断章167

 「新型コロナウイルスの影響で多くの企業が業績不振に陥るなか、米巨大IT(情報技術)企業が肥大化を続けている。米マイクロソフトの2020年1~3月期決算は売上高、純利益ともに大幅な増収増益となった。米グーグルの持ち株会社、米アルファベットも2ケタの増収だった(引用者注:それを反映して株価も高値に進んでいる)。

 『この2カ月で2年間分のデジタルシフトが進んだ』。マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は、4月下旬の四半期決算会見でこう話した。アルファベットのスンダー・ピチャイCEOも同月の四半期決算会見で『危機後の世界は元の姿には戻らない』と述べた。

 新型コロナの感染拡大は「デジタル化された社会が初めて経験するパンデミック」(ピチャイCEO)だ。世界経済や社会の脆弱性があらわになると同時に、リモートワークやインターネット通販、オンライン診療などでデジタル技術の力を示す大きな機会になった。

 ・・・人々の暮らしに不可欠なライフラインとしてのデジタルサービスの役割はこの10年で急速に高まった。将来のパンデミック再来に備えるためにも、デジタル・ライフラインを鍛え、社会全体で生かす努力が必要だ。

 まず求められるのが、誰もが安全に使えるシステムだ。コロナ禍で急成長したビデオ会議サービス「Zoom(ズーム)」には、オンライン授業や会議などを狙った不正アクセスが相次いだ。ビデオ会議はIT部門を持つ企業だけではなく、子供から大人まで幅広い人々が使うコミュニケーション手段になった。ITに詳しくない利用者でも個人情報を守り、安心して使えるサービスを各社は提供する必要がある。

 利用者の側もITリテラシーを高める必要がある。仕事や暮らしでデジタル活用が急ピッチで進むなか、新技術やサービスを使いこなせない人が増えれば深刻な格差を招きかねない。経済的な理由などでデジタル化についていけない家庭を社会全体で支える仕組みも必要になるだろう。

 企業も対応を迫られる。とくに日本が主力とする製造業のデジタル活用は道半ばだ。注目されるのが『デジタルツイン(デジタルの双子)』と呼ばれる技術だ。製品の設計・開発情報や工場、サプライチェーン(供給網)など、現実世界の情報すべてをデジタル化し、危機下でもシステム上で製品開発や生産工程の見直しができる。(中略)

 他業種に比べ好調に推移しているように見えるネット業界だが、優勝劣敗は確実に進む。感染の収束後に、巨大IT企業の影響力が今まで以上に高まるのは確実だ」(2020/05/20 日本経済新聞)。

 

 しかも、アメリカ巨大ITは、抜かりなく次への布石も打っている。

 「米マイクロソフトは6月30日、新型コロナウイルスの影響で失業した人に対し、再就職に必要な技能教育を始めると発表した。2020年中にIT(情報技術)関連の講座を2500万人に無料で提供する。

 マイクロソフトは、傘下のビジネスSNS(交流サイト)、リンクトインの求人情報をもとに10の職種を選び、関連する同社のオンライン講座を無料で受けられるようにする。『ソフト開発者になる』『グラフィックデザイナーになる』といった内容を計画。マイクロソフトや子会社のGitHub(ギットハブ)が持つ講座も組み合わせる。一部の資格試験では受験料を割り引く。

 サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は30日に配信したオンライン会見で『(コロナで)最も影響を受けた人々に対処し、誰も取り残されないようにする』と話した。自治体や技能訓練を支援するNPOと組んで求職者の利用を促すという。米国を中心に複数のNPOに2000万ドル(約21億円)を拠出する。(中略)

 経済活動の再開が進めば一時解雇者の職場復帰が見込まれる一方、小売りや飲食業を中心にネット通販への移行など事業形態の見直しを迫られる例も相次いでいる。接客などではなくIT技能を求める企業が増え『コロナはスキルの乖離(かいり)を深刻にした』(ナデラ氏)。無料講座を通じて、再就職につなげてもらう。

 マイクロソフトにとっては将来の顧客のすそ野を増やす狙いがある。今回提供する講座の多くは、既存のサービスを再構成したものだ。同社は25年までに、世界で1億4900万人分のIT関連の仕事が新たに生まれるとみている。受講者が再就職に成功すれば、将来にわたって同社のサービスを使い続けてもらえる可能性は高まる」(2020/07/01 日本経済新聞

 

 日本では、ようやく「人工知能(AI)など先端技術を活用した都市『スーパーシティ』構想を実現する国家戦略特区法改正案が今国会で成立」し、「新型コロナの感染拡大を受け、厚生労働省は初診患者でオンライン診療を特例措置で解禁した。学校休校でオンライン教育の需要が拡大した。行政のワンストップサービス(引用者注:最初の手続きを行えば、その後のすべての申請・手続きは個人端末からネットで簡単に処理できること)の重要性も高まる」(2020/05/13 日本経済新聞)状況である。

 しかし、その実情は、「小中高校でオンライン授業の環境整備が遅れている。全国で1割弱にあたる約2800校は2019年時点で高速通信の光回線に未接続のまま。対面指導を前提としてきた硬直的な教育慣行や文部科学省の規制も壁だ。新型コロナウイルス禍による遠隔授業の需要の高まりが、日本の教育現場のハード・ソフト両面のデジタル化の遅れを浮き彫り」(2020/04/29 日本経済新聞)にしており、お寒い限りである。