断章118

 「たった一度 忘れられない 恋ができたら 満足さ」(『ヘビーローテーション』♪ AKB48)。

 昨日のネズミ男の夕餉(ゆうげ)は、ヘビーローテーションの鍋だった。近江牛も平牧三元豚ズワイガニもカキも高級魚も入っていない。一人前3個、小さな冷凍ワンタンが入っているだけの野菜メインの鍋である。それでも、肉屋さんからタダで貰ったハムの切れ端(当時はタダだった)と一袋10円だったモヤシの炒め物、具がネギだけの味噌汁、田舎から送ってくれた米だけで食事をしていた頃にくらべると、豪勢である。健康的でもあるのだ。

 ネズミ男は、中華人民共和国の貧しい下級国民に思いを馳せながら、『中国 ―― とっくにクライシス、なのに崩壊しない“紅い帝国”のカラクリ』(何 清漣)の後半を読んでいる。

 

 「中国の歴代王朝の滅亡は、いくつかの大きな危機が折り重なってやって来た時に生じることが多い。その危機とは(A)統治集団内部の危機、(B)経済危機(最終的には財政危機に集約される)、(C)社会の底辺層の叛乱、(D)外敵の侵入である。こうした危機があいついで出現したり、同時発生すると、その王朝は間違いなく滅んできた。(中略)

 では中国共産党政権はどうだろうか?

 Aについては、利益集団民主化への願望より遙かに強く共産党が崩壊しないことを望んでいるし、海外に移住するだけの財力がない中下級の役人と中産階級は、習近平が中国の現状をなんとか持ちこたえ、致命的な災厄が訪れないことを願ってさえいる。

 Bについては、中国政府には不動産税の徴収のような政策的予備があり、中国政府が財政的になお国家の暴力装置を支え続けられる限り、共産党政権が崩壊することはあり得ない。

 Cについては、中共政権はみずからの権力奪取の経験に基づいて社会の反対勢力を消滅させ、体制を転覆するような組織力の見当たらない『ばらばらの砂』のような状況に民衆を置いている。

 Dについては、中国共産党自身がソ連の全面的支援を受けて国民党に勝利し、政権を奪取した歴史的経験からも、一貫して外部の力が中国に影響を及ぼすことを『平和的転覆』と呼び、きわめて厳格に対応してきた。中共政権は体制をあげて過剰なまでの防御措置を施している」。

 「現代の政治は代理人に委託する政治であり、民衆は選挙で権利を行使することしかできない。しかし、数年に一度のこの選挙は要するに別の政権を選択する機会を民衆に与えているのだ。だが、中国はそうではない。中国共産党政権は武力で奪取した政権であり、現在も銃でにらみをきかせ、民衆はほぼすべての権利を奪われている。西側諸国の人権はとっくに第4世代に入り、同性愛やトランスセクシュアルトランスジェンダーおよびその結婚が保障される時代である。ところが中国人は第1世代の人権すら持ちあわせていない。すなわち公民の政治的権利(選挙権、言論の自由、出版の自由、集会の自由)が認められていないのだ。

 中国の政治的特色は、非民選による無責任政治である。政府と共産党の首脳はそもそもみずからの失政による責任を負う必要がないし、数年に一度の総選挙で政権の座を追われる心配もない。中国を分析する外部のウオッチャーはこの点を見過ごしがちである。

 したがって、たとえ中国の経済が重症に陥り、実体経済が低迷にあえぎ、失業人口が増え続け、政府の借金が膨らみ、金融システムが危機に瀕し、外貨準備高が急速に縮小しようと、政府が引き続き財政吸収(引用者注:徴税)能力を保ち続け、資源(引用者注:諸々のリソースの)吸収ルートが確保され、政府と暴力装置(軍と警察)等々を養えられる限り、中国共産党が政権の座を降りることはあり得ない」(上記著作の抜粋・再構成)。

 

 結語に言う。「以上から、今後10年以内に中共政権が崩壊するような危機の共振現象が発生しないことは明らかだろう。だが、だからと言って北京がまともな政府のように中国をきちんと統治し、危機に満ちた社会を正常な軌道に導くと期待してはならない。中共政権は高圧的な安定維持、プロパガンダ・マシーンの運用、批判的言論の封殺を除けば、その他の正常な管理能力をもはや失っている。この『衰退しても崩壊しない』状態が長引けば長引くほど、中華民族が社会の再建に要する資源はますます失われてしまうのだ」(『中国 ―― とっくにクライシス、なのに崩壊しない“紅い帝国”のカラクリ』何 清漣・2017年刊)。