断章287

 「予想はウソヨ、予測はクソヨ」のとおりになった。

 わたしは予想した。すなわち、2020年3月の株価崩落後の株価上昇は、デット・キャット・バウンス(すなわち「死んだ猫」でも高いところから落とせば地面に当たって跳ね返る。急激な下落相場で、取り立てて買い材料がないにもかかわらず短期的に株価が回復するような場面のこと)だから、株価はふたたび奈落の底に落ちていくだろうと。

 

 ところが、1年後、「11日のニューヨーク株式相場は、米大型経済対策の実現を好感し、5営業日続伸となった。優良株で構成するダウ工業株30種平均は前日終値比188.57ドル高の3万2485.59ドル(暫定値)で終了し、2日連続で史上最高値を更新した。ハイテク株中心のナスダック総合指数は329.84ポイント高の1万3398.67で終わった」(2021/03/12 時事通信)。

 

 「コロナ禍でも株価は上がり、すでに昨年8月末時点で世界の株式市場の時価総額は89兆ドル(9400兆円)と過去最高を更新している。ジェフ・ベゾス(アマゾン)やイーロン・マスク(テスラ)を筆頭に超富裕層の富は拡大し、億万長者の数も増えているにちがいない。なぜこんなことが起きたのか」(橘 玲)。

 それは、「紙幣増刷と財政赤字のドリームチーム『パウエル&イエレン』が指揮をとっているからだ。QEインフィニティ(無制限の量的緩和)とMMT(現代貨幣理論)的なバラマキというバブル延命措置」(石原 順)が功を奏しているというのだ。あの相場の王、レイ・ダリオは、米国株市場にはまだ上昇の余地があると結論づけているらしい。

 

 しかし、「FRBMMTが正しいなら、もはや税金も不要になる。国債をひたすら刷り続ければいいのだから。政府が金をくれて、税金がタダになるなら、こんないいことはない。しかし、この世にタダ飯(フリー・ランチ)というのは存在しない。

 QEインフィニティの量的緩和が再開されたが、量的緩和には『出口』がない。量的緩和を永久に続けられるなら、経済政策で誰も苦労などしない。政府がいくら膨大な予算を組んでも、企業がいくら負債を抱えようと、政府は国債、企業は社債中央銀行に買ってもらえばいいのである。FRBMMTが正しいなら、いま世界で一番経済が好調な国はジンバブエのはずである。しかし、そんなことにはなっていない。

 これからどうなるかは、金利(インフレ)次第である。この過剰流動性相場の終わりのシグナルはインフレだ。株価が暴落するのはインフレになったときである。インフレになれば、中央銀行は利下げも追加緩和もできないからだ。

 『私たちは、中央銀行が経済をコントロールし、危機を好きなように止めることができると信じて自己満足に陥ってきた。これは危険な誤びゅうである。急激なインフレが発生すれば、中央銀行は最終的に利上げを余儀なくされ、過大なレバレッジをかけてゾンビ化した企業や、債務超過でゾンビ化した欧州諸国はほぼ確実に倒されるだろう。金融市場の完全な混乱は、世界が不況か恐慌に陥るのは明らかだ』と、ヌリエル・ルービニは述べているが、われわれが注意すべきは金利の上昇よりも、その上昇スピードであろう。

 【「この株価の長期上昇にトドメを刺しそうなものは?」―― 投資家から、よく尋ねられる質問である。「このような米国株の上昇は前代未聞でお手上げだ」と語っている専門家さえいると聞く。ご存じのように、私は最終的に超弱気である。現在世界中で横行している財政・金融介入によって、債務が前例のない規模に膨れ上がっているからだ。ただし、忘れないでほしい。2008年以降、私は株式空売りの提案を控えている。理由は簡単だ。金融インフレの時代には資産価格が、ほぼ際限なく、つまりシステム全体が破綻するまで上昇し得るからである。超インフレ期に株価がどう動いたか、1919~23年のワイマール共和国や1978~88年のメキシコを例に、すでに何度か説明した。とはいえ、金融インフレに積極的に関与するシステムは、つまるところ破綻する。インフレ期には実質賃金が減少して大衆の生活水準が落ちてしまうからだ。また、状態が急激に悪化している患者(経済)を延命させるため、追加的な資金注入をするたびに、前回よりも効き目があるよう、さらに異次元の投与をする必要にせまられる。この“必要”が最初に投与したときよりも市場構造を、さらに大きく歪めてしまうのだ】(マーク・ファーバー)」(2021/03/11 石原 順を抜粋・再構成)。