断章408

 今もなお、ロシアは全面的な軍事侵攻を「特別軍事作戦」と呼び続けている。

 ウクライナ政治学者のグレンコ・アンドリーは、「今回のロシアによるウクライナ侵略は、前代未聞の暴挙であり、国際秩序を破壊する試みだ。現代の国際秩序では、国家主権が尊重され、各国の国民は自分の意思で自国の方針を決める権利が保障されている。また、国際的に認められた国境を、力によって変えてはいけないという原則もある。そういった秩序を、ロシアは根本的に覆そうとしている。

 ウクライナから領土を奪い、ウクライナを征服することで、ロシアは軍事大国が自分の意思だけで全てを決める世界を築こうとしている。その世界では、軍事大国以外の国は主権がなく、軍事大国に絶対服従する。もしこれを許してしまうと、世界は文字通り、無法地帯になる」(2022/03/09 東洋経済)と言う。

 

 戦争のさなか、口先だけの日本インテリのおしゃべりは止むことがない。「ロシアは悪いが、ウクライナにも問題があった」「NATOは無責任にウクライナを焚き付けた」などなど。

 だから、このグレンコ・アンドリーの主張に対しても、「ウクライナ人としてのバイアスがある」とか言うに違いない。

 

 わたしは、プーチンのように(そして誰であれ)「逆らうな。服従せよ」と言う奴が嫌いだから、グレンコ・アンドリーに賛成する。

 さらに、ここでは、呉 智英に教わった、釈迦の「毒矢の喩え」(通称)を再録する。

 

 「そうであるかもしれないし、そうでないかもしれない、つまり正答に至りえない問いにこだわり徒(いたず)らな議論にふけることは、『戯論(けろん)』にしかならない。

 毒矢を射られて苦しんでいる者がいるとしよう。その時、その苦しむ者の出身が何であるか、弓の種類が何であるか、矢の種類が何であるか、これを議論し、結論が出るまで何もしないとするのが正しいであろうか。まず毒矢を抜かなければならない」。

 

【参考】

 「在日ウクライナ人約10人が10日、国会内で開かれた立憲民主党の会合に出席し、日本政府はロシア産の原油天然ガスの輸入を禁止するよう訴えた。日本国内に逃れるウクライナ人の短期滞在ビザ(査証)の延長や就労・教育支援も求めた。

 米英などがロシア産原油の禁輸を発表したが、日本は即時の同調には慎重な姿勢を示す。これに対し、在日ウクライナ人のITエンジニアの男性は日本の支援に謝意を示した上で、『日本がロシアから天然ガスを購入した資金はすべてウクライナの市民を殺す銃弾になっている』と主張して、禁輸を要望。モデルの女性も『ロシアとの外交、経済面の結びつきを断ってほしい』と求めた。家族と連絡がつかない人もおり、ロシアのウクライナ侵攻について『紛争ではなく一方的な侵略だ』『全世界の民主主義や自由主義を守る戦いだ』との声も上がった。交流団体を運営する女性は『在日ウクライナ人で支援物資を300キロ分集めたが、ウクライナへの発送手段がない』と協力を求めた。

 立憲の泉 健太代表は『日本への避難者の就労などを支援したい。日本もロシアの隣国で恐怖や威圧があり、侵略されているウクライナの皆さんに寄り添う」と述べた」(2022/03/10 毎日新聞)。