断章308

 「日本の国家的危機と危機対応の姿は、戦後の『国の形』が国家的危機に取り組むには極めて“不具合”にできており、また、私たちの社会があまりにも無防備であるという厳然たる事実を示している」。

 2013年3月に新潮社から出版された『日本最悪のシナリオ 9つの死角』(財団法人・日本再建イニシアティブ)からは、すでに数回、引用をした。しかし情勢を踏まえれば、何度でも引用しなければならない。また何度でも言います。オールジャパンで危機に対応しよう。オールジャパンで危機に備えよう。

 

 「巨大なリスク社会と巨大なリスク世界が出現してきた。〈中略〉グローバル化は、ヒト、カネ、モノ、情報に加えて、パンデミックサイバーテロなどリスクのグローバル化でもある。それは新興国貧困層中産階級に引き上げる“上げ潮”効果を持つが、成熟民主主義国も新興国も等しく社会の中の格差を拡大させるリスクを高める。〈中略〉

 米国一極体制は崩壊し、多極化、さらには無極化の『新世界』が出現しつつある。太平洋、北東アジア、インド洋、中央アジア、中東での地政学的リスクがこれまで以上に高まっている。〈中略〉

 成熟民主主義国は財政赤字と国家債務の重圧、高齢化と人口減、ガバナビリティ(引用者注:ガバナンス?)の低下による統治不全リスクを抱え込みつつある。

 このような巨大リスク社会と巨大リスク世界を前に、日本はいかにも脆(もろ)い存在であり、備えの不十分な社会である」(『日本最悪のシナリオ 9つの死角』)。

 

 「盲点と死角は、日常、私たちが感じている日本のシステムとガバナンス(注:統治)と意思決定プロセスの問題点である。そこに地雷原のように埋め込まれた数々の神話とシンドローム(症候群)である」。

 「1. 同質性(と閉鎖性)を根拠に、日本が『安全・安心』大国であるかのように思い込み、それを自画自賛する『安全・安心症候群』。

2. リスクを冷静に評価し、それを受け入れることを回避し、ひいてはタブー視する『リスク回避症候群』(失敗や恥を怖れる杓子定規の段取り重視、式典化する訓練) 。

3. 『見ざる、聞かざる、言わざる』の三猿文化。つまりは、利害相関関係者(ステークホルダー)としての参画を意識的に排除し、各省、各部門のタコツボ化と縄張り争いに精出す『部分最適症候群』。

4. 『チームジャパンとしての対応』ができず、『オールリスク』を取る体制ができない『全体真空症候群』。

5. 明確な優先順位を設定することを忌避し、なかでも“損切り”の決断がなかなかできない『トリアージ忌避症候群』。

6. 権限と責任を曖昧にする『総合調整症候群』(総合調整という名の指揮命令系統の意識的曖昧化)。

7. 本部・本店は指図するだけ、ロジスティクス(調達・補給)も不十分、ただただ現場にしわよせを与える『ガダルカナル症候群』と『現場力』神話。

8. 国際社会とともに標準やルールを作り上げていこうという意思と能力を欠き、内輪の都合による進化に任せる『ガラパゴス症候群』。

9. 『安全保障国家』としての形も内容も未熟なまま、いざというときのアメリカ頼みの『GHQ症候群』。」である。

 

 早くから、問題は突き出されていたのである。

 問題から逃げず、失敗をおそれず、過去の誤謬をふかく学んで、そこから成功への道を見出さなければならない。