断章130

 むかしむかし、あるところに、“人食い狼”の大家族が、住んでおいでになりました。祖父がM男、長男がS男、次男がM男、三男がK男で、以下省略させていただきます。この家族は、みんな『赤頭巾』をかぶる“カルト”でございました。

 

 ある日のこと、ロンドンの街角で、祖父のM男が善男善女を相手に、「資本家は、剰余価値が生産されるそのかぎりにおいて労働者を雇用して資本家的生産を行うのだから、資本制的生産様式の廃絶なしに『格差』の解消も労働者の解放もありえない。

 労働者は、プロレタリアート独裁を戦い取り、それを基礎として資本家的私有財産を没収して労働者階級の共有財産に転化し、社会的生産を計画的に組織して社会の階級への分裂を廃絶して、社会の全成員の全人間的な解放を達成しなければならないのだ」と、断言していたのでございます。

 また、クレムリンの塔の上では、長男のS男が、「第1に、プロレタリアートの独裁。第2に、生産手段の国有化と農業の集団化。第3に、計画経済による重化学工業建設が、“社会主義”である~」と、叫んでいたのでございます。

 天安門の上では、次男のM男が、「社会主義建設の総路線とは、大いに意気込み、常に高い目標を掲げ、より多く、より早く、より良く、より経済的に社会主義の建設を進めることであ~る」と、説教をしていたのでございます。

 

 『赤頭巾』は信者に対して、“革命”のために(そのためには“カルト”のために)、総てを擲(なげう)って奉仕すること。但し、“カルト”の部外者に対しては「あらゆる策略にうったえ、巧妙にたちまわり、非合法的手段をとり、口をつぐみ、真実をかくす」(レーニン)ことを、教えたのでございます。

 そうして、長い年月にわたって、『赤頭巾』の“カルト”は栄えたのでございます。

 

 ところが、スターリン批判、ハンガリー動乱、中ソ対立(軍事衝突)、中国文化大革命プラハの春、ベト・カン戦争、中越戦争、アフガン侵攻、ソ連(圏)崩壊などなどが続く中で、ついに秘密が暴かれてしまったのでございます。

 『赤頭巾』を被っていたのは“人食い狼”だったこと。また「第1に、プロレタリア独裁とは名ばかりで、特権的共産党官僚の独裁であること。第2に、生産手段の国有化、農業集団化は、農民を収奪しただけだったこと。第3に、計画経済とは、官僚的軍国主義的な“ノルマと配給”の統制経済だったこと」が。

 

 にもかかわらず、例えば、もうお亡くなりになりましたが、ロシア語通訳の米原万理様のように、日本共産党から離れた後も、「今の社会の仕組みや矛盾を説明するのに、カール・マルクスほどぴったりな人はいないわよ。絶対的とは言わないけれど、今読むことのできる思想家の中では、あれほど普遍的に世の中の仕組みや矛盾をきちんと説明できる思想家は他にいない」(Wiki)と語られる方々が、沢山おいでになるのでございます。

 

 まことに、人間とは哀しいものでございますね。

 直接ご自分に痛みが無ければ、“大粛清”“ラーゲリ”“大飢饉の大躍進”“ポル・ポトのキリングフィールド”“まるで内戦の文化大革命”といった数多の“ファクト”が明らかになった後にも、なお、「ブルジョワ私有財産は、労働者の『疎外された労働』の対象化の産物だから、プロレタリア独裁を樹立して、ブルジョワ私有財産を没収・社会化しなければならない」というマルクスの《ドグマ》にしがみ付いておいでなのでございます。

 

【参考】

 「2019年4月、キューバでは経済活動の自由化を進めるべく憲法改正案が公布された。私有財産の所有、市場原理の役割を認めながらも、共産党一党支配と社会主義体制は維持する」。