断章469

 ロシアがウクライナに侵攻して6ヵ月後の8月25日、ダニエル・トリーズマンは、CNNで侵攻の“回顧と展望”を行ない、最後にこう述べた。

 「プーチン氏によるウクライナ侵攻であらゆる疑念は残らず取り除かれた。我々は今や、新たな冷戦のただ中にいる。これを過熱させずに置くためにはスキルが必要になるだろう。今回、西側と敵対しているのはロシアだけではない。クレムリンと中国との関係はかつてないほど緊密になっている。米国が一方から他方へ『軸足を移せる』と考えるのは、現状不合理に思える。プーチン氏は権力の座にある限り、西側の弱体化に向けて動くだろう。中国との協力は一部の領域で依然可能とはいえ、習 近平(シーチンピン)国家主席も見たところ米国の覇権に挑戦する意思を固めている。

 痛みを伴う判断が、西側を向こう6ヵ月にわたって待ち受ける。この2月に我々が目にしたのは、民主主義諸国は時間こそかかるものの、ひとたび脅威が明確になれば自分たちで奮起できるということだった。西側が一致団結してウクライナを支えた今春の状況は、強烈な印象を残した。

 現在の課題は、その結束をガスの供給が縮小していく冬の間も維持することだろう。プーチン氏の西側の友人たちが我々の分断を図っている。これらの友人にはロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン『ノルドストリーム2』の復活に意欲を燃やす独企業のほか、フランスやイタリアの政治家も数え切れないほど含まれる。

 エネルギー危機の到来はまだ序の口だ。西側諸国は現時点で、中ロをはじめとする数多くの新たな脅威から自分たちを守るのに要するコストを受け入れていない。1980年代後半以降、西側の指導者たちは、浮かれたポピュリスト政治家らと同様、北大西洋条約機構NATO)の拡大と予算における軍事費の割合の縮小を同時に成し遂げられるふりをしてきた。巨額の『平和の配当金』に目がくらみ、彼らは同盟の新たな境界線及びその向こうの境界地帯の防衛をごく軽度のもので済ませた。この状況は改めなくてはならず、相応の資金が必要になるだろう。

 プーチン氏はこの6ヵ月間で、これ以上はほぼ考えられないほどの大きな失敗を犯した。しかし確かな情報を持つ専門家らによると、ブルームバーグ・ニュースが報じた通り、同氏は自分が時間を味方につけていると強く信じている。西側については今後経済的な圧力に直面して瓦解するとみている。プーチン氏が正しいかどうかは、次の6ヵ月で明らかになるだろう」。

 

 それから1ヵ月。皇帝ダース・プーチンは、手にする鞭(むち)をさらに増やした。

 「9月21日、ロシアのプーチン大統領ウクライナでの戦闘における劣勢打開を狙い、第二次世界大戦後初めてとなる動員令を出した。

 現時点の公式説明では総動員ではなく、数カ月かけて予備役30万人を段階的に召集する部分的な動員となる。ショイグ国防相は、総動員をかければ2,500万人の人的資源を当てにできると述べた。

 ロシアの法律では、理論的には18歳から60歳の男女をランクに応じて予備役として召集することができる。西側の軍事アナリストは以前から、ロシア軍はウクライナでの戦闘で甚大な損失を被り深刻な兵力不足に陥っていると指摘してきた。一方でロシアの国家主義者らは数カ月前から、行き詰まった作戦を活性化させるために何らかの動員を実施すべきだと訴えていた」(2022/09/22 ロイター通信)。

 

 今後のロシアの継戦能力をどう見るか? 参考になる記事がある。

 「現代ロシアは輸入依存社会である。ほとんどの産業は西側からの輸入でまわっている。たとえば10数年前、ロシア現地法人の本社屋を建設したときのことだ。建設に必要な機材や資材は、ほとんど輸入品に頼らざるを得なかった。外壁パネルから断熱材、ドア、サッシ、ガラスから職人たちが使う工具類にいたるまで、ほとんど皆、ドイツ、イタリア、ポーランドなどヨーロッパ各国から輸入した。内装品や照明器具、オフィスの机、椅子の類い、キャンティーンの厨房機器、自家発電のためのボイラーシステムなどは言うにおよばない。国産品には要求レベルに見合うものがなかったからだ。他方、ロシア国内で調達した物はといえば、基礎工事に使う生コンや杭、レンガ、鉄筋、それにコンクリートの地盤に埋め込むためのワイヤーメッシュぐらいだった。

 さすがに、これには愕然とした。旧・ソ連の指令経済は、『規模の経済』にもとづいて、全土的な分業生産体制を徹底した。そのもとで、企業は特定の製品や部品の生産に特化し、巨大な産業連鎖に組み込まれてそれぞれ独占的に生産した。ところが、ソ連崩壊により、この分業の鎖が分断たれた。産業界は壊滅的な打撃に苦しんだ。ちなみに、そのときウクライナが直面した混乱を、私は『通貨誕生 ―― ウクライナ独立を賭けた闘い』(1994年、都市出版)に書いた。

 この20年、ロシアは崩壊した分業・調達体制を、グローバル貿易による調達に切り替え、西側の技術を取り込んで、めざましい経済復興を遂げた(原油価格の高騰という僥倖にも恵まれた)。ロシアのウクライナ侵攻後、西側はロシアの貿易金融の大半をおこなう大手銀行(最大手のズベルバンク、ロシア農業銀行を含む。ガスプロムバンクを除く)をSWIFT(国際銀行間通信協会)からつぎつぎに排除した。そのため、多くのロシア企業は必要な商品やサービスをグローバルに調達することがほとんどできなくなっている。残念ながら、ウクライナ侵攻後、ロシア政府は毎月の貿易統計を公表していない。だが、断片的に流れる情報によれば、ウクライナ侵攻後のわずか2ヵ月間で、ロシアの輸入は前年比で40%以上も減ったという(イギリス『エコノミスト』誌、5月14日号)。

 あれから10年余りで、産業の成り立ちが大きく変わったとも思えない。いったん輸入が止まればどうなるか、容易に想像がつく。貿易統計を公表しなくなったのも、そこを隠したいからなのだろう。原油高で糊塗されて産業の実態は見えないが、ロシアは確実に弱っているはずである」(2022/08/22 ニュースソクラ・西谷 公明:元トヨタロシア社長)。

 けれども、歴史が教えるように、ロシアの戦争における“底力”(いざという時に出る力)は、あなどれない。

 

 日本は、20日の国連総会で、岸田首相が演説し、「ロシアによるウクライナ侵攻で国連安全保障理事会の機能不全が露呈した現状を踏まえ『国連の信頼性が危機に陥っている』と指摘した。ロシアを名指しし『国連憲章の理念と原則を踏みにじる行為だ。断じて許してはならない』と非難し、国際社会の結束を呼びかけた」というが、相変わらず、“言葉”“演説”“声明”の次元をうろついているだけである。

 それでも、非難された皇帝ダース・プーチンから見れば、日本は立派な“敵性国家”である。ウクライナに侵攻しているロシアの極東軍は、北海道の目と鼻の先におり、ここ最近は、日本海での中国軍との共同軍事演習に力を入れている。

 言葉から、さらに一歩前へ。日本は、冬が来る前に実のあるウクライナへの軍事支援を実施すべきである!