断章500
「ブルジョワジーは、かれらの100年たらずの階級支配のあいだに、過去のすべての時代をあわせたよりも、大量で巨大な生産諸力をつくりだした。自然諸力の征服、機械装置、工業と農耕への化学の応用、汽船、鉄道、電信、世界全土の耕作、河川の可航化、全部が地中からわきでた住民 ―― 過去のどの世紀が、このような生産諸力が社会的労働の胎内にねむっていると、予想したであろうか」(『共産党宣言』、1848)。
「ブルジョワジーは、すべての生産用具の急速な改良によって、限りなく容易になった通信によって、あらゆる国民を、もっとも野蛮な諸国民をも、文明にひきいれる」(同上)。
たとえば、「空調機器のダイキン工業でインド・東アフリカ地域の責任者を務めるカンワルジート・ジャワ常務専任役員はロイターとのインタビューで、アフリカのナイジェリアで空調機の組み立てをまもなく始めると語った。新型コロナウイルスの感染拡大により遅れていたアフリカ市場の事業強化を再開させる。(中略)
アフリカ市場については『気候をはじめ、インフラや生活に対する価値観など、インドとの共通点が多い。欧州(で販売する場合)と比較して競争優位性がある』と述べ、自身が主導したインドでの成功例を同地域でも再現し、先行する韓国、中国企業などに対し巻き返しを図るとしている。同社は2025年までにケニア、タンザニア、モーリシャスなどの東アフリカ地域ではトップシェア獲得を目指している。
ダイキンのインド事業の売上高は過去10年間で約10倍に拡大、2025年には2021年対比で2倍の約1,000億インドルピー(1700億円)を見込む。『今後も爆発的な需要が見込まれる』(ジャワ氏)といい、2023年にはインド南部に国内で3拠点目となる工場を稼働させる」(2022/09/30 ロイター通信)。
人類史上もっともパワフルな経済エンジンは、資本システム(資本制生産様式)である。ただし、この資本システムは、過酷な競争システムである。競争に負ければ、淘汰される。
「国家は、成熟するにつれて、新たな法律が追加され、諸規制が増え、制度は複雑化していき、既得権益集団が力を振るうので、動きが鈍くなっていく。そして、野望を持ち小回りを利かせた新興勢力に負けていく」(『劣化国家』)。競争に負ければ、有名企業も学校秀才も淘汰される。
ところで、わたしたち人間(ヒト)は、容姿・気力・体力・知能、すべてが百人百様、千差万別である。そこにはある一定の割合で、生まれつき困難を抱えている人々がいる。
「通常学級に通う公立小中学校の児童生徒の8・8%に発達障害の可能性があることが13日、文部科学省の調査で明らかになった。10年前の前回調査から2・3ポイント上昇し、35人学級なら1クラスに約3人が読み書き計算や対人関係などに困難があるとみられる。このうち約7割が各学校で『特別な教育的支援が必要』と判断されていなかった。文科省は『特別支援教育の知識がある教員が少なく、適切な支援ができていない可能性がある』としている。(中略)
発達障害では先天的な脳の働き方の違いにより、幼い頃から行動や情緒に特徴が表れる。読み書きや計算、推論などを苦手とする学習障害(LD)▽不注意や多動・多弁、衝動的な行動がある注意欠陥多動性障害(ADHD)▽対人関係が苦手で特定の事柄へのこだわりが強い高機能自閉症 ―― などを含む。学校で周囲の適切なサポートがないと、不登校やいじめにつながる恐れがある」(2022/12/13 毎日新聞)。不登校やいじめの結果は、どうなるのだろうか?
「ルポライターの鈴木大介は、東京などの都市部に暮らす20代の女性のなかに極度の貧困が広がっていると警鐘を鳴らし、彼女たちを『最貧困女子』と名づけた。
最貧困女子の多くは地方出身で、さまざまな事情で家族や友人と切り離され、都会で孤独に暮らしている。多くの最貧困女子を取材した鈴木は、そこには『3つの障害』があるという。それは精神障害、発達障害、知的障害だ。これは現代社会の最大のタブーの一つで、それを真正面から指摘したことは高く評価されるべきだろう。(中略)
日本においても、知能の格差が経済格差として現れているのだ」(橘 玲)。
かかる現実に対する解決策は、陰鬱な貧困の「脱成長コミュニズム」ではないし、資本主義からの“撤退”(どこへ?)でもない。
この世界(=社会)の資源配分の最適化にかかわる途方もなく複雑な問題を解くことができるのは、官僚指令の計画経済ではなくて、過酷な競争の〈市場〉だからである。
解決策は、「競争による効率性の改善を重視するが、競争に敗れても再挑戦できる社会であり、再挑戦できるだけの力が不足している人たちには、公的な支援制度を整備した社会」(岩田 規久男)にすることである。