断章132

 経済さえうまくいっていれば、国民は政治に関心を持たない。しかし、経済危機で生活が出来なくなれば、政府危機なり政治危機になるだろう。

 サメも青ざめるような最悪のシナリオに備えるべきである。危機を語るのは、傍観者の「評論」としてではなくて、「禍を転じて福と為す」ためである。

 

 「トランプ大統領は、新型コロナウイルスの流行を受け、国家非常事態を宣言し、感染拡大の防止に向けて500億ドル(約5兆4000億円)の連邦資金を投入すると表明した。

 大統領は、『連邦政府の力をすべて解放するため、国家非常事態を正式に宣言する』と表明。国内の全州に対し、緊急対策本部を設置するよう要請するとともに、政府は検査の増加に取り組んでいると述べた。米国では新型コロナウイルスの検査キットが全国規模で不足しているとの批判が出ている。

 大統領はまた、コロナウイルス流行の経済的影響を軽減する措置として、戦略石油備蓄のための原油を大量購入する意向を表明。さらに、連邦政府機関が貸し付ける学生ローンの利息を免除する措置も発表した」(2020/3/14 AFPBB News)。

 ―― ちゃっかり、原油価格暴落の苦境にあるシェール企業の救済と民主党大統領候補の選挙公約への対抗策が入れてある。なにより、危機に対して、まだ《カネ》を出せることが羨(うらや)ましい(たとえその原資が借金であるとしても)。

 

 ない袖は振れない。

 日本政府も消費税を下げるといった「奥の手」があるが、もう借金(公的債務)も限界であるから、それをきっかけに外資が「日本売り」をする危険がある。

 日本銀行は、株価を支るために、「3月に入り、2日、6日、9日、10日に行われたETFの買い入れでは、1002億円の買い入れを実施。従来の1回で700億円程度という規模から大幅に増額し、3月上旬にしてすでに4000億円以上の買入を行った。それでも株価下落は止まらない。日銀の買いよりも市場の不安心理(売り圧力)のほうが強いわけだ。

 問題は、今後マーケットがさらに混乱した場合、追加策を打てるかだ。日銀が取りうる策は大きく2つ。マイナス金利の深掘りとETF買い入れ目標の増額だろう。(中略)

 しかし、従前から指摘されているように追加緩和策は多大な副作用を伴う。中でも、マイナス金利の深掘りは金融機関の収益を一段と押しつぶす。

 S&Pグローバル・レーティングの吉澤亮二シニアディレクターの試算によれば、マイナス金利がさらに0.1%引き下げられ、貸出金利もそれに伴って0.1%下落した場合、銀行の稼ぐ力を示すコア業務純益が5年後までにメガバンクで6%、地方銀行で21%下落する。

 これまでの超低金利下で銀行の収益は減退しており、『2019年3月決算で、貸出金利が0.1%低かった場合、地方銀行の88%は預貸業務が赤字になる』(吉澤氏)という。足元で地銀の与信費用は増加しており、新型コロナの影響による景気悪化で倒産増加も予想される。となれば、マイナス金利による収支悪化に与信費用増加が重なって、赤字に転落する銀行が続出する可能性もある。

 これが現実になれば、黒田総裁自身が指摘している『リバーサル・レート』に陥る。政策金利の下げすぎで金融機関の体力が低下し、その結果、金融仲介機能が阻害され、追加緩和の効果が失われてしまう事態だ。

 もう1つの手であるETFの買い入れ拡大には、含み損のリスクが伴う。黒田総裁は3月10日の参議院予算委員会で日銀が保有するETF時価が簿価を下回る損益分岐点について、『(2019年)9月末時点で日経平均株価1万9000円程度だが、500円程度切り上がっている可能性がある』と述べ、損益分岐点が1万9500円程度であるとの認識を示した。

 ニッセイ基礎研究所の試算では、1002億円の買い入れを3回行った3月9日時点で、1万9642円を下回ると日銀の保有するETFに含み損が発生する状態だという。(中略)

 以上のように、日本銀行が大規模な追加緩和を打つうえでは、民間金融機関のダメージか、自身の甚大な財務毀損リスクを覚悟する必要がある。

 仮にこれらの施策でも改善せず、景気悪化となれば、一度『金利』に移行した政策目標を国債買い入れを通じた量的緩和に戻すことにもなりかねない。約500兆円とすでに日本のGDPに匹敵するほどの国債保有し、出口の遠い日銀にとっては量の拡大は避けたいはず。先進国の中央銀行との緩和合戦に発展した場合、日銀はどう動くのか。少なくとも『静観』という選択は許されない状況だ。」(2020/3/11 東洋経済・藤原 宏成)

 

 再選をみすえるトランプ大統領には、なお手立てが残っている。

 第1に、FRB米連邦準備制度理事会)による利下げ、第2に、大型減税、第3に、対外関税障壁の停止、第4に、戦争(イラン?)による戦争景気などである。

 景気後退を回避するために、大々的なケインズ主義的財政支出と金融緩和の内需拡大政策が採られれば、比較的短期間で株価は回復するだろう。

 

 しかし、それは、さしあたりのバブル延命と危機の繰り延べでしかない。というのは、アメリカの株高の構図は、「信用度が低い会社も含めて米企業が社債を発行する → 低信用度の社債を金融機関がCLO(担保付ローン証券)に編成して販売する → CLOは低金利で運用難の金融機関(とくに日系)が買う → 企業は調達した資金を自己株買いに使い株価を上げて株主に報いる → ついでにストックオプションを持っている経営者も儲かる。(中略)この構造のおかげで、アメリカの社債バブルが起こり、その副産物としてアメリカの株価が大いに上がり続けていたのだろうと、筆者は考えている。

 ひと回り前の子年(引用者注:リーマンショック時)に流行っていたCDOが、12年後に皆が忘れた頃にCLOという形で舞い戻ってきて、(引用者注:目先、簡単には崩壊しないとしても、もし)それが続々と破綻すると」(2020/3/14 東洋経済・山崎 元)、大惨事になるだろう。

断章131

 すぐる2月25日、ジェームズ・パーマーは、フォーリン・ポリシー誌にこう書いた。

 「新型コロナウイルスの感染拡大がさらに深刻化した場合、世界はどうなるのか?

 国や都市を封鎖すれば恐怖を煽る。恐怖は市場を歪ませ、生産性を破壊する。分断は国際協力を不可能にし、渡航制限を招く。最も危険なシナリオは、ウイルスの影響が巡り巡ってシステム全体を崩壊させるシナリオだ。

 世界は、そのシナリオがどのようなものかを武漢ですでに目にしている。ウイルスによって、かねてから脆弱だった医療システムは完全に機能が停止してしまった。その結果、人数は不明だが、死ぬ必要のなかった死者が出た。彼らが命を落としたのはウイルスのためではなく、治療のための十分なベッドや機器、救急車が足りなかったからだ。

 中国は、一人当たりで見ればまだ貧しくても、国としては膨大な富と人的資源を有している。インドやインドネシアなどの国々は、巨大な人口を抱えていても資源はかなり少なく、より厳しい状況に陥るかもしれない。医療から銀行にいたる日常的なサービスが機能停止になれば、その波及効果は壊滅的なものとなるだろう」。

 

 そして今日、「13日午前の東京株式市場で、日経平均株価は前日比1478円安の1万7081円14銭と急落した。世界的な株安に歯止めが掛からず、海外では閉鎖するヘッジファンドが出てきた。国内機関投資家も運用面で苦境に立たされている。株価などの価格を形成する市場機能が低下し『壊れた』状況にあって、相場が本格的な反発局面に向かう糸口さえつかめない状況だ。

 『農林中央金庫のCLO。どうなるんでしょうね』―― 暴落する相場を横目に国内証券トレーダーが警戒するのは、農林中央金庫保有するローン担保証券(CLO)にほかならない。19年12月末時点の保有残高は8兆円に上る。

 新型コロナウイルスへの対応による経済活動の急激な停滞懸念で、米ダウ工業株30種平均が過去最大の下げとなるなか、米金利の低下は小幅なものにとどまった。一方で、米社債市場では金利が急上昇(価格は下落)するなど『信用収縮』というフレーズが脳裏によぎる展開になった。

 野村証券リサーチアナリストの小清水直和氏は、・・・『市場は流動性危機に直面している』との見方を示している。

 適正な金利水準が見極められない状況で、株式市場は注文の厚みがなくなり価格形成機能を失いつつある。流動性の枯渇は、CLOなどのクレジット市場に深刻な打撃をもたらすのは言うまでもない。クレジット資産に傾斜した国内金融機関にとっては今後、バランスシートが毀損するリスクが一段と強まりかねない。(中略)

 いま売れば相場は下がるし、売らなければもっと下がる懸念があるとして、機関投資家は立ち尽くしている」(2020/3/13 日本経済新聞)。

 

 なので、(また繰り返すが)さしあたり、「感染防止のためにテーマパークなどの営業自粛やイベントの中止などが行われており、こうしたところで非正規雇用により働いていた人たちの生活を保障することが急務だ。感染が収まった後の経済活動がスムースに再開できるためには、休業を迫られた企業や需要の落ち込みに襲われた企業の資金繰り支援や債務の繰り延べなどの措置が不可欠である。(中略)

 将来財政負担の原因とはなるが、企業の資金繰りなど存続のために、財政資金の投入や公的な保証を付けるといった制度を緊急に用意する必要があるのではないか。

 感染拡大を防止して早期に終息させることが経済への対策としても最も重要・効果的であり、このための支出で財政赤字が膨張することを避ける局面ではない。また、経済活動の低下にともなって税収の減少も起こって財政赤字の拡大要因となるが、これも甘受するしかない」(東洋経済・櫨 浩一)。

 

 それで、その先は?

 「世界は右傾化し、保護主義に向かい、ブロック化し、グローバリゼーションは逆回転し始めている。

 米国政治は危機対応力を持たず、さらには国際協調関係が欠如しており、景気が悪化すればするほど自国第一主義を貫くことになる。今回の危機に対して米国のリーダーシップに頼った国際協調を期待することはできない。

 そこに追い討ちをかけるかのように原油市場が急落している。中国の景気減速によって原油の世界的な需要が減少していたところに、OPECによる生産調整が失敗に終わり、原油価格が暴落した。原油価格が30ドルを割れば、シェールオイルの採掘会社は採算割れである。現在、米国のシェールオイル企業は原油価格の下落と、社債金利の高騰という2重苦にあえいでいる。

 シェールオイルつぶしを企てたのは、もちろん、ロシアのプーチン大統領である。プーチン大統領の“誘い”に乗ったサウジは、原油の増産を発表した。万事休すである。世界最大の原油供給国となった米国では、原油価格の下落によって、小規模シェールオイル事業者の信用不安という嵐が訪れる可能性も高まっている。こうした低格付け企業の社債を組み入れているCLO(ローン担保証券)市場のクラッシュも懸念される。

 足元、長期金利は低下しているが、米中の貿易戦争がさらに加速し、グローバリゼーションが巻き戻されることによってコストプッシュによるインフレが進む。11月の大統領選挙でもしトランプ政権が2期目に入るとするならば、金利を上げるという選択肢をFRBは取りにくい環境下に置かれるのは変わりないだろう。その場合、インフレに適宜対応することは難しく、政策は後ずれすることになる。その間に悪いインフレはコントロール不能となり、金利が上昇する。以前から筆者はこの相場はインフレになったら終わりだと指摘してきた。

 中国はすでに米国債をゴールドなどの他の資産に振り替えているが、いざとなれば米国債を売るという伝家の宝刀を振りかざすことも考えられる。米国の政府債務は20兆ドル超、企業の債務は15兆ドル、そして家計の債務は14兆ドルを超えている。

 グローバリゼーションの巻き戻し、米中の貿易をめぐる争いの加速によってのコストプッシュのインフレ、さらにはシェール企業を中心とした莫大な債務を抱える企業のクラッシュなどが複合的に作用し金利に上昇圧力がかかれば、莫大な債務をかかえている米国を未曾有の危機が覆い尽くすことになるかもしれない」(2020/03/12 石原 順)。

 最強国家アメリカに未曽有の危機が訪れるとき、日本はどうなるだろうか?

断章130

 むかしむかし、あるところに、“人食い狼”の大家族が、住んでおいでになりました。祖父がM男、長男がS男、次男がM男、三男がK男で、以下省略させていただきます。この家族は、みんな『赤頭巾』をかぶる“カルト”でございました。

 

 ある日のこと、ロンドンの街角で、祖父のM男が善男善女を相手に、「資本家は、剰余価値が生産されるそのかぎりにおいて労働者を雇用して資本家的生産を行うのだから、資本制的生産様式の廃絶なしに『格差』の解消も労働者の解放もありえない。

 労働者は、プロレタリアート独裁を戦い取り、それを基礎として資本家的私有財産を没収して労働者階級の共有財産に転化し、社会的生産を計画的に組織して社会の階級への分裂を廃絶して、社会の全成員の全人間的な解放を達成しなければならないのだ」と、断言していたのでございます。

 また、クレムリンの塔の上では、長男のS男が、「第1に、プロレタリアートの独裁。第2に、生産手段の国有化と農業の集団化。第3に、計画経済による重化学工業建設が、“社会主義”である~」と、叫んでいたのでございます。

 天安門の上では、次男のM男が、「社会主義建設の総路線とは、大いに意気込み、常に高い目標を掲げ、より多く、より早く、より良く、より経済的に社会主義の建設を進めることであ~る」と、説教をしていたのでございます。

 

 『赤頭巾』は信者に対して、“革命”のために(そのためには“カルト”のために)、総てを擲(なげう)って奉仕すること。但し、“カルト”の部外者に対しては「あらゆる策略にうったえ、巧妙にたちまわり、非合法的手段をとり、口をつぐみ、真実をかくす」(レーニン)ことを、教えたのでございます。

 そうして、長い年月にわたって、『赤頭巾』の“カルト”は栄えたのでございます。

 

 ところが、スターリン批判、ハンガリー動乱、中ソ対立(軍事衝突)、中国文化大革命プラハの春、ベト・カン戦争、中越戦争、アフガン侵攻、ソ連(圏)崩壊などなどが続く中で、ついに秘密が暴かれてしまったのでございます。

 『赤頭巾』を被っていたのは“人食い狼”だったこと。また「第1に、プロレタリア独裁とは名ばかりで、特権的共産党官僚の独裁であること。第2に、生産手段の国有化、農業集団化は、農民を収奪しただけだったこと。第3に、計画経済とは、官僚的軍国主義的な“ノルマと配給”の統制経済だったこと」が。

 

 にもかかわらず、例えば、もうお亡くなりになりましたが、ロシア語通訳の米原万理様のように、日本共産党から離れた後も、「今の社会の仕組みや矛盾を説明するのに、カール・マルクスほどぴったりな人はいないわよ。絶対的とは言わないけれど、今読むことのできる思想家の中では、あれほど普遍的に世の中の仕組みや矛盾をきちんと説明できる思想家は他にいない」(Wiki)と語られる方々が、沢山おいでになるのでございます。

 

 まことに、人間とは哀しいものでございますね。

 直接ご自分に痛みが無ければ、“大粛清”“ラーゲリ”“大飢饉の大躍進”“ポル・ポトのキリングフィールド”“まるで内戦の文化大革命”といった数多の“ファクト”が明らかになった後にも、なお、「ブルジョワ私有財産は、労働者の『疎外された労働』の対象化の産物だから、プロレタリア独裁を樹立して、ブルジョワ私有財産を没収・社会化しなければならない」というマルクスの《ドグマ》にしがみ付いておいでなのでございます。

 

【参考】

 「2019年4月、キューバでは経済活動の自由化を進めるべく憲法改正案が公布された。私有財産の所有、市場原理の役割を認めながらも、共産党一党支配と社会主義体制は維持する」。

断章129

 「金融市場の混乱が止まらない。3月9日、ニューヨークダウ平均株価は一時2000ドルを超す急落となり、S&P500指数はサーキットブレーカーが発動されて売買が停止される事態となった。・・・さらに、原油価格も先週、サウジアラビアとロシアが減産で合意できず、サウジが一転、増産を示唆したことで、WTI原油で1バレル当たり41ドルまで下げ、先物では30ドルも割り込んだ。産油国の財政悪化という材料も加わり市場の混乱に歯止めがかからなくなった」。

 これまでバブルに踊ってきたニューヨーク市場の関係者は、「気が狂いそうな相場展開だ。新型コロナウイルス懸念で市場が不安定になっているところに、今度は(協調減産決裂による)原油安が追い打ちになった。原油価格の急激な値下がりで第2の金融危機が訪れる恐れもある。金融機関はただでさえ金利低下で収益が低迷しているのに、ここにきて原油安となれば石油会社への打撃は免れず、銀行が抱える不良債権も膨らみかねない。こうした金融危機再来の危険性は先週末に原油が急落するまで想定外だった」と語った。(2020/3/10 日本経済新聞

 

 「アメリカは大規模な財政政策を発動するしかない。それはトランプの再選を助ける、中間層向けの大幅減税かもしれない。

 FED連邦準備制度)が日銀のように直接株式(ETF)を買うようにする方法か、政権と歩調を合わせ、財政出動を支えることだろう。

 いずれにしても、それで長期金利は反発する。長短金利のスプレッドが復活すれば、銀行株を中心に、株は一時的に戻る」(東洋経済・滝澤 伯文の記事を再構成)。

 

 しかし、その後に予想されること(「予想はウソヨ、予測はクソヨ」だが)は・・・

 「今回の新型コロナウイルスの感染拡大や景気の減速によって、将来的に一番警戒すべきなのは、中国をはじめとした生産の落ち込みによってサプライチェーンが分断され、コスト・プッシュ型の悪いインフレが起きるというシナリオである。

 今回の原油価格急落によって、そうした懸念がさらに高まることになるだろう。

 一方で、シェールオイルなどの開発が滞り、生産が伸びなくなってきたころに、FRB米連邦準備制度理事会)をはじめとした世界の主要中銀の積極的な緩和策や政府の財政出動によって景気が持ち直し、原油需要がしっかりと回復してくるならば、需給が急速に引き締まる中で価格が70~80ドルまで一気に回復することがあっても、何ら不思議ではないところだ。

 その後、こうした原油価格の急反発がインフレの進行に拍車を掛けるようになれば、FRB金利引き上げに転じざるを得なくなることも十分にあり得るところだ。まだ十分に景気が回復していない段階で、こうした事態に陥るようなことがあれば、せっかく回復の兆しが見えた景気も、改めて大きく落ち込むことになるだろう。景気が後退する中でインフレが進行するというスタグフレーションに陥るリスクは、一段と高まったと考えておいた方がよい」(2020/03/09 東洋経済・松本 英毅)。

 

 そして、「その先に待っているリスクは、金利が上がることによる、債券市場のバブル崩壊の可能性である。実はそれが『新型コロナショックの本番』の可能性がある。混乱は、リーマンショック時のような信用不安よりも先に、現金が不足する事態への対応力だろう。恐らく、そこで普遍的なUBI(最低所得保障)が始まるかもしれない」(東洋経済・滝澤 伯文の記事を再構成)。

 ユニバーサルベーシックインカムであれ、ユニバーサルベーシックサービスであれ、実態は生存ギリギリラインの下級国民への“配給”を意味する。ここでは、ユニバーサルベーシックインカムの導入が仄(ほの)めかされているにすぎないが、この時に起きていることは、世界金融恐慌であろう。

断章128

 雲は光を覆い、嵐が荒れ狂い、ささやかな者たちの喜び悲しみを一顧だにせず、時代はまわる。「従来どおりのやり方では下層は生活していけなくなり、従来どおりのやり方では上層は儲けることが出来なくなる」時代が、また目前に来たのではないか?

 

 焦眉の課題として、「感染防止のためにテーマパークなどの営業自粛やイベントの中止などが行われており、こうしたところで非正規雇用により働いていた人たちの生活を保障することが急務だ。感染が収まった後の経済活動がスムースに再開できるためには、休業を迫られた企業や需要の落ち込みに襲われた企業の資金繰り支援や債務の繰り延べなどの措置が不可欠。(中略)

 将来財政負担の原因とはなるが、企業の資金繰りなど存続のために、財政資金の投入や公的な保証を付けるといった制度を緊急に用意する必要があるのではないか。

 感染拡大を防止して早期に終息させることが経済への対策としても最も重要・効果的であり、このための支出で財政赤字が膨張することを避ける局面ではない。また、経済活動の低下にともなって税収の減少も起こって財政赤字の拡大要因となるが、これも甘受するしかない」(東洋経済・櫨 浩一)としても、すぐにこうした対策ではカバーしきれなくなるだろう。なぜなら、当面する情勢は、“スタグフレーション”を不可避としているように見えるからである。

 

 資本主義の“過剰生産”は‟ケインズ革命”によって、“金融危機”は “じゃぶじゃぶの流動性の供給”によって、つまり、資本主義は危機の多くを国家の介入によって乗り切ってきた。経済官僚たちは、すっかり錯覚してしまった。国家が介入すれば“市場”はどうにでもなると。

 介入や規制がもたらすものは、歪んだ市場経済である。にもかかわらず彼らは、ありとあらゆる“市場”(為替市場や金融市場や貿易市場)に平気で命令を下し、《市場原理》を無視して諸々の介入と規制をのべつ幕なく行ってきた。

 ところが、資本主義の《市場原理》は、様々な経路を通じて、無慈悲に自己の法則を貫徹する。その結果は、ある国では驚異的な資産価格の上昇と目の眩むような「格差」(今や一部の国では、富裕層は守衛が24時間体制で警備するゲートコミュニティに住んでいる)であり、ある国では長期停滞と巨額の公的債務であり、ある国では完全な経済破綻であった。ガチガチの規制のせいで、「社会主義体制」とも揶揄(やゆ)された日本は、座り込んで暮れてゆく空を見ているだけになってしまった。

 

 スタグフレーションになれば、どうなるか?

 「ここ数年は団塊世代が引退し、働き手が減少する中で企業規模を維持・拡大するために労働者を確保する必要があった。しかし、不況期に真っ先に削減されるのは派遣社員や非正規雇用の人員である。のっぴきならない状況になったとき、派遣社員非正規社員には(悪い言い方をすると)『犠牲になってもらう』しかない。派遣・非正規の貧困が社会問題になるだろう。

 非正規・派遣社員を削って守りに入った企業が次に検討するのは、利益にならない自社の社員の削減だろう。特に「働かない高齢社員」への風当たりは強い。年功序列でコストばっかり高くなって、ろくに利益を生まないからだ。ここ数年、日本型雇用に疑問が投げかけられるようになってきたが、正社員の解雇規制緩和についてはまだ進展がない。とはいえ、日本企業にもかつてほどの余裕がなくなっているので、正社員の整理に踏み込む会社も増えてくると思われる。正社員の解雇規制の緩和が検討されるだろう。

 新型コロナ騒動で不要不急の外出を控えるように要請され、企業も在宅ワークを進めている。未だに満員電車での通勤を続ける企業も多いが、在宅ワークに切り替えた企業も多数存在する。1ヶ月も在宅勤務するとさすがにみんな、気付くだろう。『あれ?会社に行かなくてもいいんじゃね?』と。そしてもう一つ。在宅勤務の中で『あの人、別にいてもいなくても変わらなくない?』というのにも気付くはずだ。経営者側も、『在宅でなんとかなるんなら、正社員を抱えなくてもフリーランスを使えばいい』と気付くかもしれない。正社員は一度雇ってしまうと固定費としてずっとコストがかかるが、フリーランスを使うのであれば、経営状態に応じて柔軟にコストを調整できる。アフター・コロナの世界はシビアな成果主義の世の中になるだろう」と、あるブロガーさんは予想している。

 しかも、生活手段が大幅に値上がりすることは避けられない。2012年以後にあったことが、逆回転するのである。

 

 人は喉元をすぎれば熱さを忘れ、経験者の年寄りは死ぬものだから、今では以前の“スタグフレーション”の経験・記憶も残っていないだろう。しかも、危機は、スパイラルかつ急速に進行するものである。腹をくくって、危機に備えよう。

断章127

 過去の経験では、「2002年11月に発生したSARSの場合には、WHO(世界保健機関)がSARS封じ込め成功を発表したのは2003年7月だ。MERSでは2012年9月ころから感染の発生が知られていたが、2015年5月に韓国で感染が広がり、韓国政府が終息宣言を出したのは12月末だった」(東洋経済・櫨 浩一)。

 

 杞憂であることを願う。しかし、わたしの胸騒ぎは続いている。というのは、「泣きっ面に蜂」ということは、よくあることだからである。

 ブラックスワンが飛来して、まだザ・ピーナッツが歌ってもいないのに、モスラのように羽ばたき、それに触発されたかのようにゴジラ級巨大自然災害が襲来し(注:当然これは仮定の話である。気象庁は6日、静岡県を含む南海トラフ沿いの2月以降の地震、地殻活動に関し、「大規模地震発生の可能性が高まったと考えられる特段の変化は観測されていない」とする「南海トラフ地震関連解説情報」を発表している)、さらにいわゆる「灰色のサイ」(公的債務や人口減少・少子高齢化に伴う社会保障費の急増など)が爆走しはじめる。

 加えて、やっかいな事故虫(ジコチュー)が増殖する。

 例えば、「愛知県蒲郡(がまごおり)市で、新型コロナウイルスへの感染が確認された50代の男性。警察への取材で、男性が家族に対し『コロナウイルスをうつしてやる』と言い、外出していたことがわかりました。その後男性は、蒲郡市内にある2つの飲食店を訪れていたのです。

 男性が立ち寄った飲食店の経営者が中京テレビの取材に語ったのは、“怒り”でした。

『警察にもすぐ電話して今、何もできないような状態。頭の中は整理がつかない。言葉では表現できないが怒りしかない』(飲食店経営者)。驚きの行動に、蒲郡市民からも様々な声が。『そりゃいい感じしないわね』。『陽性で出かけること自体 おかしい』(蒲郡市民)。

 自宅待機の要請を聞き入れず、男性が取ったあまりにも身勝手な行動。

 蒲郡市は、濃厚接触者として店員や居合わせた数人の客の健康観察を行っていますが、今のところ、発熱などの症状は出ていないということです」(3/6 中京テレビ)。

 

 マキャベリは、破局的な危機に立ち向かう賢明な指導者は、法律や制度の形式的な解釈や運用に陥ったりすることなく、たえず変化する状況のなかで適切な指導力・判断力を発揮する「徳」(ヴィルトゥ)“資質と能力”を持たなければならないとした。

 同時に、賢明な指導者と有機的に支え合い共鳴し合って危機に立ち向かうべき国民全体の「徳」(ヴィルトゥ)“資質と能力”が、腐敗・堕落する場合こそが最大の危機であると言ったのである。

断章126

 新型コロナウイルスパンデミックに直撃され、ニューヨーク株式相場の直近高値からの下落率は13%に達した。先週の株式相場は2008年のリーマンショック金融危機)以来、最悪の1週間だった(高値から10%の下落は、一般的には、上昇相場から下降相場への転換とみなされる)。

 これから何が起きるのか? 「そして、あなたはどう生きるか?」

 

 新型コロナは、中国経済を直撃中である。中国経済は、2008年リーマンショック時は元気一杯だった。しかし、中国には少子高齢化の影が忍び寄っていた。

 「内需不振で『14億人の巨大市場』に元気がない理由は、携帯電話の販売動向から浮かぶ。中国情報通信研究院によると19年の出荷台数は3億8900万台と3年連続で前年割れし、16年からの減少幅は1億7千万台に及ぶ。

 実はこのわずか3年間で18~30歳の若者は3千万人も減った。90年代に『一人っ子政策』が浸透し、99年生まれは1400万人と90年生まれ(2800万人)の半分しかいない。スマホや自動車、衣服が売れないのは消費意欲が旺盛な若者の減少も大きな要因だ。

 1月17日に発表した19年の出生数は前年比58万人減の1465万人と3年連続で減った。1人の女性が生涯に生む子どもの数を示す『合計特殊出生率』は12~16年平均で1.2程度。出産適齢期の女性も25年までの10年間に約4割減り、出生数の減少は今後も続く。

 高速成長を支えた『農民工』らも頭打ちだ。農村部からの人口流入は都市部でマンションの爆発的な需要を生んだ。だが戸籍のある場所を離れて暮らす『流動人口』は19年末に2億3600万人と5年連続で減った。高齢化した農民工が故郷に帰っているからだ。

 医療や年金など社会保障への財政支出も17年の1.2兆元(約20兆円)から急拡大する。19年には中国社会科学院が『公的年金の積立金が35年に底をつく』との試算を公表した。軍事や治安などの支出も圧迫しそうで、習指導部が掲げる『中華民族の偉大な復興』にも影を投げかける。これまで中国は『人口ボーナス』のメリットを最大限に享受してきたが、逆回転が始まった」のである(2020/1/17  日本経済新聞記事を再構成)。

 

 武者 陵司は、3月3日付けレポートで言う。

 「一人当たりGDPほぼ1万ドルと中進国上位に躍進した人口14億人の中国が、6%という高成長を維持することには無理がある。過剰債務の積み上げ、政府の補助金知的所有権の盗用など、中国経済の発展モデルそのもののサステイナビリティ(持続性)に対して疑義が強かったが、今回のコロナウイルス問題がダメ押しになる可能性が大きい。

 中国はセメント6割 、鉄鋼5割に始まり、家電、スマホなど多くの分野で過半の世界シェアを築き上げ世界の工場になっているが、過度の中国依存のリスクは大きい。まして米国が中国依存の引き下げに躍起になっている米中貿易戦争のさなかである。ロス米商務長官は新型コロナウイルス蔓延に際して、『企業が同国の生産拠点を米国内に回帰させる可能性がある』との無神経な発言をして非難を浴びたが、それがなくても各国企業は中国に大きく依存しているサプライチェーンの抜本的見直しを余儀なくされるだろう。

 すでにアジア新興国の中で中国の人件費は最も高く、労働集約産業は中国から脱出しつつあった。米中貿易戦争でハイテクも脱中国を迫られつつある。新型コロナウイルスの発生は中国のグローバルサプライチェーンにおける地位を引き下げる分水嶺になるだろう。中国の競争相手として台湾、ASEAN(東南アジア諸国連合)などが浮上し、両者間で価格競争が強まるだろう。中国の貿易、経常収支は悪化し、外貨市場ではドルの調達難が一段と進行するだろう。それは国内の金融緊張を高め、バブル崩壊の土台を作る。また、度重なる財政出動と公的部門による民間投融資(例えば体質が悪化したHNAグループ、海航集団は海南省によって公的管理下に置かれた)は財政バランスを急速に悪化させていくだろう」。そして、「経済不況→金融危機→社会不安→レジームチェンジ(体制破綻と再生)という長い落日と再生への行程が始まったといえるかもしれない」と。

 

 この中国の危機は、まるでモスラのような巨大な黒い羽根を広げたブラックスワンの飛来として、わが国に連鎖的金融危機をもたらす可能性がある。

 厄介なことに、日本が直面しているものは、新型コロナのパンデミックとスパイラル的な経済危機だけではない。

 まるでゴジラの襲来のような巨大地震(大津波)である。2011年3月11日には、東北地方を中心に未曾有の被害を引き起こした東日本大震災があった。死者は12都道県で1万5899人、行方不明者は6県で2529人だった。首都直下、また南海トラフなどの発生確率は極めて高い。

 

 ところが、現在日本が持ち合わせている(残っている)、危機に対処するための財政政策的金融政策的なリソースは、お寒い限りである。すでに日本の政策金利は、-0.10%である。さらに、「国債発行残高は、年々積み上がり、2019年度末で897兆円となる見通し。この額は一般会計税収の約15年分に相当し、国民1人当たりに換算すると713万円の借金を負っていることになる。超低金利政策によって金利は低く抑えられているが、金利が上昇すれば、利払い費が重くのしかかる」(nippon.com)のである。

 

 株式市場の下落を受けて、FRB米連邦準備制度理事会)は3日に0.5%の緊急利下げを行った。日銀は過去最大級のETF買い入れ=PKO(株価維持操作)をおこなった。

 しかし、「金利を下げたところでウイルスの感染拡大が止まるわけでも、目詰まりを起こしているサプライチェーンが復活するわけでもない。リーマンショックの時と違って、疫病と関連する景気後退を金融市場は消化できないだろう。ここからの焦点は、米国での感染拡大と中国が封鎖解除できるかという2点となる。

 今後、新型コロナウイルスの拡大が続き、実体経済の悪化から企業倒産が増えてくると、リーマンショック級の金融システム崩壊に見舞われる可能性も否定できないだろう。疫病という問題は、非常にやっかいだ。

 グローバリゼーションは発展途上国からの安価な製品輸出によって、グローバル規模の低インフレやデフレをもたらしたが、貿易戦争や新型コロナウイルスパンデミックリスクは、その巻き戻しである物価上昇というコストプッシュインフレを促す可能性は否定できない。

 トランプ米大統領の登場(アメリカファースト=自国問題最優先主義)で、グローバリゼーションは終わった。今回のパンデミック騒ぎによる隔離政策はこれをより強固なものにするだろう。長期金利が1%割れの現在では、想像のらち外にあるが、いずれはグローバルサプライチェーン(多国間にまたがる生産・流通のネットワーク形成)の分断による供給側のリスクから、インフレやスタグフレーション(不景気の物価高)の問題が浮上してくるだろう。中央銀行バブルの終わりはインフレ(金利上昇)である。その時が本当の危機だ」(2020/03/05 石原 順)。

 なぜなら、インフレになれば、あの最終兵器、最後の禁じ手も役に立ちそうにないからである。むしろ、あの最終兵器、最後の禁じ手が、ハイパーインフレの呼び水になりかねないからなのである。