断章75

 中国は、ますます厚かましく行動するようになっている。

 「領有権論争をめぐって緊張が続く南シナ海の周辺で、中国が強気の行動を繰り返している。フィリピン国軍は8月14日、中国海軍の軍艦計5隻が7月と8月にフィリピンの『内海』に位置するシブツ海峡を無断で通航したと発表した。

 シブツ海峡は国際航行に利用されており、あらゆる国の船舶は沿岸国の平和や秩序を害さない限り、他国の領海を通告や許可なしで航行できる『無害通航権』を有している。ただし軍艦の場合は沿岸国に事前に通告するのが慣例で、中国はその慣例を守っていなかった。

 しかも、中国の軍艦はレーダーで探知されないよう自動識別装置のスイッチを切っていた上に、直線でなく曲線の航路を取ったことから『無害』とは言えないと、フィリピン国軍は主張している。

 中国の軍艦がフィリピン領海に通告なしで侵入するのは今回が初めてではない。7月22日には駐フィリピン中国大使のチャオ・チエンホアがロレンザーナ国防相に対し、軍艦が通航する場合は事前通告を行うよう中国海軍に指示する、と約束したばかりだった」(2019/8/22 ニューズウィーク誌)。

 

 「米国務省のオルタガス報道官は8月22日、声明で、中国がベトナムの主張する南シナ海排他的経済水域EEZ)で、石油やガス開発への妨害行為を続けていると指摘し、『深い懸念』を表明した。その上で、『中国の海洋紛争の平和的解決への取り組みに重大な疑問が生じている』と警告した。

 オルタガス氏は、中国が8月13日、政府所有の調査船に武装した船舶を同行させ、ベトナム沖の海域に展開したと説明。また、中国は過去数週間、東南アジア諸国連合ASEAN)加盟国の経済活動への干渉を繰り返し、外国の石油、ガス企業との提携を打ち切り、中国国営企業とだけ協力するように強要していると非難した」(2019/8/22 時事通信)。

 

 2019年9月22日付けの日本経済新聞・社説を読むべきである。

 「中国とロシアが軍事面の連携を強めている。両国には軍事的協力のアピールで米国をけん制する狙いがある。ただ、こうした動きは米国と中ロの緊張を高めるばかりか、北東アジアや日本の安全保障にも深刻な影響を及ぼす。強く警戒すべきだ。・・・中ロ両軍は6日間にわたってロシア南西部で大規模な軍事演習を実施した。・・・中ロの大規模な軍事演習は2年連続である。

 中国は2年前の共産党大会で中国軍の『現代化』を基本的に実現するメドを2035年とした。『世界一流の軍隊』をつくり上げる時期に関して、従来計画の21世紀半ばより15年も前倒しする重大な変更だった。

 南シナ海の軍事拠点化に代表される中国の軍拡志向は、米国の強い警戒心を呼び覚まし、対中圧力が強まる原因になった。技術覇権争いを含む米中貿易戦争がエスカレートした裏には、中国の習近平政権の強硬姿勢がある。

 中国は今夏、4年ぶりに国防白書を発表した。目を引くのは協力相手として唯一、国名を挙げたのがロシアだった点だ。昨秋、極東やシベリアで実施した軍事演習『ボストーク(東方)2018』への中国軍の初参加にも触れた。

 『強軍路線』を掲げる習政権は、軍事的応用も可能な技術開発を巡る中ロ協力も視野に入れている。中国の李克強首相は、先の中ロ定期首相会談で人工知能(AI)、ロボットなどハイテク分野の協力推進で合意した。

 長い蓄積があるロシアの軍事技術に中国のハイテク開発の能力が加われば、米国にとって大きな脅威になり、緊張が一気に高まりかねない。(中略)

 一連の動きは日本の安全保障環境にも大きな影響がある。中ロ両軍の空軍機は日本海東シナ海の上空で初の合同パトロールを実施した。日本としては重大な変化の背景を十分、分析し、同盟国である米国と緊密に連携しながら対策を立てる必要がある」。

 

【参考】

 「南シナ海では、中国と東南アジア諸国などが領有権を争っている。中国が7つの礁を人工島に変え、軍事拠点化を進めていることを各国は恐怖の目で見つめてきたし、フィリピンとは漁業や資源探査、軍事演習などをめぐっても紛争が絶えない。

 リード堆と、フィリピンが前哨基地にしているセカンド・トーマス礁ではこれまでも、中国船がフィリピンの軍艦や民間船舶を妨害してきたと、AP通信は報じている。

 しかもフィリピンが西フィリピン海と呼ぶ海域については、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が2016年に、中国ではなくフィリピンの排他的経済水域だという判決を下している」(2019/6/14 ニューズウィーク誌)。