断章157

 統治者には、義務がある。

 「統治者の第1の義務、つまり、他の独立した社会による不当な力の行使や侵略からその社会を防衛するという義務は、軍事力という手段でしか遂行できないものである」(アダム・スミス国富論』)。

 

 「中国が弾道ミサイルの開発や運用訓練のため昨年1年間で計百数十発を発射していたことが29日、分かった。米軍の早期警戒衛星などが探知した。複数の関係筋が明らかにした。主に内陸部で行われており、発射数は米国やロシアと比べて突出。日本を射程に収めるミサイルも多数含まれる。中国が質量ともにミサイル戦力の増強を図っていることが裏付けられた。

 中国は発射数を公表しておらず、実態はほとんど分かっていなかった。

 日米は、中国が大陸間弾道ミサイルICBM)の多弾頭化などで米国に対する核抑止力の向上を図る一方で、中距離戦力の強化に特に力を入れているとみて警戒している」と、共同通信が伝えたのは、2月のことであった。

 さらに、「中国海警局艦艇による沖縄県尖閣諸島周辺の領海、接続水域への侵犯は4月中旬から1日も休むことなく5月末日まで48日間連続した。この中には、5月8日、9日に発生した魚釣島の日本領海で操業中の日本漁船への追尾事件も含まれる」。

 

 この5月19日に「注目すべき報告書が米国でに発表された。米国の有力研究機関CSBA(戦略予算評価センター)が、日中海軍力を比較した『日本に挑戦する巨竜:日本の海洋パワーに対する中国の見解』と題する95ページの報告書が発表された。

 CSBAは、無党派の独立研究機関で、米国の安全保障に関わる戦略と予算に関わる方針について提言する研究機関、ホワイトハウスの政策立案に大きな影響力を持つ(本報告書は、5月19日付けサンケイ紙にワシントン駐在客員特派員古森義久氏の記事として紹介された)。

 その後5月27日には中国共産党機関紙、人民日報系の『環球時報』が、本報告について報道をしている。

 この10年間で中国の海軍力は、日本海自衛隊の戦力をその総トン数とミサイルを含む総合火力で大きく上回るようになってきた。海軍力で中国が日本を凌ぐようになるのは、地域の戦略上好ましいことではない。これで両国の海洋戦略は一層緊張を深めることになり、この傾向が続けば日本の海洋における抑止力は今後10年でその力を失うことになる。そうなれば米国は同盟国としての責任を果たせなくなり、日米間では安全保障問題で軋轢が生じるようになろう。

 この報告書で著者は、中国側が如何にして日中両国の海軍力のバランスを覆してきたか、その経緯を述べるとともに、中国側は数年以内にその差を一層拡大できると自信を深めている、と述べている。さらに中国は優勢な海軍力を背景に、政府高官や軍幹部は、日本に対し尖閣諸島沖縄本島を含む海域での紛争に関し、ますます攻撃的・挑発的発言をするようになっている、と警告している。著者は、日中間の海軍力の不均衡をこのまま放置すれば、日米同盟の緊張が高まり、アジア全体に不安定さをもたらす、と主張。日米両政府・特に日本に対し、中国海軍力の増強を直視し、迅速に行動を起こし海軍力のバランスを復元すべし、と警告している。

 注:日本の防衛費は年間500億ドル(5兆円規模)で1990年から昨年まで殆ど変わっていない。中国は300億ドルから増やし続け2000年頃から年率10 %の割合で急激に増加、2019年には2,500億ドル(25兆円)に達し、日本の5倍の金額を軍事力増強に注入している。

 注:海自が配備している『90式』対艦ミサイルは、亜音速で射程は150 km。これに対し中国海軍が『052D型』(旅洋III級)および改良型『055型』駆逐艦に搭載する巡航ミサイル「YJ-18」は亜音速だが射程は530 km に達し、しかも着弾直前の段階では超音速で飛行する。このように巡航ミサイルの性能面での彼我の差は拡大を続け、さらに運用する艦艇の数でもその差が拡大している。『055型』は12,000 トンの大型艦で3隻が就役済み、5隻が建造中、2023年には8隻体制となる。既報したが『052D型』(旅洋 III)は7000 トン級、12隻が就役済み、建造中と合わせると23隻になる。これでイージス艦相当の中国艦は、海自の8隻体制の4倍、31隻になる」(2020/06/01 TOKYO EXPRESS・松尾芳郎を要約紹介)。

 

 中国やアメリカ、イスラエルなど(韓国もだ!)は、最新鋭のAI兵器やLAWS(自立型致死性兵器システム)の開発を強力に推進している。ところが、日本政府は、新兵器開発に絶望的に立ち遅れた旧・日本軍のひそみにならったかのように、愚かにも、「AI兵器やLAWSを開発しない」と明言している。そうして、自衛隊員の安全を、ひいては日本国民の安全を裸の危険にさらしているのである。