断章483

 ユルゲン・コッカが言うように、わたしたち庶民の暮らし向きと〈自由〉は、資本システム(資本制的生産様式)の発展と拡大を基盤として改善されてきた。たとえそれが、資本主義的発展の過程において徐々にしか実現されず、周知の通り、19~20世紀に繰り返した恐慌と戦争によって中断され、かつ諸戦争や独裁のなかで大量の強制労働によって繰り返し逆転されてきたとしても、昔の奴隷制や身分制の軛(くびき)から解放され、過酷で短命だった庶民の暮らし向きは改善され〈自由〉も拡大されたのである。

 資本システム(資本制生産様式)は、経済のエンジンとしては、他のいかなる経済エンジン(旧・ソ連のような官僚計画経済を含む統制経済)よりも格段に優れている ―― 内燃機関蒸気機関よりも優れているように。だから、ソ連は崩壊し、中国は“改革開放”し、軍政各国もやがては民政(自由市場経済)に席をゆずるのである。

 なぜなら、〈飽くなき欲望〉という人間(ヒト)の普遍的本質ともっとも親和的なシステムは、資本システムだからである。

 

 そして、「この数十年というもの、私たちは飢餓と疫病と戦争を首尾よく抑え込んできた。もちろんこの3つの問題は、すっかり解決されたわけではないものの、理解も制御も不可能な自然の脅威ではなくなり、対処可能な課題に変わった」(『ホモ・デウス』、邦訳2018)と思ったのである。

 しかし、長年走りつづけていれば、メンテナンス(ときにはオーバーホール)が必要になるだろうし、故障もするだろう。

 エマニュエル・トッドの新著『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』の帯には、「今なぜ世界は大混乱なのか」とある。

 危機は避けがたいようである。わたしたちは否応なく、大混乱・大波乱・大変化の一時代と向き合わなければならないようである。

 

 アメリカの格差と分断は激しく(富裕層は城塞のように警備された街区に住んでいるらしい)、アメリカは“内戦”の危機にあるという人もいる。

 しかし、オバマの賢人こと、ウォーレン・バフェットは、「今から80年前の1942年3月11日、私はシティーズサービスの優先株を3株購入し、初めてその熱意を示した。その時の費用は114.75ドルで、私の貯金をすべてつぎ込む必要があった。その日のダウ平均株価は99ドルであった。決して米国の成長には逆らってはならない」と、泰然と構えている。ちなみに、直近のダウ平均株価は、32,403ドルである。

 

 「悲観主義者はあらゆる機会の中に困難を見いだす。楽観主義者はあらゆる困難の中に機会を見いだす」(チャーチル)。

 

【参考】

 ウォーレン・エドワード・バフェットは、アメリカの投資家、経営者、資産家、慈善家である。世界最大の投資持株会社であるバークシャー・ハサウェイ筆頭株主であり、同社の会長兼CEOを務める。

 バフェットは幼い頃からビジネスを始めていた。祖父からコーラを6本25セントで購入し、それを1本5セントで売ったり、ワシントン・ポストの配達のアルバイト、ゴルフ場のボール拾い、競馬の予想新聞の販売などを行っていた」(Wikipediaから)。