断章495
ネズミ男は、東の大海に浮かぶ「動物王国」で暮らしている。つれあいのハムスター女は、若い頃に勤めていた会社の社員旅行で香港に2回、台湾に1回行ったことがあるらしい。時々「あ~、美味しい中華が食べたい」というが、家計が許す範囲は、“ほか弁”の「中華丼」(税込み550円)である。そんな時は、ふだん食費を節約しているネズミ男も、「じゃあ、ついでにとりめしスペシャル1個買うてきて~」と、大胆に乗っかるのである。税込み670円である。贅沢なようだが、弁当に入っている小さな肉団子2個と小さいウインナー1本と鶏肉3分の1を次の食事に回すので、一回の食費は670円の7割くらいではないだろうか。
500円玉貯金のために食費を節約してきた。つづけると500円玉貯金も愉しいのである ―― 楽しむ…与えられたこと(物理的に)に対して楽しく過ごすこと。愉しむ…自分自身の気持ち、思いから感じ生まれるたのしい状態。自分自身の考え方でいくらでも変わるということ ―― (う~ん、奥が深い)。
ネズミ男は飛行機に乗ったことがない(飛行機で飛びなれた大学知識人、たとえば斉藤某や白井某よりよほどやさしく環境に接してきたのだ)。それでも夢はあった。「リラの花咲く頃のパリを見て死にたい」。
甥っ子は言った。「おっちゃん。格安なら案外やすう行けんで~」と。
「希望をもっていれば運命は変えられる」。500円玉貯金は、俄然、しがない貧乏ジジイの「蒼穹の昴(そうきゅうのすばる)、希望の星」になった。そのはずだった。
古いパソコンが悲鳴をあげ、古びた風呂場の床タイルが剥がれて、ネズミ男に夢の終わりを告げた。
共産主義社会になれば、わたしも大学知識人たちのように、自由に何度でも海外旅行ができるのだろうか? 地球人口80億人の誰もが?
たとえ、「ほしがればほしがるほど、心は貧しくなる」と言われても、人間(ヒト)の欲望は尽きないのでは?