断章369

 ロシア革命や中国革命、カンプチアや「北朝鮮」などの“社会主義革命・運動”の惨憺(さんたん)たる現実・事実・真実は、主流である共産党などの修正派マルクス主義者たちだけでなく、「マルクスに帰れ!」と叫ぶ復古派マルクス主義者たちにも、マルクスの理論(思想)には根本的な欠陥があることを教えるものだ。

 「事実の子たれよ。理論の奴隷たるなかれ」(内村 鑑三)と言う。マルクスへの無批判的な崇敬とは、スッパリ、手を切らなければならない。

 

 人間(ヒト)の普遍本質が、「際限のない欲望」であることは、絶滅や荒廃や断絶をもたらす。しかし、この「飽くなき欲望」があるからこそ、生存や繁栄や協働がありうるのである。

 このことは、「共同体のなかでは地位をめぐる熾烈な競争が行なわれており、『協調しつつ権力闘争する』という複雑なゲームが行なわれている。

 近年の進化心理学では、人間の『自己家畜化』説が主流になっている(引用者注:一般に『自己家畜化』とは、旧石器時代の人類が、小さな共同体で濃密な社会生活を営むなかで徐々に暴力性を低め、向社会的になっていったことをいう)。しかし、家畜化によって向社会性が増したとしても、それは善に向かっての進化というわけではない。そればかりか、向社会性は『内集団びいき』を強化し、他の社会(外集団)への警戒心や排外感情、憎悪・敵意を生み出したとされている。

 すなわち、ヒトは利己的であると同時に利他的でもあり、善悪二元論でどちらが『本性』か議論することに意味はない」(橘 玲)と、言い換えることもできる。

 

 この世界に満ちるのは、極悪で、強欲で、因業(いんごう)な(引用者注:頑固で無情なこと。仕打ちのむごいこと)な人間(ヒト)だけではない。たとえば、「赤いねじりハチマキに赤いシャツで、地震や集中豪雨の被災地に駆け付ける。2018年、山口県の山中で行方不明になった2歳の男の子を無事発見し『スーパーボランティア』と呼ばれるようになった尾畠春夫さん(81)。彼は、『共に助け合う』社会の輪を広げたいと力強く活動」している。

 

 わたしたちは、「人間の愚かさと弱さのみをみて、気落ちする」のではなく、「人間性の限界とともにその豊かな可能性を知る者」(『共産主義との対決』解説から)でありたいと思う。