)。

 

 だとすれば・・・、

 第一に、教育現場で幼児・生徒・学生に対して、感染症の危険について、より周知徹底を図らなければならない。感染症拡大中の外国に安易に旅行したりしないように。

 第二に、マスクのような安価な用品は主に中国で生産されていたので、サプライチェーンの寸断によって、日本国内で一気にマスクが払底したことの教訓を生かして、自治体や大病院は、感染症対策のマスク、ゴーグル、手袋、シューズカバー、防護服を便利なパッケージ形式にした感染症対策キットを備蓄しなければならない。

 第三に、医師会は、医師・看護師に感染症対応の訓練を定期的に施さなければならない。

 第四に、国は、国立感染症研究所(附属病院)を圧倒的に強化拡充し、自衛隊の防疫除染能力を拡大強化し、「病院船」を建造・運用しなければならない。

 

【補】

 「世界最大の病院船である米海軍のマーシー級だが、自衛隊医官による病院船に関する論文の中で、マーシー級について『病院船における戦艦大和か』と医官が発言し、少なからぬ艦艇部隊関係者から賛同を得たという話がある(『防衛衛生』2000年4月)。大きすぎる、遅すぎる、費用対効果が悪すぎる、という観点からだ。

 新型コロナウイルスの世界的流行は未収束であり、その対応も各国とも手探りの状態で、マーシー級ら病院船活用の教訓も出ていない。本当に感染症対策に活用できる病院船を建造したいなら、今は研究と知見の集積を待つべきではないか。

 現在、専用の病院船を持つ国は、筆者が知る限り空母を運用する国よりも少ない(離島を巡る非軍用の小型の病院船を除く)。現在の海上自衛隊もそうだが、大型艦や支援艦艇に手術室を備えるなど、病院機能を併設するか増設可能な形で済ます国が多い。空母以上に希少な船を保有するのなら、もっと慎重であるべきだろう。

 なにより、感染症対策を謳うなら、平時からの感染症情報の収集・研究の要である、国立感染症研究所の機能強化が先に来るのが筋と考えるが、病院船に関しては超党派議連が2つも立ち上がっている反面、こちらの動きは明らかに鈍い。病院船1隻の建造費は規模にもよるが数百億はかかるが、現在の感染症研究所の年間予算は100億にも満たない。感染症対策を名目にするなら、やるべきことは別にあるだろう。

 仮に自衛隊が将来遭遇する可能性のある有事を想定するなら、病院船導入よりも搬送システムの高度化、各地の自衛隊病院の能力拡充といった施策の方が、自衛隊にとり費用対効果が大きいと考える。感染症対策に限っても、今回のコロナ禍において、武漢からのチャーター便帰国者や、ダイヤモンド・プリンセス号の患者約260名を受け入れた自衛隊中央病院が高く評価されたことからも、そちらの方が効果は高いだろう」(2020/5/15 文春オンライン・石動 竜仁から抜粋・再構成)。

 

【参考】

 「日本は海に囲まれた島国で地震大国だ。大地震や大津波で多数の犠牲を出してきたし、これからも必ず起きる。それに備えるために『災害時多目的支援船』つまり病院船が必要だ。東日本大震災などで経験したように、大災害時には鉄道や道路などの陸上交通は寸断される。どうしても海からの支援を考えなければならない。その時に内科、外科などの診療科目を備えた『海に浮かぶ総合病院』が役に立つ。

 今回の新型コロナウイルスのような感染症にも対応できる。トイレなどを備えた個室を完備し患者の隔離を可能にする。はじめから隔離を前提に造られ、医療スタッフが完備した病院船があれば、たとえば今後、クルーズ船などで感染症患者が発生した際にも移乗させて隔離できるし、患者も安心できる。

 さらに原発事故などの場合の除染機能も必要になるだろう。日本の原発はすべて海沿いにある。これからも大地震や大津波に伴う原発事故が起きないとは断言できない。その備えも必要だ。

 米海軍が所有している病院船を視察したことがある。約7万トンで1000床ある。強力な自家発電設備があり、医療廃棄物を処理するための焼却炉もあった。海水を淡水化して生活用水を確保する設備まであった」(2020/3 毎日新聞での衛藤征士郎氏・談による)。

 

【参考】

 「新型コロナウイルスの集団感染が発生したクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』の対応に、防衛省は延べ約2700人の自衛隊員を投入したが、感染者を一人も出さずに約1カ月の活動を終えた。多数の陽性患者を受け入れた各地の自衛隊病院でも院内感染は確認されず、自衛隊幹部は『最高レベルの防疫態勢をとった。他省庁よりもウイルスへの警戒は徹底していた』と説明する。自衛隊は2月6日からクルーズ船で医療支援や船内の消毒、患者輸送などの支援を開始。乗客乗員の下船が完了した3月1日まで活動を続けた」(2020/3/21 KYODO)。