断章423

 「ロシアの支配階級には、『他国からの侵略を防ぐことは難しく、これに対処する一番の方法は、逆にロシアの国境を拡大することだ』という深く染み込んだ恐怖と教訓がある。革命の前後を問わず、ロシアの対外政策に対する考え方がほぼリアリストのロジック(論理)に沿って動いていたのは当然である」(ジョン・J・ミアシャイマー)。

 

 だから、「脅威が存在すると認識していないなら、あまりにもおめでたい」(あるスウェーデン軍将校の言葉)。

 

 「今年3月、ノルウェー北部の沿岸に銃声と砲声が響き渡った。フィンランドスウェーデン両軍が初めて連合部隊を編成、北大西洋条約機構(NATO)と合同演習を実施した。両国ともNATOには加盟していない。演習はずっと前から決まっていたが、ロシアのウクライナ侵攻を背景とした欧州の緊迫感の高まりを象徴する形になった。(中略)

 フィンランドはロシアと国境を接し、その距離は1300キロに及ぶ。同国のニーニスト大統領は3月28日、Facebookへの投稿で、NATOのストルテンベルグ事務総長に新規加盟受け入れの諸原則と手続きの詳細を問い合わせたことを明らかにした。また、ハービスト外相はロイター対し、NATOに加盟する30カ国の『ほぼ全て』と新規加盟の可能性を議論したとし、4月半ばまでに議会へ必要事項を提出すると述べた。

 NATO事務総長・ストルテンベルグ氏は3月上旬、NATOウクライナで起きている戦争に関してフィンランドスウェーデン両国とあらゆる情報を共有していると発言。両国は定期的にNATOの会合にも出席しており、ストルテンベルグ氏は演習中、世界で両国ほど近しいパートナーはいないと話した。ただ、ストルテンベルグ氏は、『われわれが加盟国に提供する絶対的な安全保障は当然加盟国にしか適用されない』と述べ、非加盟の両国が置かれた重要な立場の違いを指摘した。つまり両国は、どの加盟国への攻撃もNATO全体への攻撃として対応する集団安全保障の網の目には入っていない。

 ロシアはこれまで、フィンランドスウェーデンNATO加盟には繰り返し反対しており、インタファクス通信によると、3月12日の外務省談話で、両国が加盟すれば『重大な軍事的、政治的結果を招く』と警告している。

 ストルテンベルク氏は、フィンランドスウェーデンが『速やかに』加盟することは可能との考えを示した。今年1月には、『プーチン氏はロシアと国境接するNATO加盟国が減ることを望んでいる。だが(現実には)彼がNATO加盟国を増やしつつあるのだ』と述べている。(中略)

 フィンランドソ連との戦争で約9万6,000人が死亡し、5万5,000人の子どもが父親を失った。ソ連への領土割譲で40万人余りが家をなくした。だが、フィンランド国民は頑強に抵抗する姿勢を示し、この戦争以降は強力な国防力を持ちつつ、ロシアとの友好関係を築くという明確な国家目標を定めてきた。同国は徴兵制を敷き、男女合わせて予備役はおよそ90万人。国際戦略研究所(I ISS)によると、欧州最大級の規模だ。(中略)

 ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、フィンランド国内では各地の予備役部隊、女性だけの予備機部隊に応募する人が増えている。応募した女性の一人のルーメさん(48)はイマトラ(注:ロシア国境に接する町)近郊の住民で『国民は祖国を守る意思を誰もが持っていると思う』と語った。

 フィンランドは食料、燃料、医薬品の国家的な緊急配給制度を持つ数少ない欧州諸国の一つ。第二次大戦以降、すべての主要な建物は地下シェルターを備えることが義務付けられ、全国5万4,000の施設に人口550万人のうち440万人を収容できる。NATO加盟支持者はここ1ヵ月で増加し、直近の世論調査で加盟賛成が62%、反対はわずか16%となった。治安当局は3月29日、フィンランドNATO加盟議論を快く思わないロシアが、世論操作や威嚇に動く事態に警戒すべきと注意を呼びかけた」(2022/04/04 ロイター通信)。

 

 フィンランドは、日本でも比較的よく紹介されてきた。たとえば、「有休消化100%、1人あたりのGDP日本の1.25倍、在宅勤務3割。2年連続で幸福度1位となったフィンランドは、仕事も休みも大切にする。ヘルシンキは、ワークライフバランスで世界1位となった。効率よく働くためにもしっかり休むフィンランド人は、仕事も、家庭も、趣味も、勉強も、すべてに貪欲。でも、睡眠は7時間半以上。やりたいことはやりつつも、ゆとりがある」(堀内 都喜子)という風に。

 

 だが今、わたしたちがフィンランドから学ぶべきは、そんな上辺のことではない。

 「今こそフィンランドの『SISU(シス)』という考え方を学ぶのにピッタリの時です。今回は、『SISU(シス)』とはどういう意味なのか、そしてどのように役立つのかを紹介していきましょう。(中略)

 1940年1月14日のニューヨーク・タイムズ紙の記事では、『SISU(シス):フィンランドを表す言葉』という見出しになっていました。そして『言葉というのは、他の言語にまったく同じ意味の単語があるとは限らないので、簡単には翻訳できない』とあります。(中略)

 この『SISU(シス)』という『行動志向の考え方』は、少なくとも500年以上根付いているもので、『毅然とした決意、強さ、勇敢さ、意志力、忍耐力、不屈の精神』というような意味になります。また、フィンランディア大学による『SISU(シス)』の説明もわかりやすいです。

 『SISU(シス)』とは、つかの間の勇敢さではなく、勇敢であり続ける能力のことです。十分に意味を伝える同じような単語はありません。フィンランド人やフィンランド人の気質を説明するもので、犠牲があってもやるべきことをやるという哲学を表しています。

 『SISU(シス)』とは、フィンランド人の持ち前の気質です。気骨、根性、根気、気力、忍耐、不屈などと言えるかもしれません。困難をしのぎ、最後までやり抜く、誠実さや高潔さの尺度です。『SISU(シス)』とは、過去の失敗から学び、勇気を持って前進する性質のことです。歯を食いしばって、戦いの犠牲をすべて払う気概です。つまり、信じられないようなことを数多く成し遂げる、フィンランド人を際立たせる、不屈の精神です」(2020/07/11 ライフハッカー日本語版)。