断章349

 氷河期の終わりと安定した温暖な気候の始まりという条件下で、「食域拡大」と「定住」を契機として、森林伐採や野生穀類の採集や野生動物の家畜化が始まった。

 「いわゆる農耕の発生は、B.C.7000年頃で、世界的な共時性があるが、その種類は、西アジアオオムギ・コムギ、中国の雑穀・コメ、タイの根茎類?、メキシコのヒョウタン・カボチャ・トウモロコシと、まったく異なる(したがって、一カ所から他の地域に農耕技術が伝播したとは考えにくい)」(『狩猟採集から農耕社会へ』原 俊彦)。

 実は、「あらゆる野生の動植物の中で栽培化や家畜化ができる種類は、驚くほど少なく、たまたま栽培化や家畜化ができる希少な動植物が存在した地域は、食糧生産や余剰食料、人口増大、技術革新、国家政府の樹立を押し進めるにあたり、圧倒的に有利だった」(ジャレド・ダイアモンド)。農耕の開始は共時的でも、もともと栽培化しやすい穀物や豆類が自生し家畜化しやすい野生動物が多くいた地域は、その後大きく成長できたのである。

 

 「いったん農耕が始まると、B.C.6500年頃には小規模な町が生まれ、B.C.5000年までにメソポタミア南部には数百の町があり、完全に作物化した穀物が主食として栽培されていた。B.C.4000年になると敷地を壁で囲った原始的な『都市』が登場する」(ジェームズ・C・スコット)。

 

 「これまでの人類は野生の動植物に頼る獲得経済を行なっていたが、農耕・牧畜の開始によって生産経済の時代に入った。これは人類にとって真の革命といえ、近代の産業革命以前の最大の革命であり、人類に与えた影響ははかりしれない。生産経済によって人類は自然に働きかけ、これをある程度コントロールし、自力で生活を発展させることができるようになった。人類の社会も文明もこれ以後大きく発展することになる。そして現在にいたるまで、農耕・牧畜の生産経済は人類の生活と文明の基礎となっているのである」(世界の歴史マップ)。