断章387

 暗い嵐の夜だった。貧乏長屋の雨戸は、激しくがたついた。停電した二間きりの屋内で、ろうそくの灯りがゆれていた。流転辛苦がもたらす夫婦喧嘩は、その寒々しい室内で、夜叉のように荒々しかった。部屋の隅で、わたしは膝を抱えてそれを見ていた。忘れることができない。

 幼児期、そして学齢期にも、山村の祖父母宅によく行かされた。そこには里山があった。里山での楽しい思い出が、何事に際しても、わたしの心の支えとなった。

 「光る丘に渡る風 雨上がりの大地 胸に染みる故郷の 懐かしい香り 忘れることはない」(「はるかなる大地」♪)。

 「明日に向かえば いつしか誰も旅立つのだから 時はまた過ぎてゆく朝焼けの丘に 吹きぬけてゆく風は どこへと向かうのか 夢の名残り集め あの懐かしい大地から 遙かな空へ」(「I WISH」♪)。