断章493

 「要するに、啓蒙思想家たちのすばらしい約束にくらべて、『理性の勝利』によってつくりだされた社会的かつ政治的な諸制度は、苦い幻滅的な戯画であることがわかった」(エンゲルス)。

 

 1962年12月4日の日本共産党機関紙『アカハタ』の「主張」は、次のようなタイトルと書き出しだった。

 「マルクスレーニン主義の革命的立場を堅持しよう

 モスクワ声明の2周年にあたって

 1960年12月はじめ、わが党の代表団も参加した世界各国共産党・労働者党代表者会議が全員一致で採択したモスクワ声明を発表してから、2年たちました。また、モスクワ声明の基礎になったモスクワ宣言が発表されてからすでに5年たっています。この間の国際情勢の発展およびわが党の活動の経験は、これらの文書にのべられている基本的な命題がまったく正しいことを証明しています。

 モスクワ宣言とモスクワ声明がのべているように、今日の時代における世界史の発展のおもな内容、方向、特徴を決定する原動力は、もはや帝国主義ではなく帝国主義に反対する勢力です。

 ソ連や中国をはじめとするアジアとヨーロッパの社会主義国があらゆる分野でひきつづいて発展しているというだけではありません。アメリカ帝国主義の鼻のさきのキューバでも、民族民主革命が勝利し、すでに社会主義革命の旗が高だかとかかげられています」。

 

 それから57年後のキューバは……、

 「カリブ海社会主義国キューバで実施された憲法改正を巡る国民投票で同国の選管当局は25日、賛成票が約87%に上り、承認されたと発表した。改正案はカストロ兄弟後の政治体制を見据え、大統領職や首相職を創設し権力分散を図るとともに私有財産を認め、外国投資も重視する。ただ共産党の一党支配や社会主義体制は変わらない。

 憲法改正は2018年4月に国家評議会議長を引退したラウル・カストロ氏が推進役となって、共産党内部で検討が進められてきた。将来的な政治体制を見据えるほか、自営業者の増加や外国投資の積極的な受け入れといったすでに実行している経済政策に関して改めて承認してさらなる自由化を促進する。

 ただ今回の国民投票でも自由な選挙活動は認められなかった。街中の建物や公共交通機関には『私は賛成票を投ずる』『賛成だ』などと書かれたポスターが貼られた。投票所ですら入り口などに賛成を呼び掛けるポスターが掲示された。南北のアメリカ大陸諸国で構成する米州機構OAS)のアルマグロ事務総長は『独裁政権下の国民投票は詐欺だ』と批判した」(2019/02/26 日本経済新聞)。

 そのキューバの大統領は、モスクワを訪問し、「11月22日、プーチン大統領と会談して関係の強化を確認し、共に制裁を受けるアメリカをけん制しました。

 プーチン大統領『私たちは常に様々な制限、禁輸、封鎖などに反対していた。国際社会でロシアは常にキューバを支持してきた』。

 これに対して、ディアスカネル大統領は、ロシアによるウクライナ侵攻とウクライナ4州の『併合』を支持した上で、『キューバ危機』から続くアメリカの制裁を批判しました。

 会談に先立ち、両首脳は、故・カストロ議長像の除幕式に出席しました」(2022/11/23 読売テレビnews)。

 

 つまり、マルクスレーニン主義者たちはすばらしい約束をするが、「社会主義の勝利」によってつくりだされる政治的社会的制度は、苦い幻滅的な赤色全体主義体制 ―― 私有財産を認め、外国投資も重視する。ただ共産党の一党支配や社会主義体制は変わらない ―― であることがわかる。

 

【参考】

 1956年のソ連共産党第20回党大会における“スターリン批判”と“平和共存政策”の提唱以後、ソ連共産党中国共産党はギクシャクした(本当の原因は、中国の核開発に対してソ連が非協力だったこと)。

 当初中国共産党は、このフルシチョフの新路線を非難せず、むしろ、ソ連共産党第20回党大会のあと、1956年にポーランドおよびハンガリーで動乱が生ずるや、積極的に取りまとめ役を買って出た。その後両党の間で意見を調整して妥協が成立。1957年の「モスクワ宣言」で社会主義諸国の団結が表明された。