断章474

 「繁栄こそが平和を促し、貿易によって国際社会に平和が訪れるはずだ、と安堵(あんど)する傾向がある。しかし繁栄を各国がともに謳歌するなかで、第一次世界大戦は勃発したのだ。ドイツの成功に対し、他のヨーロッパ諸国は懸念を抱いた。そしてドイツは自信を持つようになった。平和と繁栄が一体だと考えるのは、残念ながら幻想だ」(ダニエル・コーエン)。

 

 「ロシア外務省は12日、今週行われた日本の自衛隊と米軍との協力訓練で、ロシア国境付近で高機動ロケット砲システム『ハイマース』が発射されたとして、日本大使館に抗議した。

 ロシア外務省は声明で『実施された軍事演習はロシア極東地域の安全確保に対する挑戦とみなし、そうした行動の即時停止を強く要求する』とした。また『日本側には、ロシアに対する軍事的脅威を防止するための適切な対応が不可欠であることも警告した』とした」(2022/10/13 ロイター通信)。

 

 「ならず者国家」・朝鮮民主主義人民共和国と大差のない、ドあつかましい抗議である。

 なにしろ、自分たちは……、「ロシア国防省北方領土に配備された地対空ミサイルシステム『S300』の訓練を行ったと発表し、軍事侵攻後、厳しい制裁をロシアに科したアメリカや日本をけん制するねらいがあると見られます。

 『S300』は半径400キロ以内に接近した戦闘機やミサイルを撃ち落とす能力をもつ対空防衛のための兵器で、訓練では空中にある数十個の目標をすべて撃墜したとしています。

 ロシアのプーチン政権は軍事侵攻をきっかけに各国から厳しい制裁を科されたことに反発を強め、今月7日には『非友好的な国と地域』を公表し、日本やアメリカ、イギリス、EUヨーロッパ連合の加盟国、それに韓国や台湾などを含めました。

 ウクライナへの軍事侵攻のさなかに北方領土で訓練を行った背景には、ロシアに制裁を科し圧力を強めるアメリカや日本をけん制」(2022/03/11 NHK NEWS WEB)したのだ。

 

 日本の政治家にロシアと向き合う覚悟はあるのか? そのハートと意志は? 

「カタリナ・ユシチェンコウクライナ大統領夫人は、ロシア侵攻2日目の2月25日、ツイッターに1枚の写真を投稿し、『この80歳の男性は、軍に入隊しようと現れた。持っている小さなカバンにはTシャツと下着が2枚ずつ、そして歯ブラシと昼食のサンドイッチ。彼は〈孫のために戦う〉と言った』と記した。

 大方の予想を裏切るウクライナ側の善戦の象徴として、この老人にも脚光が当てられ、3月14日時点で33万5000以上の『いいね』が付き、リツイートは5万以上。インドのニュースサイト、タイムズナウは『ウクライナのハートと意志は強靱(きょうじん)なのだ』と報じ、称賛した」(2022/03/14 中日スポーツ)。

断章473

 世界の主だった国々の経済は、完全に資本のシステムになった。だから、熾烈な〈競争〉から逃れるつもりで田舎に個人的に移住したりしても、国家と企業は〈競争〉から逃れることができず、個人は否応なく国家の命運に縛られているのだから、(本当の意味では)逃れることは出来ないのである。好況下でも恐慌下でも平時にも戦時にも、〈競争〉はつづく。いかに厳しくとも、いかなる国も、企業も、個人も、耐えて競わなければならないのである。

 

 困ったことに、日本は先端技術開発〈競争〉で先を越されつつある。

 たとえば、「量子コンピューティングは、次世代情報革命の鍵となる技術とされる。世界の学術界は現在、複数の技術ルートで量子コンピューターを研究しており、超伝導量子ビットは最も有望な方向性の一つとされる。中国科学技術大学の潘、朱、彭各氏らは2021年5月、62ビット量子コンピューターのプロトタイプ『祖冲之号』を開発し、プログラム可能な二次元量子ウォークを実現した。米国は2019年、中国は2020年にそれぞれ量子コンピューターのプロトタイプ『Sycamore(シカモア)』と『九章』を発表し、量子超越性を達成した。

 量子超越性とは一つのハードルのようなもので、特定の問題において、新たに生まれた量子コンピューターのプロトタイプの計算能力が最も優れた古典コンピューターを上回った場合、将来的に多方面で超越する可能性を証明する。「九章」は光学的量子技術を使用している。

 中国科学技術大学の研究チームは、このほど、中国科学院上海技術物理研究所と協力し、プログラム可能な66ビット超伝導量子コンピューターのプロトタイプ『祖沖之(そ・ちゅうし)2号』の構築に成功したと明らかにした。『ランダム量子回路サンプリング』の計算速度は、現在の世界最速のスーパーコンピューターの1000万倍以上だという。『祖沖之2号』の成功により、中国は二つの技術ルートで『量子超越性』を達成した唯一の国となった」(2021/11/04  Xinhua Newsの記事を再構成)。

 あるいは、「中国核工業集団(CNNC)が開発し、独自の知的財産権を有する多機能小型モジュール加圧水型原子炉(PWR)『玲竜1号(ACP100)』は6日、海南省昌江原発基地で上部シリンダーのつり上げが完了しました。『玲竜1号』は世界で初めて着工した陸上の商用化小型モジュール炉でもあります。

 『玲竜1号』プロジェクトは2021年7月13日に着工し、総工期は58カ月を計画しています。出力100万キロワットの第3世代大型原子炉『華竜1号』と比べると、『玲竜1号』1基当たりの出力は12万5000キロワットで、発電のほか、都市部の冷暖房、工業用蒸気供給、海水淡水化、濃化油採掘など、原子力エネルギーの多目的利用が可能です。完成すれば年間発電量は10億キロワット時に達する見込みです」(2022/07/09 CGTN Japanese)。

 

 日本の主力である車産業においても、「ベトナムの複合企業ビングループ傘下の自動車子会社ビンファスト(従業員6000人)は、ハイフォンの電気自動車(EV)工場で従業員を8000人増やすと発表した。同社初の電動SUV (スポーツ用多目的車)の米国輸出をにらみ、増産体制に入る狙い。

 同社のフェイスブック投稿によると、採用するのは組み立て工や技術者やエンジニアなどで、今年8月から9月の間に働き始めてもらいたいとしている。

 本工場の生産能力は年25万台。同社は2026年までの目標として同工場の生産能力年60万台、米国で建設予定の工場分も含め、全体で販売年75万台を掲げている。ベトナムで生産する完全電動SUVも北米と欧州向け都市、年末までに米顧客への納車を見込む。米国では予約が既に8,000台入っているという」(2022/08/08 ロイター通信)のだ。

 ところが、「電気自動車(EV)の競争力を左右する電池材料で日本勢が窮地に追い込まれている。かつて電池部材は日本の素材メーカーのお家芸だった。だが今や中国勢に供給力で圧倒され、価格面でも太刀打ちできない。原材料となる資源もほぼすべてが海外依存だ。電池リサイクルや次世代電池の技術でいかに先行できるかが、日本勢の反転攻勢のカギを握る」(日経産業新聞)。

断章472

 資本制社会以前の社会。たとえば、「ローマの奴隷たちは自分たちの労働のあり方について不満を抱いていた。一方、教養あるローマ人は、鎖につながれて厳しい監視下に置かれた奴隷が一日中働くことを、当たり前だと考えた。奴隷たちが私生活をほとんど持てないことや、彼らが自分たちの労働力を回復させるための必要最小限の食事しか与えられないのは、当然のことだったのだ。

 そのような奴隷に対する厳しい態度は、ローマ文明固有のものではなく、また奴隷社会特有のものでもなかった。産業社会以前の社会では、こうした態度は全く珍しくなかった。(中略)

 紀元前一世紀末のアウグストゥスによる統治時代には、イタリア人口の少なくとも35%は奴隷だった。ローマ帝国では、奴隷の購入価格はあまり高額ではなかった。当時、個人の資産額は数千万セステルシウス(古代ローマの通貨単位)に達する者もいた一方で、奴隷の値段はたった1000〜2000セステルシウスだった」(『経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える』)。

 

 一方、今日の自由な資本制社会は、「好きなことだけで自由に生きる」「誰もが『人と違うこと』ができる時代」―― 現実には、肉体的・知能的・金銭的などの諸制約があるとしても ―― だと言われている。少なくとも、誰もが自由に人生を選択して自己実現できる社会であるべきだということは、当然視されている。それは、資本制社会が〈自由〉に至高の価値を与えているからである。

 わたしたちは自由を得た。だが、「何かを得るためには何かを失わなければならない」。

 わたしたちは、今や生まれた場所に一生住むような伝統社会と別れて、孤立した寄る辺なき者になった。だから、『「ひとそれぞれ」がさみしい』(石田 光規)。

 

 この自由な資本制社会における資本の論理は、市場原理である。市場原理(market principle)とは〈競争〉を通じた淘汰の法則である。すべてが〈競争〉によって決定される ―― それは、365日・24時間、気を抜くことのできない熾烈な競争である。敗れれば、いかなる国、どんな有名企業も、学校秀才も没落する。

 熾烈な競争に勝とうと思えば(競争から逃げれば失うものが多い)、365日・24時間、戦わなけれならない。当然、心を病んだり身体を壊す者も増える。そして、どんなに頑張っていても、恐慌(大不況)が来れば、倒産・失業を免(まぬが)れることは、なかなか困難である。

断章471

 サンバホイッスルの音で心浮き立つカーニバル。「サンバのリズムが 一千一秒 ときめきを ムダにしないでって そう告げるの 踊り 踊らされて カーニバル」(中森 明菜♪)。そんなカーニバルも終わる日が来る。経済の好況・高度成長そしてバブルも、いつか終わる(人生さえも……)。

 

 「人間は歴史から学べるのでしょうか?」との日高 敏隆(動物行動学者)の問いに、コンラート・ローレンツは、「そのとおり、人間が歴史から学んだことは、人間は歴史からは何も学ばないということですね」と答えたという。ならば、歴史は韻を踏むだけでなく、繰り返しもするだろう。

 「21世紀の多極化する世界を理解しようとするのであれば、ヨーロッパ史をひもといてみればよい。今日、世界はそれを引き継いでいる。すべての国家は、ヨーロッパで発明された国民国家モデルに収まっている。国民国家では、各国が自らの境界内においては『皇帝』であり、自分たちの境界に激しい執念を燃やしている。近未来の世界の最も懸念される脆弱性は、そこにある。新興勢力は、産業によって得た富を利用して、最新の軍事力を行使して、昔の境界紛争を解決しようとするだろう。彼らは昔の勢力を取り戻そうとするはずだ」(ダニエル・コーエン、2013)。

 「国民国家は重要性を失った。グローバリゼーションの時代にふさわしいのは、世界市民だ」と浮かれていた日本の自称「知識人」リベラルたちは、ウクライナ戦争に直面して、ただ黙している。

 

 1930年代型複合危機の到来に備えなければならない。

 大国間の覇権争奪戦の激化。バブルの破裂による世界金融恐慌。首都直下あるいは南海トラフ震源とする巨大地震。新たな感染症によるパンデミック。皇帝ダース・プーチンに似た指導者による新たな軍事侵攻。日本人になりすました敵性国家による日本人のアイデンティティ愛国心)破壊のサイバー攻撃。八方美人的な税金バラマキをメインとする未来ビジョンの希薄な覚悟なき政治。

 歴史は繰り返す。1929年に発生した世界金融恐慌により、すべては暗転した。アメリカやドイツの失業率は、国民の25%に達したのである。そんな時代に伸張したのは、ファシズム(黒色全体主義)であり、マルクス・レーニン主義(赤色全体主義)だった。

断章470

 「友人に聞いた話だが、米国の知人が持ち家を売りに出しているという。450平米の中古住宅でプール付き、リフォーム済みのきれいな家を1年前に120万ドルで売りに出していたが、それをいま何と34万ドルに値下げしているとのこと。ところが、それでも買い手が現れず、『買ってくれない?』と相談を持ちかけられたらしい。

 FRB米連邦準備制度理事会)の相次ぐ利上げを背景に、米国10年債利回りは9月28日に4%台をつけたが、米国住宅ローンの30年物固定金利も6.7%(9月29日時点、前週6.29%)と2007年以来の水準に上昇している。これでは住宅市場が冷え込むのも無理はないが、米国では住宅市場の動向が個人消費の趨勢に結びつくだけに、先行きの景気減速が懸念される」(2022/09/29 富田 隆弥)。

 そして、「9月30日のニューヨーク株式市場では、ダウ平均株価の終値が2万9000ドルを割りこみ、前の日に比べて500ドル10セント安い、2万8725ドル51セントとなりました。終値としては2020年11月上旬以来、1年11か月ぶりの安値で取引を終えています。

 市場ではアメリカのFRB連邦準備制度理事会)をはじめ、世界の主要中央銀行の大幅な利上げにより景気後退への懸念が強まっています。また、この日に発表されたアメリカの個人消費に基づく物価指数が市場の予想を上回り、物価の高止まりが警戒されたことなどから売り注文が膨らみ、ほぼ全面安の展開となりました」(2022/10/01 TBS NEWS)。

 

 去る9月25日、日本経済新聞日経ヴェリタスの記事を転載し、警告していた。

 「『物価安定の回復に失敗すれば、後々にはるかに大きな痛みを伴う』。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、米連邦公開市場委員会FOMC)後の記者会見で強調した。

 今回のFOMCでは3会合連続となる0.75%の大幅利上げを決定。政策金利の誘導目標は3.00~3.25%に達した。FOMC参加者の22年末時点での政策金利見通しの中央値は4.4%となり、11月の次回会合でも大幅利上げが継続する可能性が高まった。

 FRBが改めてタカ派姿勢を示したことで、インフレがピークアウトし利上げが早期に止まるとの楽観論は後退した。21日の米ダウ工業株30種平均が3カ月ぶりの安値で終え、米2年物国債利回りは一時4.1%台と15年ぶりの水準まで上昇(債券価格は下落)。株と債券の同時安が進んだ。

 欧州中央銀行(ECB)も9月に0.75%の利上げを決めており、米欧の中銀は競うようにインフレ鎮圧に向けた利上げを急ぐ。8月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.3%上昇と市場予想を上回り、家賃などの上昇が目立つ。ユーロ圏の消費者物価指数も8月に9.1%上がり、インフレが加速している。

 第4次中東戦争イラン革命により2度のオイルショックが発生した1970~80年代には、FRBの不十分な利上げがインフレ加速を招き、米国経済は大きな打撃を受けた。『中央銀行が当時の失敗を強く意識している』(インベスコ・アセット・マネジメントの木下智夫グローバル・マーケット・ストラテジスト)だけに、目先の景気を犠牲にしてでも利上げを推進し続ける可能性は高い。

 ただ、利上げが抑制できるのはあくまで雇用や消費といった需要だ。ロシアのウクライナ侵攻による資源高のような、インフレの元凶ともいえる供給制約の改善には役に立たない。

 高インフレと景気後退が併存する『スタグフレーション』が現実味を帯びる。

 こうした状況下では株・債券の同時安が進行するリスクは高い。世界景気の後退懸念が強まり、MSCIの先進国株指数は今年すでに2割下落。本来ならば株価と逆方向に動きやすい米国債の代表的な指数も、FRBの利上げの影響で1割以上下がった。(中略)

 日本は欧米と比べて物価上昇が緩やかで、日銀も低金利政策を維持している。それでも欧米で物価高と景気後退が同時進行すれば、日本の株価や金利も影響は免れず『日本の資産だけに資金を振り向けている投資家にとってもスタグフレーションは他人事ではない』(ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミスト)。多くの投資家が未知の困難に立ち向かい、資産を守る方法を探る必要がある」(2022/09/25 日本経済新聞)。

 

 同じような雰囲気が漂っている。一度あることは二度ある。

 たとえば、「ロシアのプーチン大統領は現地時間30日午後、ウクライナ東・南部4州の一方的な併合を宣言する見通しだ。2014年のクリミア半島併合に続く暴挙は、戦前の帝国主義の時代を想起させる。

 ナチス・ドイツは1938年、『ドイツ系住民への迫害』を主張してチェコスロバキアズデーテン地方の併合を要求した。英国やフランスは戦争回避の(対ドイツ)融和策として、併合を認めたが、増長したドイツは翌年ポーランドに侵攻し第2次世界大戦が始まった。

 ソ連も直後にポーランドに侵攻し、同国は独ソによって分割された。ソ連リトアニアなどのバルト3国にも軍を進め、ソ連に組み込んだ」(日本経済新聞)。

 だから、1929年世界大恐慌の再来に対しても、「想定外」としないで、備えるべきである。

断章469

 ロシアがウクライナに侵攻して6ヵ月後の8月25日、ダニエル・トリーズマンは、CNNで侵攻の“回顧と展望”を行ない、最後にこう述べた。

 「プーチン氏によるウクライナ侵攻であらゆる疑念は残らず取り除かれた。我々は今や、新たな冷戦のただ中にいる。これを過熱させずに置くためにはスキルが必要になるだろう。今回、西側と敵対しているのはロシアだけではない。クレムリンと中国との関係はかつてないほど緊密になっている。米国が一方から他方へ『軸足を移せる』と考えるのは、現状不合理に思える。プーチン氏は権力の座にある限り、西側の弱体化に向けて動くだろう。中国との協力は一部の領域で依然可能とはいえ、習 近平(シーチンピン)国家主席も見たところ米国の覇権に挑戦する意思を固めている。

 痛みを伴う判断が、西側を向こう6ヵ月にわたって待ち受ける。この2月に我々が目にしたのは、民主主義諸国は時間こそかかるものの、ひとたび脅威が明確になれば自分たちで奮起できるということだった。西側が一致団結してウクライナを支えた今春の状況は、強烈な印象を残した。

 現在の課題は、その結束をガスの供給が縮小していく冬の間も維持することだろう。プーチン氏の西側の友人たちが我々の分断を図っている。これらの友人にはロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン『ノルドストリーム2』の復活に意欲を燃やす独企業のほか、フランスやイタリアの政治家も数え切れないほど含まれる。

 エネルギー危機の到来はまだ序の口だ。西側諸国は現時点で、中ロをはじめとする数多くの新たな脅威から自分たちを守るのに要するコストを受け入れていない。1980年代後半以降、西側の指導者たちは、浮かれたポピュリスト政治家らと同様、北大西洋条約機構NATO)の拡大と予算における軍事費の割合の縮小を同時に成し遂げられるふりをしてきた。巨額の『平和の配当金』に目がくらみ、彼らは同盟の新たな境界線及びその向こうの境界地帯の防衛をごく軽度のもので済ませた。この状況は改めなくてはならず、相応の資金が必要になるだろう。

 プーチン氏はこの6ヵ月間で、これ以上はほぼ考えられないほどの大きな失敗を犯した。しかし確かな情報を持つ専門家らによると、ブルームバーグ・ニュースが報じた通り、同氏は自分が時間を味方につけていると強く信じている。西側については今後経済的な圧力に直面して瓦解するとみている。プーチン氏が正しいかどうかは、次の6ヵ月で明らかになるだろう」。

 

 それから1ヵ月。皇帝ダース・プーチンは、手にする鞭(むち)をさらに増やした。

 「9月21日、ロシアのプーチン大統領ウクライナでの戦闘における劣勢打開を狙い、第二次世界大戦後初めてとなる動員令を出した。

 現時点の公式説明では総動員ではなく、数カ月かけて予備役30万人を段階的に召集する部分的な動員となる。ショイグ国防相は、総動員をかければ2,500万人の人的資源を当てにできると述べた。

 ロシアの法律では、理論的には18歳から60歳の男女をランクに応じて予備役として召集することができる。西側の軍事アナリストは以前から、ロシア軍はウクライナでの戦闘で甚大な損失を被り深刻な兵力不足に陥っていると指摘してきた。一方でロシアの国家主義者らは数カ月前から、行き詰まった作戦を活性化させるために何らかの動員を実施すべきだと訴えていた」(2022/09/22 ロイター通信)。

 

 今後のロシアの継戦能力をどう見るか? 参考になる記事がある。

 「現代ロシアは輸入依存社会である。ほとんどの産業は西側からの輸入でまわっている。たとえば10数年前、ロシア現地法人の本社屋を建設したときのことだ。建設に必要な機材や資材は、ほとんど輸入品に頼らざるを得なかった。外壁パネルから断熱材、ドア、サッシ、ガラスから職人たちが使う工具類にいたるまで、ほとんど皆、ドイツ、イタリア、ポーランドなどヨーロッパ各国から輸入した。内装品や照明器具、オフィスの机、椅子の類い、キャンティーンの厨房機器、自家発電のためのボイラーシステムなどは言うにおよばない。国産品には要求レベルに見合うものがなかったからだ。他方、ロシア国内で調達した物はといえば、基礎工事に使う生コンや杭、レンガ、鉄筋、それにコンクリートの地盤に埋め込むためのワイヤーメッシュぐらいだった。

 さすがに、これには愕然とした。旧・ソ連の指令経済は、『規模の経済』にもとづいて、全土的な分業生産体制を徹底した。そのもとで、企業は特定の製品や部品の生産に特化し、巨大な産業連鎖に組み込まれてそれぞれ独占的に生産した。ところが、ソ連崩壊により、この分業の鎖が分断たれた。産業界は壊滅的な打撃に苦しんだ。ちなみに、そのときウクライナが直面した混乱を、私は『通貨誕生 ―― ウクライナ独立を賭けた闘い』(1994年、都市出版)に書いた。

 この20年、ロシアは崩壊した分業・調達体制を、グローバル貿易による調達に切り替え、西側の技術を取り込んで、めざましい経済復興を遂げた(原油価格の高騰という僥倖にも恵まれた)。ロシアのウクライナ侵攻後、西側はロシアの貿易金融の大半をおこなう大手銀行(最大手のズベルバンク、ロシア農業銀行を含む。ガスプロムバンクを除く)をSWIFT(国際銀行間通信協会)からつぎつぎに排除した。そのため、多くのロシア企業は必要な商品やサービスをグローバルに調達することがほとんどできなくなっている。残念ながら、ウクライナ侵攻後、ロシア政府は毎月の貿易統計を公表していない。だが、断片的に流れる情報によれば、ウクライナ侵攻後のわずか2ヵ月間で、ロシアの輸入は前年比で40%以上も減ったという(イギリス『エコノミスト』誌、5月14日号)。

 あれから10年余りで、産業の成り立ちが大きく変わったとも思えない。いったん輸入が止まればどうなるか、容易に想像がつく。貿易統計を公表しなくなったのも、そこを隠したいからなのだろう。原油高で糊塗されて産業の実態は見えないが、ロシアは確実に弱っているはずである」(2022/08/22 ニュースソクラ・西谷 公明:元トヨタロシア社長)。

 けれども、歴史が教えるように、ロシアの戦争における“底力”(いざという時に出る力)は、あなどれない。

 

 日本は、20日の国連総会で、岸田首相が演説し、「ロシアによるウクライナ侵攻で国連安全保障理事会の機能不全が露呈した現状を踏まえ『国連の信頼性が危機に陥っている』と指摘した。ロシアを名指しし『国連憲章の理念と原則を踏みにじる行為だ。断じて許してはならない』と非難し、国際社会の結束を呼びかけた」というが、相変わらず、“言葉”“演説”“声明”の次元をうろついているだけである。

 それでも、非難された皇帝ダース・プーチンから見れば、日本は立派な“敵性国家”である。ウクライナに侵攻しているロシアの極東軍は、北海道の目と鼻の先におり、ここ最近は、日本海での中国軍との共同軍事演習に力を入れている。

 言葉から、さらに一歩前へ。日本は、冬が来る前に実のあるウクライナへの軍事支援を実施すべきである!

断章468

 わたしは、日本は〈富国強兵〉〈殖産興業〉に邁進しなければならないと主張する。すると、どこかで、「明治時代かよ」とか、「古典的帝国主義時代の提案だな」という声がする(ような気がする)。

 しかし、21世紀といえども、戦場としての世界でいま起きていることは、「国連のウクライナ調査委員会を率いるエリック・モーセ委員長は23日、ロシア軍が占拠したウクライナの一部地域で性的暴行や拷問、処刑、子どもの監禁などの戦争犯罪が行われたと発表した。

 国連人権理事会で『委員会が集めた証拠に基づき、ウクライナ戦争犯罪が行われたと結論づけた』と述べた。何件の戦争犯罪が行われたかは言及しなかったが、その後のインタビューでは、ロシアによって『数多くの』犯罪が行われた一方、ウクライナによるものはロシア兵の虐待に関する2件のみだったとした。ロシア側は理事会を欠席した。ロシア政府からの公式な見解も現時点で得られていない。ウクライナ検察当局もコメント要請に応じていない。 調査委は27カ所を訪問し、キーウ、チェルニヒウ、ハリコフ、スムイのこれまでロシアが占拠していた地域で150人以上の被害者や目撃者にインタビューを実施。手を縛られた遺体や喉を切られた遺体、頭部に銃弾を受けた遺体など多くの処刑が行われた証拠を発見したほか、性的暴行を受けた4歳から82歳の被害者も特定したという」(2022/09/24 ロイター通信)。

 あるいは、「国連ウクライナ人権監視団のボグナー団長は11日までに、ウクライナに侵攻したロシアが拘束した戦争捕虜に虐待や拷問を加えていることを確認したと発表した。ロシアは監視団に捕虜収容施設の調査を認めていないと批判。水や食料、医療が適切に提供されていない施設があると訴えた。

 ボグナー氏によると、ロシアは多くのウクライナ人捕虜に対し、家族に収容場所や健康状態を伝えることも禁じている。妊娠した女性らも拘束しており、人道的見地から即時解放するよう求めた。ウクライナ東部ドネツク州の親ロシア派支配地域オレニフカの捕虜収容施設では、A型肝炎結核などの感染症がまん延しているという」(2022/09/11 毎日新聞)ことである。

 その他にも、ロシアは、「ウクライナから数十万トンの穀物を強奪した」とか、「米シンクタンク、戦争研究所は23日、激戦の末にロシアが5月に制圧したウクライナ東部ドネツクマリウポリから千人以上の子どもがロシア・シベリアに移送され、ロシア人家庭で養子になっているとの分析を発表した。養子受け入れを決めた市民には補助金が支払われ、当局は300人以上の子どもが『新しい家族に会えるのを待っている』と宣伝しているという。具体的な移送先として、チュメニ、イルクーツク、ケメロボ、アルタイ地方を挙げた」(2022/08/24 ロイター通信)という記事がある。

 さらには、「ウクライナ東部と南部のロシア軍占領地域で始まった『ロシアへの編入』を問う親ロシア派勢力の住民投票について、ウクライナ参謀本部が『ロシア側が武器で住民を威嚇し、精神的な圧力をかけて投票への参加を強制している』と非難しました。一方、ロシアではプーチン大統領の号令による予備役兵の動員が進んでいますが、国外脱出の動きが伝えられるなど、混乱も起きています」(2022/09/25 朝日新聞デジタル)ということである。

 NHKの石川解説委員が、「プーチン大統領は、ロシアへの占領地の編入を考えていると思います。大統領の意図がわかるのは、クレムリンの内政担当の第1副長官キリエンコ氏がたびたび占領地を訪問していることです。内政担当の第1副長官というのはクレムリンの動向を見る上で最重要なポストで、プーチン体制の内政を取り仕切っています。キリエンコ氏は有能な行政官としてプーチン大統領に評価信頼されています。

 もともとはリベラル系で首相も務めたキリエンコ氏ですが、今はロシア愛国主義を前面に出しています。『ロシアは占領した土地を手放さない』として住民へのロシアパスポートの交付やルーブルへの切り替えを進めています。……キリエンコ氏はプーチン大統領と直接接触できる数少ない側近で、プーチン大統領が占領地のロシア編入を考えているとみて間違いないでしょう」と言ったのは、すぐる7月28日のことだった。

 〈富国強兵〉〈殖産興業〉に邁進しなければ、戦場としての世界で日本が生き残ることはできないのである。