断章373

 専門家は、よく誤る。2018年に、呉 智英は、こんな例を挙げている。

 「1977年1月の朝日新聞経済欄の、今も続く『経済気象台』というコラムに興味深い記事を見つけた。コラムはこう始まる。『いま世の中が不況であるのは日本に人間が多すぎるからである』。そして、こう続く。『日本の国土に適正な人口は、〈先進国水準ではせいぜい5千万人〉なのだから、いくら生産性が上がっても不況になるのは当然だ。しかるに、日本は人口抑制策を立てていない。人口問題研究所では50年後(つまり2027年)には1億4千万人にもなると報告しているし、国土庁は21世紀(つまり2001年以降)には1億5千万人にもなると推計している。どうなるんだ、日本・・・』。

 いやはや。人口が多すぎて困る、人口抑制策を立てよ、というのだ。専門家の分析が全くあてにならない。このコラムへの批判が出た形跡はないから、世論全般もこれに納得していたのだろう。(中略)

 人口抑制論から40年後の今、識者も世論も人口増加促進論一色である。人口増加自体は一応目指していいだろう。問題はその方策だ。最有力のものが移民(外国人労働者)拡大論である。だが、これは愚策中の愚策だ。ヨーロッパで移民政策のツケが今深刻な問題になっているではないか。初期アメリカの移民とはちがって、ヨーロッパの移民は要するに後進国の安価な労働力を買う経済政策であった。やがて反乱が起きるのは当然だろう。これは国内に植民地を作るようなものだからである」。

 

 マルクス(経済学)の専門家も似たようなものである。

 「変革の理論であるマルクス主義は、ロシア革命というルツボのなかで、支配階級としてのプロレタリアートの理論に鍛えあげられた。しかし、それはまだ一国社会主義の段階の理論にすぎなかった。第二次大戦中から戦後にかけて、東欧および極東に一連の人民民主主義革命がおこり、その輝かしい成功によって人類の歴史上はじめて社会主義世界体制が形成された」(『マルクス主義経済学用語辞典』1967)と書いていた。

 

 ところが今では、「マルクスは、資本主義が持っている法則を読み解いた上で、その法則に従えば、最終的には資本主義は限界に達して社会主義が樹立されると考えたのです。マルクスの影響力は絶大で、彼の理論にもとづいて、ロシアのレーニンや中国の毛 沢東といった人たちが社会主義革命を起こしました。

 こうしてソ連や中国、北朝鮮という国が作られたわけですが、マルクスは、資本主義がいかに非人間的なものかという分析はしたものの、それに代わる社会主義の姿は具体的に提示していません。だからマルクスの本を読んでも、理想の社会主義がどういうものか、どうすればそういう社会をつくれるのか、ということはわかりません。あくまで資本主義の問題点を指摘したに過ぎなかったわけです。

 そのため、社会主義革命を起こした後、レーニンスターリンや毛 沢東、金 日成が勝手な解釈で社会主義国家をつくることになりました。そして、そのいずれもが大失敗をしてしまったのです」(『おとなの教養』池上 彰)と書かれている。