断章359

 700万年~600万年前という遙かな太古から、21世紀の世界に帰還中であるが、旅に寄り道はつきものである。ということで、中国に寄り道。

 共産党は赤色(紅色)全体主義であり、ナチスは黒色全体主義で、かつてのスペイン・フランコやチリ・ピノチェトなどはカーキ軍事独裁(注:カーキとは「土埃」を意味する言葉で、主として軍服に用いられる淡い茶系色)だと、わたしは考えている。もっとも悪質なのは、共産主義を看板にしている(そのため、世間知らずの「左翼」学者や自称「知識人」リベラルが同伴する)、共産党である。とりわけ悪辣(注:自分の目的を達するためには、どんなひどい事も平気でする、たちが悪い仕方・性質のこと)なのは、朝鮮労働党である。

 この朝鮮労働党の頼れる友党が、中国共産党である。

 

 おなじみのE・トッドの談話から。

 「中国共産党の成功には多くの理由があり、共産党の正統性というのが、第2次世界大戦後の中国国家の独立と関係していることなどが挙げられる。今日まで共産党という名称は変わっていないものの、その意味は変遷してきた。そもそも共産党は、中国の家族文化そして社会文化に内包されている平等という価値観に基づいていた。やがて官僚制度的な側面を強め、指導者グループを選択するマシンとなっていった。今日では共産党に入党するというのは、革命的な思想からではなく、あくまで社会階層を上り詰めるためである。

 このような意味において、今の中国における共産党の根本的な価値、またその唯一の正統性はナショナリズムだ。中国共産党は中国ナショナリズム党ともいえる。

 家族構造の専門家として、これまで中国の民主化をまったく信じてこなかった。中国の家族構造は、強い権威に基づいた共同体家族構造であり、同時に強い平等の価値観も持っている。同じ家族構造カテゴリーに属するほかの国などと比べても、中国はその特徴を強く備えている。また、権威と平等の価値観は共産主義の基本的な価値観でもある。そのため、中国で共産主義が成功した。この家族構造があるからこそ、中国では権威主義と、『ネオ・全体主義』と私が呼ぶものが生き延びたと考えられる。

 中国が世界を支配するというのはありえないと思っている。また、中国の高齢化はさらに深刻化していくだとか、それに伴って生産年齢人口が減少する、成長にもブレーキがかかる、などというのは一般論としては簡単に言える。

 しかしそれを超えたところでの予見となると、中国にはまだまだ不確実な側面が多すぎる。中国が直面している、少子高齢化という人口危機が、いったいどれほど深刻なものになるのかはまだわからないというのが正直なところだ。日本やドイツなどが人口減少という危機に直面したとき、日本は生産の一部を中国などに移したり、ドイツは移民を受け入れたりしてきた。しかし中国のとてつもない人口規模を踏まえると、同じような解決策は通用しない。

 不確実にしている要素として、中国の社会システムの硬直化、権威主義的な側面の台頭、そしてある種の愚かさが挙げられる。あるイギリスの経済学者がロシア(引用者注:旧ソ連)の社会システムについて、『構造的に導き出される愚かさ』と表現したことがある。中国を脅かすものは人口の落ち込みに加え、全体主義的で権威主義的な官僚システムという構造自体がもたらす、規模の大きな愚かさでもある。

 しかし、この点を数値化するのは非常に難しい。だから今は謙虚な態度ではっきりと、『中国の将来についてはわからない』と言うべきだと思っている」(2021/07/19 東洋経済オンライン)。

 

 以下、“中国社会主義市場経済”なるものの本質の一端をうかがわせるレポートを無断転載(おもさげながんす)。

 「2021年7月19日、香港に隣接する中国広東省経済特区・深圳で、『中国で初めて』というケースが起こった。35歳の梁氏が、裁判所から『個人破産申請裁定書』を受け取ったのだ。今年3月1日、中国で初めて深圳で、『深圳経済特区個人破産条例』が施行された。そこにはこう記されている。

 <深圳経済特区に居住し、深圳の社会保険に続けて満3年加入している市民で、経営や生活上の返済能力が喪失した者、もしくは資金不足ですべてを返済できなくなった者は、人民法院(裁判所)に破産を申請することができる。それらは破産清算、再編、和解の申請を含む>

 この新たな規定が適用され、梁氏は晴れて、中国の『個人破産者第1号』に認定されたのだ。梁氏は2018年、ブルートゥース・イヤホン関連の会社を興した。だが昨年からの新型コロナウイルスの影響もあって、銀行への債務がかさみ、返済不能に陥った。負債総額は75万元(約1275万円)。銀行の預金は、3万6120元(約61万4000円)しか残っていない。あとは4719元(約8万円)の住宅積立金だ。

 梁氏は現在、ある会社でエンジニアとして働いていて、毎月の収入は、約2万元(約34万円)。不動産も車も所有していない。梁氏は、3月から『深圳経済特区個人破産条例』が施行されたことを知った。そこで3月10日、深圳市中級人民法院に出向いて、破産申請を行ったというわけだ。

 結局、裁判所の裁定はこうだ。梁氏と夫人は、毎月の基本的な生活に必要な7700元(約13万1000円)を除いて、収入をすべて借金の元本返済にあて、3年以内に完済すること。その代わり、あらゆる利息は免除する。梁氏は地元記者に、こう述べた。『破産申請前、多い時で、1日7~8時間も債権者から電話がかかってきていた。そのため精神的なプレッシャーは、尋常でないものがあった。だがいまは、きちんと働いて、借金を返していくことだけを考えればよくなった』。

 この条例の制定は、『4中全会』(2019年10月28日~31日に開かれた中国共産党第19期中央委員会第4回全体会議)で、「社会主義市場経済体制を速やかに改善し、健全な破産制度を作る」とした方針に沿ったものだ。すでに同様の法律がある台湾と香港を参考にしたと思われる。

 昨日から中国では、この『梁氏のケース』を大々的に報じている。まるで、『困った人は梁氏のように破産申請をしましょう』と呼びかけているかのようだ。それだけ破産者が急増中だということだ。そもそも破産条例を制定したのは、『4中全会』も示唆しているように、中国では不健全なことが続発しているからだ。

 例えば、私が北京に住んでいた10年前にも、事実上の破産に陥る経営者はゴマンといた。その場合、よくあるケースは、ある日忽然と消える。いわゆる夜逃げである。その際、借りている部屋の台所用具や便器、シャワー器具まで、カネになりそうなものはすべて取り外して持ち去るため、家主たちは頭を悩ませていた。彼らはどこへ逃げるかと言えば、大まかに分けて二つである。一つは自分の生まれ育った故郷の村。もう一つは、他の大都市である。

 中国は日本の26倍もの国土があるので、北京で夜逃げした人が、四川省成都で知らぬ顔して生きていくなどということが、普通に起こっていた。ということは、その逆もある。北京へ突然やって来た中国人の中には、『この人何だか訳ありっぽいな』と思う人士もいた。少し親しくなると、自分の『暗い過去』をさりげなく語ってくれたりもした。

 だがあれから10年経った現在は、アリババとテンセントのAIシステムによって『中国は一つ』になったので、中国国内にもはや逃げ場所はなくなった。中国は『夜逃げできない社会』になったのだ。

 そこで最近増えているのが、自殺である。昔は『中国人は自殺しない』という俗説があったが、いまや自殺大国だ。少し古いが、2007年に北京心理危機研究関与センターが出した『わが国の自殺状況及びその対策』という報告書によれば、中国では年間200万人が自殺未遂を起こし、28万7000人が自殺によって死亡しているという。自殺は中国で死因の第5位に数えられ、15歳~34歳までの死因ではトップだ。現在では、統計は発表していないが、ものすごい数の自殺者を出している気がする。私の北京の知人の中にも、過去5年で自殺した経営者が2人いる。最悪なのは、事業が破綻した経営者が、犯罪に走るケースである。横領、詐欺の類から傷害、殺人まで。これも発表された統計はないが、かなりの数に上っているものと思われる。

 李克強首相は一時期、『中国では日々、1万6000社もの会社が生まれている』と誇り、安倍晋三首相にも自慢げにこの話を吹聴していた。中国の市場経済は活性化していると言いたいわけだ。だが私は、『その1万6000社は、その後どうなったの?』と突っ込みたくなったものだ。おそらくは、死屍累々であろう。中国で起業数が一番多いのは深圳で、2019年には50万5127社も生まれた(個人事業主登録も含む)。私は2018年に深圳で、一攫千金を求めて蝟集(いしゅう)する中国の若き起業家の卵たちの実態を取材したが、そこではおそらく世界で最も熾烈な弱肉強食の戦いが繰り広げられていた。3カ月経っても芽が出ない者は、容赦なく切り捨てられていくのだ。

 ある深圳の大物投資家は、『成功者は1万人に一人』と言っていた。『でもその一人が従業員1万人の会社を作れば全員救われる』という論理なのだそうだ。今回の破産条例の制定は、こうした『敗残者』たちに初めて、救いの手を差し伸べたものだ。だが、今月大学を卒業した中国の若者は、909万人! 昨年からのコロナ禍の影響が祟って、就職率は最悪だ。就職できないから親のスネを齧(かじ)って起業するという若者も多く、そのうち少なからずが『敗残者』となっていく。昨今話題の『寝そべり族』などは可愛いもので、その裏には多くの『破産族』が存在しているのである」(2021/07/21 YAHOOニュース・近藤 大介)。