断章321

 人間の際限のない欲望(その知識欲や一番乗りの名誉欲)は、神の領域 ―― かつて生命を操作することは神をも恐れぬ行いと言われた ―― にまで迫りつつある。

 つい最近も・・・。

 「科学技術が新たなヒトの生命をつくり出す。その段階がすぐそこまで来ていることを予感させる論文が、今月発表された。

 その論文は、科学界に大きな衝撃を与えた。オーストラリアとと米国の二つのチームが、人工的に受精卵(胚)のようなものをつくったと、それぞれに表明するものだったからだ。

 『初期の人間の生命の謎を解き明かすゲームチェンジャー』。論文を発表したオーストラリアのモナシュ大学は、ホームページで興奮気味に紹介した。多くの海外メディアもこの成果を、驚きをもって報じた。

 しかし、こうも伝えている。『実験室でつくられた胚(はい)は、研究、倫理論争に拍車をかける可能性がある』(AP通信)。『人間の遺伝子操作やクローン作製への坂道を、滑り落ちる懸念を引き起こす』(フィナンシャル・タイムズ)。医療分野の研究に役立つ福音だが、同時に警鐘も鳴らしている」(2021/03/28 朝日新聞デジタル)。

 

 「中国と米国の研究チームが、世界で初めてヒトの細胞をサルの胚(はい)に注入して異種の細胞をあわせもつ『キメラ』をつくった。15日付で米科学誌『セル』(電子版)に発表した。培養皿での研究で、子宮に戻したり、子が生まれたりするまでには至っていないが、ヒトに近い霊長類を使った研究は、倫理的な懸念を呼びそうだ。

 研究は中国・昆明理工大と米ソーク研究所などが行った。カニクイザルの受精卵を分裂が進んだ胚(胚盤胞)の状態まで成長させ、ヒトのiPS細胞を注入。サルとヒトのキメラをつくり、培養皿で育てた。1日目には132の胚でヒトの細胞が確認され、10日目でも103の胚が成長を継続。19日目には3つにまで減ったが、成長した胚には、多くのヒト細胞が残ったままだったという。

 動物の体内でヒトの臓器をつくり移植にいかそうと、ブタやヒツジと、ヒトのキメラをつくる研究は世界で進んでいる。日本でも東大の中内啓光特任教授らが取り組む。今回、サルとヒトのキメラをつくったソーク研究所のベルモンテ教授は『ヒトと近い霊長類を使うことで、キメラをつくるための障壁が何なのかの知見を得ることができる』とコメントする。

 一方、サルの胚にヒト細胞を注入する研究は倫理的な懸念も強く、米国立保健研究所(NIH)は、公的研究資金を出さないと決めている。セル誌は、同時に米国の生命倫理学者による解説を掲載。研究の可能性を認めつつ『これが胎内に移植され、胎児になったり、子が生まれたりしていれば、かなり難しい問題になっていた』として、倫理的な議論を進めるよう求めた」(2021/04/16 朝日新聞デジタル)。

 

 倫理的な議論?

 だが、いまや体外受精がありふれたことであり、子供が欲しいとの思いが切実な不妊夫婦は代理出産を選択することもあるのだから ―― 「代理母出産とは、ある女性が別の人に子供を引き渡す目的で妊娠・出産すること。代理出産ともいう。懐胎時を含めて表現するために特に代理懐胎と表す場合もある。

 代理母(ホストマザー)とは遺伝的につながりの無い受精卵を子宮に入れ、出産する(借り腹)。夫婦の受精卵を妻の親族(母・姉・妹など)の子宮に移す方法もあり、日本でも少数ながら実例もある。

 アメリカより費用が安く代理出産ができるインドで、多数の先進国の不妊夫婦が代理出産を行っている。インドでは代理出産用の施設まで作られ、代理母が相部屋で暮らしている。インドにおける代理出産の市場規模は2015年に60億ドルに上ると推計されている」(Wikipediaを再構成) ―― 、この生命科学・生命操作の流れは止まらないだろう。

 

 もうすでに、きっとどこかで、生命の起源に迫る研究に打ち込んできた若き科学者ヴィクター・フランケンシュタインが、「ヒト」の創造に手を染めているに違いない。

 ―― 『フランケンシュタイン』の作家であるメアリー・シェリーは、無神論者でアナキズムの先駆者であるウィリアム・ゴドウィンを父に、女性解放を唱えフェミニズム創始者と呼ばれるメアリー・ウルストンクラフトを母に、ロンドンで生れた。