断章439

 私は1987年に東京大学に入学した。いよいよバブルが本格化していく時期である。駒場キャンパスでは民青同盟が活動し、日本共産党の党員・支持者と接する機会もあったが、公式主義的で官僚主義の傾向が強く、魅力を感じることはなかった。

 

 中北 浩爾は、『日本共産党 ―― 「革命」を夢見た100年』の「あとがき」にこう書いている。この直観を掘り下げるべきである。なぜ、党員・支持者たち(の発言)は金太郎アメなのか?

 

 1917年ロシア10月革命後、ロシア共産党は巧みなプロパガンダを繰り広げた。そして「遠くから見るなら、すべては美しい」。

 その結果、ロシア共産党プロパガンダを真に受けた世界中のインテリたちは、旧・ソ連を理想の国とみなした。「資本主義は悪。社会主義国は素晴らしい」という彼らのシュプレヒコールは、耳を聾(ろう)するほどに響き渡った。

 ところが、現実のロシアでは、共産党の官僚たちは、レーニンが健在なうちから特別の手厚い待遇を受け取っていたのだ。レーニンの衣鉢(いはつ)を継いだスターリンと配下たちは、やがて赤色全体主義の支配体制を確立した。そのことは、あるアネクドート(ロシア語ではこっけいな小話全般を指すが、日本ではそのうち特に旧ソ連で発達した政治風刺の小話を指して用いられることが多い)に示されている ―― 「資本主義を説明せよ」という質問への答え。「それは、ある人が他の人によって搾取されることである」。「それでは、社会主義ではどうか?」という質問への答え。「資本主義とは反対に、ある人が他の人を搾取する」。

 ノーメンクラトゥーラ共産党単独支配国家におけるエリート層・支配階級や、それを構成する人々を指す言葉としても用いられた。「赤い貴族」)の公認イデオロギーが、スターリン主義 ―― 核心は、ソ連社会主義国という大きなウソ ―― である。この公認イデオロギーを疑う者、従わぬ者たちは、粛清され、あるいは強制収容所に送られた。党の公式見解に異を唱える者は、命を失うことになった。誰も彼もが、公式見解と同じことだけを言い、書くようになった。キーワードは、「思考停止」である。党中央のいいなりになって、自分で考えて行動することを放棄しているのだ。これが各国共産党の「公式主義」の源流である。

 

 日本共産党は、建党から100年である。ときどきは、リフォームもしてきた。けれども、その土台は、変わっていない。スターリン主義 ―― 核心は、ソ連社会主義国という大きなウソ ―― である。

 たとえば、1963年の第8回大会第5回中央委員会総会決議には、「ソ連邦共産党ソ連邦人民は、偉大なレーニンの指導のもとに、十月社会主義大革命に勝利し、最初の社会主義国をうちたて、人類の歴史に輝かしい時期を開いたばかりでなく、資本主義に包囲された非常な困難のなかで、社会主義を建設し、第二次世界大戦では独・尹・日ファシストの軍隊をうちやぶり、東ヨーロッパと東アジアの人民が自国を解放して社会主義を建設する事業をたすけ、共産主義に向かって前進している」と、書いていたのである。まるで、独ソ不可侵条約や「カチンの森」虐殺など存在しなかったかのように。

 

 日本共産党で党中央の公式見解に異を唱える者は、党生活を続けることはできない。いわんや、党内出世を視野に入れて党中央に服従する駒場キャンパスの共産党員・支持者たち(の発言)が金太郎アメになるのは、当然のことなのである。

 

【参考】

 2011年11月20日改定の日本民主青年同盟の規約では、「組織の名称は、日本民主青年同盟(略称「民青」「民青同盟」) とする。民青は、青年の切実な要求にこたえ、生活の向上、平和、独立、民主主義、社会進歩をめざす自主的な青年組織である。科学的社会主義日本共産党綱領を学び、自然や社会、文化について広く学んで人間性をはぐくみ、社会の担い手として成長することをめざす。日本共産党を相談相手に、援助を受けて活動する」(出典:Wikipedia)とある。