断章403
「主権者は理論的には際限のない権力を持つ。しかし、際限のない権力でも、基本法に従って動く官僚機構を通じて行使するほかないのだ。これこそがドイツ人が法治国家と名付けることになるものだ。それは、20世紀にレーニン、スターリン、毛沢東のもとで出現する全体主義独裁とはまったく異なる性格を持つ。全体主義独裁の現実は、法によっても、民主的説明責任によっても縛られることのない専制国家である」(フランシス・フクヤマ)。
もちろん、全体主義体制であれ権威主義体制であろうと、政治的経済的成功 ―― 失地回復や秩序安定や改革開放 ―― によって国民多数の心をつかむことができる。
失地回復で、「ナチは、ほとんど全国民をつかんだ。だからそれは大衆的基盤があり、強力であり、また暴力的である」(ルドルフ・ヒルファディング)。
改革開放で、紅色全体主義・中国共産党は、ほとんど全国民をつかんだ。だからそれは大衆的基盤があり、強力であり、また暴力的である。
秩序安定で、権威主義体制・プーチンも、ほとんど全国民をつかんだ。だからそれは大衆的基盤があり、強力であり、また暴力的である。
プーチンの決断の背景には、冷戦終結とソ連邦崩壊後のロシアが圧倒的に弱かったときに形成された欧州安全保障秩序の在り方を変える、という意思が強く見える。
分断が深まる国内問題とインド太平洋地域での中国との大国間競争に直面するアメリカは、この東欧でのロシアの動きを止めることはできないと、プーチンは考えているのだ。
それに、「経済制裁がどこまで有効だろうか? 例えばロシアによる天然ガスなどエネルギー供給は、欧州にとっては必要でロシアからの流入は止まらないだろう。そのため、キャッシュフロー面でロシアがダメージを受けることは小さいのではないか。欧州、とくにドイツにとって、自国の経済活動はロシアからの安価な天然ガスに依存している面が大きい。
現実的に考えると、エネルギー分野に限っては『のど元過ぎれば熱さ忘れる』にならないとも限らないだろう」(2022/02/27 東洋経済:畔蒜 泰助・笹川平和財団主任研究員)。
では、のど元過ぎて熱さが忘れられたとき、何が起きるだろうか?
国際政治では、つねにその最も“弱い環”で“均衡”が破られる傾向がある。目を東に転じた次の“弱い環”は、わたしたちの日本なのかもしれない。
というのは、日本は、「『国のために戦いたくない』割合が70%超と突出して高い。(日本ほどではないとしても)ドイツとイタリア(およびスペイン)の旧枢軸国も『戦う意欲』が低いグループに入る。これは、第二次世界大戦で政治家を信じてヒドい目にあわされたことで、国のために戦うのはまっぴらだと思うようになったのだ」(『世界価値観調査』)。
しかも、「左翼」インテリは執拗(しつよう)に「日本貶(おとし)め」を続けている。
しかし、見てみたまえ! ドイツは、決然と舵を切った ―― 「ドイツのショルツ首相は27日、連邦議会(下院)で演説し、国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上へと大幅に引き上げる方針を表明した。ロシアによるウクライナ侵攻を受けた政策転換の一環。
ショルツ氏は『自由と民主主義を守るために、わが国の安全保障にもっと資金を投じなければならない』と述べた。ショルツ氏によると、政府は2022年の予算から1,000億ユーロを国防費に充てることを決めた。2021年の防衛予算は全体で470億ユーロだった」(ロイター通信)。
「富国強兵」を忘れた日本の“制裁”に対するロシアの“反撃”は、「北朝鮮」への大々的な軍事支援(たとえば弾道ミサイル潜水艦技術の供与とか)やICBM連続発射実験の“教唆”から始まるかもしれない。
すでにスターリン時代から下地ができている上に、「ロシアと北朝鮮が最近接触を重ね、北朝鮮側の新型コロナウイルス対策が原因で激減した貿易の拡大を模索するなど関係を強めている。鉄道輸送の再開を検討している可能性もある。両国はそれぞれ、北朝鮮の核・ミサイル問題、ウクライナ問題で互いの立場を支持。中国を含めた3カ国で結束し、米国と同盟国陣営に対抗する態勢を固めている」(2022/02/13 毎日新聞)。
そして、「北朝鮮外務省は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について『アメリカがロシアの安全保障上の要求に応じず、強権的な対応をしているのが根本的な原因だ』とアメリカを非難しました」(2022/02/27 NHK NEWS)。