断章418

 目を皿のようにしてロシアによるウクライナ侵攻を見ている国が、間違いなくアジアに3つある。中国と台湾とベトナムである。中国と台湾は当然、ベトナムもまた当事者として。

 なぜなら、ロシア・ウクライナと中国・ベトナムは、地政学的な構造が同じであるから。

 野嶋 剛は、1979年の中越戦争について、こう記している。「わずか1カ月に満たない短い戦争だったが、殺された双方の兵士の数はあわせて数万人を軽く超える凄惨なものだった。かつては兄弟国としてともに社会主義をアジアに広げていく夢を抱いた同士の近親憎悪がその根底にあった。中国側は、兄貴分としてベトナムを『懲罰』するという大義名分を掲げ、ベトナムは『侵略だ』と激しく反発した。南シナ海をめぐる中越の対立の根っこにはこの中越戦争の後遺症による両者の不信と猜疑が横たわっている」。

 では、日本は?

 

 米海軍大将、NATO欧州連合軍の最高司令官を歴任したジェイムズ・スタヴリディス提督が、ウクライナ侵攻で見えてきたロシア軍の3つの問題を指摘し、この先の展開を予測する。

 「<ロシア軍の何が間違っているのか?>という質問をこの頃くりかえし受ける。西側の多くの人は、ロシアの軍事機構を北大西洋条約機構NATO)とほぼ互角と誤解してきた。だから、そんな巨大な軍隊がそれよりはるかに小さく軍備も劣る隣国のウクライナを制圧するのにこれほど難儀していることに驚くのだ。

 私がNATOの軍事司令官を務めていた頃、ロシア軍と当時その参謀総長だったニコライ・マカロフ将軍と面談する機会があった。親しみやすい人柄のマカロフは、ロシアの軍隊を現代化するための努力について私に話してくれた。その手始めは、軍隊を専門化し、残酷な徴兵制をやめるということだった。サイバー攻撃能力や精密誘導の兵器、無人航空機・車両を改良する計画もあった。マカロフはロシア軍が進歩することを確信しているようだったが、ウクライナでの事態を見る限り、そうした長年の努力は報われておらず、徴募兵だらけだ。ハードウェアが改良された証もない。ロシア軍は、洗練された21世紀の軍隊ではなく、むしろ第二次世界大戦風の無骨な軍隊然としている。

 ロシア軍が実動していたものの本格的な常備軍との戦闘がなかったシリアとは違い、今回のウクライナでの戦闘はロシア軍の訓練や装備、組織の仕方にあるいくつもの“裂け目”を示しているのだ。ここで強調すべき重大な問題が3つある。どれも即座には解決しえないものであり、となればロシア軍はウクライナでの軍事作戦をずるずると続けることになろう。

 3つの重大な問題とは?

 第一の問題は明らかで、兵站(へいたん)の失敗だ。素人は戦略を学ぶが、玄人は兵站を学ぶと軍人のあいだではよく言われる。銃弾、燃料、食糧、熱源、電源、通信機器を部隊に送り込むことは極めて大事だ。とくに燃料を前線へ送るのにロシア軍が非常に苦労していることがわかってきたが、これは西側の軍隊にしてみれば兵站の基本だ。キエフ郊外でロシア軍の戦車と輸送トラックが集団で立ち往生して60キロメートル超の列をなしている光景は、無能さの好例だ。現代の西側の軍隊なら、これほどのおびただしい攻撃兵器がおそろしく無防備な地帯に何日も留まることなどないよう詳細な計画を立てるだろう。シリアでの比較的小さい部隊への供給は、20万の兵力を養うことに比べればたやすい話だったのだ。

 第二の問題はそこまで明らかではないが、さらにたちが悪いものだ。ウクライナに侵攻している部隊では、徴募兵か予備兵がかなりの数を占めている。彼らは職業軍人ではないし、職業軍人下士官幹部たちに統率された自発的な軍隊でもないのだ。自分たちの使命の重大さに文字どおり気づいていないロシア兵の事例がいくつも紹介されている。ウクライナ人に捕まって初めて、これはロシアでの軍事演習ではなかったのかと知った者すらいるというのだ。

 第三の問題は、鮮やかなまでに示された統率力の悪さだ。ロシアの計画には、ウクライナを6つの異なるベクトルから攻撃することが含まれていたが、これは軍隊を大いに分割するものだ。軍隊を6軸に広げる戦術にはそもそも欠陥がある。これが間違った想定と諜報のせいであることはほぼ間違いない。ロシアの将軍たちは、ウクライナ人が花とウォッカで自分たちを歓迎してくれると期待していたに違いない。銃弾とモロトフカクテル(火炎瓶)ではなく」(2022/03/16 クーリエ・ジャポン)。

 

 ロシア軍の“ハードウェア”については、以下の“リーク”がある。

「米情報活動に詳しい米当局者3人によると、米政府はロシアのウクライナへの精密誘導ミサイル攻撃について、一部ミサイルの『失敗率』が最大で60%にも上ると分析している。

 ロシア軍よりもウクライナ軍の方がはるかに小規模に見えるのに、ウクライナの空域の無力化(制圧)などができていない理由を説明する一助になる可能性がある。一方で、ロシアの爆弾は住宅地や学校や病院などに着弾し、多数の死者を出している」(2022/03/24 ロイター通信)。

 

 さしあたり、「日本は今回の戦争を教訓として、どのようなUAV(注:人が搭乗しない無人航空機のこと。なお、ドローンは、無人航空機のことを指す用例も多い)の導入を加速すべきでしょうか。

 トルコ製TB2は、対空火器が不十分な相手には高いコストパフォーマンスを発揮しますが、日本にとっての当面の脅威は中国軍です。もしも中国軍と戦闘になる場合、TB2では活躍の場が限られてしまいます。

 現在、日本は『グローバルホーク』など複数のUAVを運用していますが、導入を急ぐべきなのは、Orlan-10のような、軽易でありながら高い性能を持つUAV、そしてトルコ製クズルエルマのような強力なステルスUAVでしょう。

 どちらも、日本が独自に開発することは十分に可能です。Orlan-10はほとんどの部品が市販品であり、同等のものを極めて短期間に開発することができます。

 日本はOrlan-10に性能が近い製品として、米軍が使用する『スキャンイーグル』を既に導入しています。しかし、一式13億円もするため、損失を気にせず運用するには少々高級過ぎます。クズルエルマのようなUAVは、先進技術実証機である『心神』などの技術を活かすことで開発できます。輸出を行うこともできるでしょう」(2022/03/23 JBpress・数多 久遠)。