断章132

 経済さえうまくいっていれば、国民は政治に関心を持たない。しかし、経済危機で生活が出来なくなれば、政府危機なり政治危機になるだろう。

 サメも青ざめるような最悪のシナリオに備えるべきである。危機を語るのは、傍観者の「評論」としてではなくて、「禍を転じて福と為す」ためである。

 

 「トランプ大統領は、新型コロナウイルスの流行を受け、国家非常事態を宣言し、感染拡大の防止に向けて500億ドル(約5兆4000億円)の連邦資金を投入すると表明した。

 大統領は、『連邦政府の力をすべて解放するため、国家非常事態を正式に宣言する』と表明。国内の全州に対し、緊急対策本部を設置するよう要請するとともに、政府は検査の増加に取り組んでいると述べた。米国では新型コロナウイルスの検査キットが全国規模で不足しているとの批判が出ている。

 大統領はまた、コロナウイルス流行の経済的影響を軽減する措置として、戦略石油備蓄のための原油を大量購入する意向を表明。さらに、連邦政府機関が貸し付ける学生ローンの利息を免除する措置も発表した」(2020/3/14 AFPBB News)。

 ―― ちゃっかり、原油価格暴落の苦境にあるシェール企業の救済と民主党大統領候補の選挙公約への対抗策が入れてある。なにより、危機に対して、まだ《カネ》を出せることが羨(うらや)ましい(たとえその原資が借金であるとしても)。

 

 ない袖は振れない。

 日本政府も消費税を下げるといった「奥の手」があるが、もう借金(公的債務)も限界であるから、それをきっかけに外資が「日本売り」をする危険がある。

 日本銀行は、株価を支るために、「3月に入り、2日、6日、9日、10日に行われたETFの買い入れでは、1002億円の買い入れを実施。従来の1回で700億円程度という規模から大幅に増額し、3月上旬にしてすでに4000億円以上の買入を行った。それでも株価下落は止まらない。日銀の買いよりも市場の不安心理(売り圧力)のほうが強いわけだ。

 問題は、今後マーケットがさらに混乱した場合、追加策を打てるかだ。日銀が取りうる策は大きく2つ。マイナス金利の深掘りとETF買い入れ目標の増額だろう。(中略)

 しかし、従前から指摘されているように追加緩和策は多大な副作用を伴う。中でも、マイナス金利の深掘りは金融機関の収益を一段と押しつぶす。

 S&Pグローバル・レーティングの吉澤亮二シニアディレクターの試算によれば、マイナス金利がさらに0.1%引き下げられ、貸出金利もそれに伴って0.1%下落した場合、銀行の稼ぐ力を示すコア業務純益が5年後までにメガバンクで6%、地方銀行で21%下落する。

 これまでの超低金利下で銀行の収益は減退しており、『2019年3月決算で、貸出金利が0.1%低かった場合、地方銀行の88%は預貸業務が赤字になる』(吉澤氏)という。足元で地銀の与信費用は増加しており、新型コロナの影響による景気悪化で倒産増加も予想される。となれば、マイナス金利による収支悪化に与信費用増加が重なって、赤字に転落する銀行が続出する可能性もある。

 これが現実になれば、黒田総裁自身が指摘している『リバーサル・レート』に陥る。政策金利の下げすぎで金融機関の体力が低下し、その結果、金融仲介機能が阻害され、追加緩和の効果が失われてしまう事態だ。

 もう1つの手であるETFの買い入れ拡大には、含み損のリスクが伴う。黒田総裁は3月10日の参議院予算委員会で日銀が保有するETF時価が簿価を下回る損益分岐点について、『(2019年)9月末時点で日経平均株価1万9000円程度だが、500円程度切り上がっている可能性がある』と述べ、損益分岐点が1万9500円程度であるとの認識を示した。

 ニッセイ基礎研究所の試算では、1002億円の買い入れを3回行った3月9日時点で、1万9642円を下回ると日銀の保有するETFに含み損が発生する状態だという。(中略)

 以上のように、日本銀行が大規模な追加緩和を打つうえでは、民間金融機関のダメージか、自身の甚大な財務毀損リスクを覚悟する必要がある。

 仮にこれらの施策でも改善せず、景気悪化となれば、一度『金利』に移行した政策目標を国債買い入れを通じた量的緩和に戻すことにもなりかねない。約500兆円とすでに日本のGDPに匹敵するほどの国債保有し、出口の遠い日銀にとっては量の拡大は避けたいはず。先進国の中央銀行との緩和合戦に発展した場合、日銀はどう動くのか。少なくとも『静観』という選択は許されない状況だ。」(2020/3/11 東洋経済・藤原 宏成)

 

 再選をみすえるトランプ大統領には、なお手立てが残っている。

 第1に、FRB米連邦準備制度理事会)による利下げ、第2に、大型減税、第3に、対外関税障壁の停止、第4に、戦争(イラン?)による戦争景気などである。

 景気後退を回避するために、大々的なケインズ主義的財政支出と金融緩和の内需拡大政策が採られれば、比較的短期間で株価は回復するだろう。

 

 しかし、それは、さしあたりのバブル延命と危機の繰り延べでしかない。というのは、アメリカの株高の構図は、「信用度が低い会社も含めて米企業が社債を発行する → 低信用度の社債を金融機関がCLO(担保付ローン証券)に編成して販売する → CLOは低金利で運用難の金融機関(とくに日系)が買う → 企業は調達した資金を自己株買いに使い株価を上げて株主に報いる → ついでにストックオプションを持っている経営者も儲かる。(中略)この構造のおかげで、アメリカの社債バブルが起こり、その副産物としてアメリカの株価が大いに上がり続けていたのだろうと、筆者は考えている。

 ひと回り前の子年(引用者注:リーマンショック時)に流行っていたCDOが、12年後に皆が忘れた頃にCLOという形で舞い戻ってきて、(引用者注:目先、簡単には崩壊しないとしても、もし)それが続々と破綻すると」(2020/3/14 東洋経済・山崎 元)、大惨事になるだろう。