断章329

 「現在はまぎれもなく過去の延長線上に存在している。過去にじっさいに起こったことであれば、いつかふたたび起こる可能性は常にある」(『人類と気候の10万年史』)。

 著者・中川 毅の「古気候学と呼ばれる有史以前の気候変動を解明する研究は、あまり認識されていない気候変動の本当の脅威をわたしたちに教える」。

 

 著者たちの研究グループは、福井県水月湖に堆積する「年縞(ねんこう)」を発見・研究している。

 「年縞(ねんこう)」とは、「何万年も前の出来事を年輪のように1年刻みで記録した地層で、現在、年代測定の世界標準となっている。それは自然科学のみならず、人類史の解明をも推し進めるのに役立つ画期的なものだ。

 その『年縞』が明らかにしたのが、現代の温暖化を遥かにしのぐ『激変する気候』だった。人類は誕生から20万年、そのほとんどを現代とはまるで似ていない、気候激変の時代を生き延びてきたのだった」(前掲書宣伝コピーから)。

 

 「最後の氷期は、今からおよそ1万1,600年前に終わった。それから現在に至るまで、地球はそれほど大規模な気候変動には見舞われていない」(前掲書から引用・紹介。以下同じ)。

 「氷期が終わった当時、地球の公転軌道と自転軸の関係で、北半球の夏に降り注ぐ太陽エネルギーは増加しつつあった。つまり、氷期は時間の問題で終わろうとしていた。だが気候システムは、太陽の変化に歩調をあわせてゆるやかに変動する代わりに、ある瞬間に大きな飛躍を見せた。それまで本質的に不安定だった気候は、一転して安定な状態に切り替わり、地球には安定した時代がやってきた。

 現在の安定な時代がいつまで続くのか、次の相転移がいつ起こるのかは、本質的に予測不可能である可能性が高い。だが地球と太陽の位置関係が、力学の法則に従って変化を続ける限り、今と同じ状態が永遠に続くことはありえない」。

 

 「また、巨大火山噴火が短期的な気象を左右する最大の要因であることが判明している。

 1993年の日本の冷夏の原因は、その2年前にフィリピンで起こったピナツボ火山の大噴火というのが、学会では定説になっている。

 日本のコメ備蓄は不作が2年続くことを想定しているが、1993年の冷夏による不作は1年目の事態としては想定をはるかに超えていた。そのため政府は備蓄米の放出でこれに対応することができず、コメの世界貿易量の2割を超える259万トンを緊急輸入する必要があった」。

 「歴史に残るような大飢饉の多くは、天候不順が数年にわたって容赦なく続くことによって発生しているのである。

 1980年代にアフリカで発生した干ばつは、4年にわたって継続したことで300万人の命を奪った。日本においても、近世最大の飢饉である天明天保の大飢饉は、いずれも冷夏が5年以上も続いたことで深刻化した」。

 

 すでに、日本の豊かさのひとつである森林や海洋の資源は、開発や乱獲で大きな打撃を受けている。気候変動で森林が破壊されれば治水が機能しなくなり、農産物に大打撃を受ける。海産物の減少と並んで食糧不足をもたらす。

 大きな気候変動や世界貿易のボトルネックによって食糧(コメ)不足が起きる時代に向かいつつあるのだろうか?