断章290
「コロナ禍の中、厳しい状況に置かれる人が増加しています。
警視庁の統計によれば、2020年10月の自殺者数は全国で2153人にのぼり、これは過去5年間で最も多い水準です。私が支援しているNPOやNGOの方々からは、『8月頃から若者の自殺が増えており、特に中高生の女子生徒が目立つ』という話も聞きます。
このような状況になっている理由のひとつは、20歳未満の子どもたちが直接、社会福祉制度による支援を受けるのが難しいことにあります。困窮する人々を支える公的な制度は生活保護などさまざまありますが、原則として、子どもは保護者を通じてこれらの支援を受ける仕組みになっています。生活に困窮して精神的に追い詰められた親が、子どもに愛情を注ぐ余裕を失って育児放棄のような状態に至れば、公的支援が子どもに届かなくなってしまうのです。実際、セーフティーネットからこぼれ落ち、食事も満足に食べさせてもらえずにいる子どもがたくさんいます。
もちろんコロナ禍に襲われる以前にも、日々の食事に困る子どもたちはいました。しかし、居酒屋などの飲食店でアルバイトをして食いつなぐことができていた高校生たちも少なからずいたのです。コロナ禍によって飲食店の経営が厳しくなったことで、こうした子どもたちは働き口を失いつつあります。
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、貧困層の子どもに食事を提供する『こども食堂』も活動しにくくなっています。かつてないほど厳しい状況に追い込まれ、飢えに苦しむ子どもが急増するおそれがあるのです。
ここで今、私たちが考えるべきなのは、『自助・共助・公助』の『共助』をいかに厚くするかということです。
生活に困っている人についての議論では、『選ばなければ仕事はあるはずだ』『努力不足なのでは』といった、いわゆる『自己責任論』を振りかざす人もいます。
もちろん、自分で自分を支えることができるのであれば、『自助』により自立して生きるべきであることは言うまでもありません。しかし家庭環境などさまざまな事情により、自分で自分を支えることができない人はたくさんいます。そういった方々に対しては、社会が手を差し伸べ、支える必要があります。
一方で、生活に困っている人について『国が支援すべきだ』『政府のやり方が悪いのだ』という主張もよく見られます。確かに、公的な制度による支えは重要でしょう。しかし、公的資金による支援は制度やシステムの設計にどうしても時間がかかるため、スピードが遅くなりがちです。また、公的資金を投じるとなれば基準を厳格にせざるを得ず、規模も小さくなります。
『公助』だけでは、困っている人たちへの支援は行き渡らないのです。市民として権力の監視機能を担うことは大切ですが、国に文句を言っているだけでは、いままさに飢えている人には何の役にも立ちません。『自助』と『公助』でカバーできないところを埋めるのが『共助』です。
私は、日本では『自助』と『公助』について議論されることが多い一方で、『共助』に厚みがないと感じています。たとえば、日本では『寄付』の文化がなかなか根づきません。日本ファンドレイジング協会『寄付白書2017』によれば、個人の寄附総額は日本が7756億円なのに対し、米国は30兆6664億円にものぼります。名目GDPに占める寄付の割合は、日本は0.14%、米国は1.44%で、約10倍の開きがあるのです。そしてこの差は、そのまま社会の厚みの差になっています。
いま私たちに求められているのは、『共助』によって社会の厚みを増していくことでしょう。生活に余裕を持てている人には、ぜひ、それぞれができる範囲で『助ける』側にまわることを考えてみてください。『共助』には、家族や親戚、地域間での助け合いのほか、NPOやNGOの活動を寄付によって支えるという方法もあります。〈中略〉
私自身は、いずれ『積立寄付』の仕組みを作りたいと考えています。私たちレオス・キャピタルワークスが運用する投資信託には、月々1万円、2万円といった金額で積立投資をしているお客さまがたくさんいるのですが、毎月、積立によって流入する資金はおよそ50億円にのぼります。レオスの親会社であるSBIホールディングスグループでネット証券最大手のSBI証券は、毎月およそ200億円ものお金が積立によって流入しています。少額であっても一定額を毎月拠出し続ける『積立』という方法には、非常に強いパワーがあるのです。
このような積立の中の一部、たとえば毎月100円、1000円を『積立寄付』にできる仕組みをつくり、積み立てられた寄付金をNPOやNGOに届けることができれば、それは新たな共助のインフラになるでしょう。ファンドマネジャーが有望な投資先を探して投資するように、熱心に活動している団体や意義深い活動をしている団体をアクティブに探して寄付をすることによって、『共助』の厚みを増し、社会の矛盾や格差解消につなげていけるのではないかと思っています。
新型コロナウイルスによって、いま、日本社会は懐の深さを試されているのかもしれません。『自助』『公助』の話ばかりにとらわれることなく、『共助』に目を向け、一人ひとりができることを、できる範囲でやっていきましょう」(2020/12/30 レオス・キャピタルワークス/藤野 英人)
アメリカの懐の深さを見てみよう。
「デトロイト大都市圏では、救貧事業を行う非営利団体(NPO)フォーガットゥン・ハーベストによる毎週の食糧配給日になると、同NPOと提携する食糧倉庫の前には夜明け前から数百台の車が行列を作る。デトロイトでは今年、配給を受ける人が50%増加した。
新型コロナウイルスによるパンデミックでオフィスその他の事業所が閉鎖されたことで、食糧配給への需要は増大した。だが、需要への対応も強化されている。〈中略〉
パンデミックによる経済危機は、米国における『持てる者』『持たざる者』の格差を新たな形で拡大した。在宅勤務が可能な人は高所得の職種に多く、問題なく暮らしている。だが、2000万人を超える米国民は失業給付に頼っており、飢えと貧困は拡大しつつある。
格差が拡大する一方で、各地のフードバンクやクラウドファンディングによるキャンペーン、その他生計に苦しむ同胞に対する支援は急増しつつある。
おそらく最も金額が大きいのは、今月初めに発表されたアマゾンの株主であるマッケンジー・スコット氏が慈善団体に40億ドル(約4,150億円)を寄付した件である。だが他にも、10ドル、20ドルと額は少なくとも寄付を行う米国民は多い。寄付するのはこれが初めてという人もいる。
今年はパンデミックにより啓発・寄付促進のイベントやコンサートを行えず、苦労しているNPOも多い。だが、2500近い団体を調査しているファンドレイジング・プロフェッショナル協会による最近の分析では、2020年1~9月、一部の中小規模の慈善団体では前年同期比で7.6%も寄付が増えているという。寄付者の数は11.7%増加している。暫定データを見る限り、例年米国で最も慈善活動が活発に行われる12月になっても、この傾向は続いているようだ。『ギビング・チューズデー(施しの火曜日)』と呼ばれる感謝祭後の火曜日に当たる12月1日、慈善団体が受け取った寄付金は前年比25%増の24億7000万ドルに達した。慈善団体ギビング・チューズデーの責任者ウッドロウ・ローゼンバウム氏は、『寄付の勢いは前例がないほどだ』と話している。ローゼンバウム氏によれば、寄付の大半は少額であり、幅広い所得層の人々が寄付に力を入れている様子がうかがわれるという。〈中略〉
地元の非営利団体を支援しているネブラスカ州の組織シェア・オマハが『施しの火曜日』の寄付金額を調査したところ、今年は2019年に比べ2倍近くに増加し300万ドルを超えた。3分の1は寄付が初めてという人からだったという。同グループが今年前半、ホームレスのための食品パッケージなどの業務にボランティアを募集したところ、これまでは月平均200人だったのに対し、700人もの応募があったという。
シェア・オマハのエグゼクティブ・ディレクター、マージョリー・マース氏は『たとえ失業し、あるいは一時解雇されていても、人々はコミュニティに恩を返したいと思っている』と語る」(2020/12/31 ロイター通信・翻訳:エァクレーレン)。
もっと賢く、もっと強く、もっと豊かで、もっと助け合う日本のために、春よ来い。
「淡き光立つ俄雨 いとし面影の沈丁花 溢るる涙の蕾から ひとつひとつ 香り始める」(春よ、来い♪松任谷 由実)。
ユーチューブ・コメントにいう。「3・11から10年。被災された方々の一番多かったリクエストが、この曲と聞いた」。「沈丁花の花言葉は、栄光・不死・不滅・永遠・歓迎だそうです」。