断章370

 「前衆院議員の辻本清美氏が12日、ネット番組『ポリタスTV』に生出演。衆院選で落選した理由などについて分析した。立憲民主党の副代表だった辻元氏は、(中略)落選の理由について問われ、『維新が大阪で非常に強くなってきた。“風”ということだけではなく、大阪で圧倒的な権力を持っていた』と維新の圧倒的な強さに屈したと一つ目の敗因を挙げた。一方で、『(アメリカの)トランプの現象見てて、ちょっと維新と似てるんじゃないか、と思った』とも口にし、『維新は攻撃することによって、憎悪を煽って、自分たちの勢力を作っている』と批判した」(2021/11/12 デイリー)らしい。

 

 これに対して、東洋経済オンラインで、コミュニケーション戦略研究家でもある岡本 純子が「野党の勝敗を分けたコミュニケーション戦略」について解説をしている(以下、抜粋・再構成)。

 「岸田政権初の総選挙は『与党の過半数獲得』で幕を閉じましたが、特に注目を浴びたのが『日本維新の会』の躍進、『立憲民主党』の後退という結果でした。

 私の『推し活』は、各界のリーダーたちの演説やスピーチを聞きに行くことですが、選挙戦はそんな私にとっては『かき入れ時』です。今回も、岸田総理から、高市政調会長、河野自民党広報本部長など、時間が許す限り、『追っかけ』ました。

 雨のそぼ降る中、JR有楽町の駅前で『日本維新の会』副代表の吉村洋文大阪府知事の話を聞きました。

〈10年前まで破産会社だった大阪を立て直し、黒字化した〉

〈これまで給食はなかった。給食制度を作り、温かい給食にし、今は無償化した〉

〈私立高校の授業料を無償化した。シングルマザーの人に『子どもが私学に行けることができるようになった』と声をかけられ、嬉しかった〉

〈地下鉄を民営化して、駅もきれいになりましたよね〉

大阪城公園、どう変わりました? 10~15年前、女性一人で入りにくい公園でした。今はおしゃれな空間に。大阪がパリみたいになっちゃってる〉

 吉村氏は、このように『具体的な実績』を事細かに、並べ立てたのです。これは非常に説得力がありました。

 さらに、維新が打ち出したのは徹底した『自己犠牲』のアピールでした。

〈これまで、市長や知事には退職金があった。4年1期で4000万円の退職金が出る。2期で8000万円。3期で1億2000万円。まるで、年末ジャンボ宝くじですよ。その退職金をゼロにしました〉

〈報酬は、知事は3割、市長は4割カット。でも困りません〉

〈国会議員どうですか? ぬるま湯につかってますね。冬のボーナスもらった人がいる〉

などと、『いかに自分たちが自己利益を犠牲にして、奉仕しているか』を言葉巧みに伝えました。そうした『自己犠牲』精神を非常にわかりやすい言葉として、維新がキャッチフレーズ化したのが『身を切る改革』です。『自分たちの身を削いでまで、あなた方のために、力を尽くすんだ』とたった一言で訴える強力なキーワードです。

 このように、維新は巧みな『コミュニケーション戦術』によって、自民党が放棄してしまった『改革』の旗手として認知され、反自民の受け皿として、追い風を受けたというわけです」(2021/11/12 東洋経済)。

 

 しかも、「選挙における外交・安全保障政策は票にならないという通説が崩れつつある。衆院選で負けた立憲民主党枝野幸男氏が代表を辞任する。共産党との共闘が敗北の一因だ。共闘の何がマイナスに作用したのか。その深淵には中国と北朝鮮の存在がある。

 東アジアの安全保障上のリスクは中国と北朝鮮である。

 中国の習 近平国家主席は任期を撤廃し、台湾との統一を公言する。国際法を無視して南シナ海に人工島を建設し、東シナ海沖縄県尖閣諸島付近では挑発行動を続ける。尖閣諸島魚釣島からわずか170キロメートルほどしか離れていない台湾での有事は、日本有事にほかならない。

 衆院選の公示日に弾道ミサイル発射実験をした北朝鮮の金 正恩総書記の蛮行も同様だ。国連安保理決議を平然と破る北朝鮮は国際的な孤立を深めており、その暴挙には日米安全保障条約に基づく同盟関係を中心に対処するしかない。

 共産党が掲げる日米安保の廃棄と自衛隊の解消の政策は、東アジアの安保の実態と乖離(かいり)している。立憲民主党の外交・安保は日米安保が基軸だが、共産党の外交・安保の印象が重ね合わされ、支持を失った恐れがある。

 選挙での外交・安保への認識の変化は米国の大統領選にもみえる。(中略)

 2016年はトランプ氏が中国との貿易赤字に批判の矛先を向けた。中国が軍事と経済の両面で急成長し、米国の覇権に公然と挑む姿勢もトランプ氏の対中国強硬論と共振した。

 対中脅威論は2020年大統領選でも影を落とした。中国と親和性があるといわれてきた民主党候補のバイデン氏も中国には毅然とした態度で臨まざるを得なかった。大統領に就任してからもそれを堅持している。

 再び日本。中国や北朝鮮が蛮行を繰り返せば、繰り返すほど共産党と連携する立憲民主党の外交・安保への不安は増す。それは自民党への間接的な『援軍』効果を生み、対中国、対北朝鮮強硬論に合理性を持たせる。

 外交・安保で自民党と大きな隔たりがない野党、日本維新の会の躍進も、底流にはその安心感がある。維新と国民民主党立憲民主党共産党社民党との国会対策協議の場にはいない。反対のために実現性の乏しい政策を訴える旧来型の野党からの脱却をめざす。

 枝野氏の後任を選ぶ代表選は共産党との共闘を続けるのか、見直すかが争点だ。

 台湾有事は遠い国で起こり得る出来事ではない。立憲民主党が国家の根幹である外交・安保への不信を抱えたまま『表紙』を代えるだけなら、党再生の好機を自ら放棄することになる」(2021/11/11 日本経済新聞)。