断章238

 アテネの守護神・アテーナーは、「知恵と戦いの女神」であり、鎧や楯(イージス)を身につけ長槍を手にしていた。自称「知識人」リベラルが嫌悪しようとも、「左翼」学者がやっきになって妨害しようとも、軍事(防衛)研究を進めることは国家の責務である。なぜなら、新たな兵器が生み出されることによって、世界の勢力地図は一夜にして変わり、最新の兵器を持っている国は世界の覇者となるのだから、自国を守ろうとする者は、軍事(防衛)研究から目をそむけてはならない。

 

 例えば、「戦闘機がミサイルの脅威から解放されるという新たな時代が近づいている。米空軍研究所は、レーザー兵器によるミサイル撃墜試験に成功したと発表した。装置は将来的に戦闘機に搭載される計画で、空中戦の様相は一変すると複数の米専門メディアが伝えている。実験はニューメキシコ州ホワイトサンズ・ミサイル実験場で4月23日に行われ、空中に発射された複数のミサイルを地上のレーザー装置から発射された高エネルギーレーザーが撃墜した」(2019/5/10 海外ニュース)。

 

 「政府は量子技術や人工知能(AI)など民間技術を安全保障分野に転用するためのシンクタンクを2021年度に創設する方針だ。国内外の公的機関や民間企業、大学が持つ技術や知見を幅広く集めて調査・研究する構想だ。テロやサイバー攻撃など新たな脅威の分析や軍事を含む実務に取り入れていく。

 国際社会では最先端技術を使って軍事能力を高める動きが広がっている。AIを使った新型兵器や攻撃型ドローン(無人機)、人工衛星を含めた宇宙防衛など、新技術に精通することが安保戦略の構築にこれまで以上に必要になっている。

 例えば情報処理速度が飛躍的に上がる量子技術は暗号技術など安保面にも応用できるとされ、各国は研究開発にしのぎを削る。日本は安保分野での新技術への対応が遅いとの指摘がある。新たなシンクタンクを通じ、先行する民間の知見も利用し、国家戦略に応用できる潜在的な技術を洗い出す体制を強化する。(中略)

 シンクタンク防衛省や国立研究開発法人、大学などの下に置く案が出ている。トップには民間の有識者招請する方向だ。政府には独自に技術を開発する人材も予算も限られるため、民間からの技術転用を積極的に増やしていく。米国防総省と近いシンクタンク『米ランド研究所』などとも連携する。同盟国の米国が持つ諸外国の技術レベルを共有し、日米の安全保障分野での活用も視野に入れる。(中略)

 新設するシンクタンクは日本の産学官の研究情報を集めて分析し、実際に自衛隊や海保、警察などの装備品の開発や利用に向けて提言する役割を担う。日本政府高官は『現場のニーズを踏まえ、先端技術を安保の実装に生かす頭脳拠点にしたい』と話す。

 米国は中国やロシアの追い上げに危機感を強めており、これまで日本政府も2018年末に決めた防衛大綱に宇宙、サイバー、電磁波という新領域の防衛力整備を進める方針を示している」(2020/1/19 日本経済新聞)。

 

 「人口減少が確実となっている日本では自衛隊の定員確保も難しくなりつつある。2018年の防衛計画の大綱改訂をめぐる議論では『三人(さんじん)』の活用が議論された。無人、省人、婦人だ。

 無人化、省人化に異論はない。女性の力の活用も不可欠だ。第2次大戦時の英米では敵の暗号解読に女性が大活躍した。宇宙、サイバースペース、電磁波といった新領域も女性活用の余地がある。

 私はこの『三人』に『変人』も加えたい。新しい作戦領域では、従来の体力重視の男性の力だけでは不十分だ。体力に自信がなくても、知力や直感に優れた異能の人材を取り入れなくてはならない。

 さえない風体で運動が全くできない研究者が、他人の気づかないエラーを直感的に見つけるのを目撃したことがある。みんなが大丈夫だと言っているところで、ひとりでうなり続けながら、致命的な間違いを見つけ出した。何かがおかしいという直感から、あらゆる可能性を探る力がミスを防ぐことになる。

 AIやビッグデータの活用は、そうした人間の直感をある程度は代替してくれるだろう。しかし、オンラインショッピングでおすすめの品を提示されるように、戦場でAIからターゲットを提示されたとき、ミスがあればその代償はとても大きい。

 あらゆる作戦領域で有人システムから無人システムへの転換が課題だ。水中、宇宙、サイバースペースでは、起きていることを目視するのが難しい。何が起きているのかを想像し、状況を説明できる分析官・情報官と、それに基づいて適切な判断・命令ができる指揮官が必要になる。

 局面を大きく変えてしまう、あるいは攻撃・防御のやり方を大きく変えてしまう技術をゲームチェンジャー技術と呼ぶ。第2次大戦時のレーダーや核兵器がそれに当たる。次のゲームチェンジャー技術が何なのか、各国が開発に力を入れている。

 そうした技術の少なからぬ部分が、民生と軍用の両用である。米国の場合は国防高等研究計画局(DARPA)の役割がよく知られている。大学や民間の研究者との共同研究を行い、インターネットなど民間で利用されるようになった技術にも関与してきた。

 防衛装備庁もまた、国内外の研究機関と協力を進めている。防衛はゲームチェンジャー技術だけで決まるわけではない。それを開発し、駆使する異能の人材の確保が必要である」(2020/10/28 日本経済新聞・土屋 大洋)。