断章375

 庶民にとっては厳しい冬であるが、「左翼」インテリにとっては“我が世の春”である。

 というのは、昨今の日本では、「前衛党」の権威が地に落ち、マルクスマルクス主義の言葉(用語)を安直に利用しても、「前衛党」から「プチブル知識人が生半可(なまはんか)なことを言うな」「マルクス読みのマルクス知らず」などと、お咎(とが)めを受ける恐れがなくなったからである。

 あるいは、薄暗い喫茶店の片隅に呼び出されて、「マルクスを学ぶということは、単なる“教養”じゃあなくて、イスト(注:マルキストコミュニストの省略語)として生きるということじゃあないのかな? 君自身の生きる主体性が問われているんだよ!」と、ねっちり詰められる(注:オルグされる)こともなくなったからである。

 今では、「マルクス」は、「左翼」インテリの重宝な“商売道具”になってしまった。

 思想的緊張感を失った日本の「左翼」インテリにとって肝要なことは、現実世界の実践的変革ではなくて、反政府感情やリベラルな意識に手っ取りばやく訴えることになった。彼らはマルクス(の用語)をお手軽に引用するだけの、何の成果も生まない象徴的な優位性と急進性の化身になった。あるいは、マルクスとあれやこれやを混ぜ合わせた“思想”についておしゃべりするだけの“フリーライダー”に転落した。

 

 時あたかも、中国共産党の機関紙・人民日報は、先週、北京で開かれた第19期中央委員会第6回総会(6中総会)で採択した党史上3度目の「歴史決議」の全文を、第一面をほぼ埋め尽くす異例の扱いで公表した。

 偉大な習 近平・中国共産党総書記は、2017年党大会後の勉強会で中国共産党の精神を定義づけてこう言った。「我々は革命者だ。社会革命を継続しなければならない」。

 「習 近平が今日の力を勝ち得た背景には、この『歴史決議』にも記された反腐敗運動や人民解放軍改革を通じた利権集団との闘争がある。政敵の扱いは苛烈だった。周 永康元中央政治局常務委員や薄 熙来元重慶市党書記・中央政治局委員、軍の制服組ツートップなど何人もの幹部が刑に服した。鄧 小平の親族で江氏に近い保険会社董事長、呉 小暉氏は懲役18年と857億元(約1兆5000億円)の財産没収となった。江氏一派の資金洗浄役とされた投資家の肖 建華氏は香港で連行されて行方不明、同じく頼 小民氏は判決から3週間後に死刑となった」(2021/11/14 日本経済新聞)。

 しかし、タックスヘイヴン(注:超富裕層のために財産隠蔽と租税回避をするための国や地域のこと)を暴露した「パナマ文書」には、偉大な習 近平・党総書記など現職・旧指導部の親族に関連する情報が含まれていたが、中国では、パナマ文書についての報道規制・金楯による検索制限がかかっている。文書に関する初期報道が殆ど削除され、検索エンジンで調べても、適切な検索結果が見つからないことは、周知の事実である。

 

 この中国共産党は、マルクス主義を称え、「中国の特色ある社会主義市場経済」を誇っているのであるが、日本の「左翼」インテリたちは、「君子危うきに近寄らず」とばかりに、偉大なる習 近平・党総書記や中国共産党の話題を避けている。

 日本の「左翼」インテリたちのおしゃべりは、知的な「遊戯のようなところがあって、現実の社会で生ずる実践的な問題と直面したときに、その思考は、あまりにも観念的すぎて無力」なのである。