断章279

 何が大変かと言えば、「少子高齢化」が大変なのである。日本、韓国、中国などのアジア諸国では、出生率が急低下している。

 たとえば、こんなルポがある。

 「不動産業者から、ソウルの格差を象徴する場所があると聞き、足を運んだ。

 高級住宅街が集まる江南区の外れにある九龍村。約1100世帯が暮らす住居の多くは、ベニヤ板で四方を囲み、シートで夜露をしのいでいる。屋根が吹き飛ばないよう石や古タイヤで重しがしてある。1980年代以降、事業に失敗したり、家族が離散したりした低所得者が身を寄せる。

 この地に暮らして約20年のチョンブナムさん(75)は、役員をしていた建設会社が95年に倒産し、九龍村に流れ着いた。妻と死別してからは長男(35)と2人暮らし。今も建設現場で働きながら食いつないでいる。無許可で建てた家が並ぶ一帯には、再開発の計画がある。鄭さんも市の担当者と立ち退き交渉をしている。『再開発住宅の権利をくれとは言わないが、移る家がないのに“出て行け”というのはおかしい』。村の背後には、ソウル有数の高級マンションがそびえ立つ。地上66階、約120平方メートルの中古で20億ウォン(約2億円)前後。財閥系企業が開発し、芸能人や大手企業幹部らが暮らす。

 『国内総生産GDP)は成長しているそうだが、私たちには関係のないことだ。格差が広がり、真ん中の層が薄くなった』。チョンさんの言う『真ん中』とは中間層のことだ。

 学歴偏重が教育費を高騰させ、少子化や高齢者の貧困を招く悪循環。女性が一生に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は、世界最低水準の0・98となり、衝撃を広げた。経済不安から子どもを持つことに慎重な家庭が増えている。

 チョンさんの長男も職こそあるが、生活は苦しく今も未婚だ。『政権が代わって、何かもたらされたことはない。期待もしないよ』。たそがれ時、夕日に照らされた超高層ビルの長い影が、貧しい村に伸びていた。

 韓国経済は、半導体スマートフォン市場でシェア世界一のサムスン電子など大手企業への依存度が高く、中小企業との待遇格差も日本より大きい。2018年9~12月の所得上位20%層の月収は平均932万ウォン(約93万円)で前年同期比10.4%増、逆に下位20%層は123万ウォン(約12万円)で同17.7%減となり、格差の拡大を数字が裏付けている。

 若い世代の経済不安が少子化の一因とされることから、文在寅政権は若者を採用する中小企業に補助金を出したり、新婚家庭向けに安価な住宅を提供したりしているが、効果は限定的。最低賃金の大幅な引き上げも『零細自営業者への直撃弾』(韓国メディア)となり、コンビニ店主の平均月収は17年の195万ウォン(約19万円)から、18年には130万ウォン(約13万円)まで低下したとの統計もある。

 高齢者の貧困は、1988年に国民年金制度が始まるなど、社会保障制度の整備が遅れたことも要因とされる。政府統計庁は『急速に進む高齢化の速度に韓国社会がまだ備えられていない状況』と警告している」(2019/4/24 西日本新聞)。

 

 そして、「コロナの影響で、日本の昨年の出生数は85万人を下まわった(!)。若者が減り高齢者が長生きするのだから、必然的に、人類史上未曾有の領域に入った日本の少子化と超高齢化はますます加速することになる」(橘 玲)。