断章271

 DNA解析は、遺伝的な疾患の治療にも役立つ(損傷を受けた遺伝子の影響を相殺する薬を開発できる)。

 

 「強烈なボトルネック現象を経験したヨーロッパ人系統のグループ、たとえばアシュケナージユダヤ人、フィンランド人、フッター派信徒、アーミッシュ、サグネイ・ラック・サン・ジャン地域のフランス系カナダ人などは、医学研究者にとって実り多い永遠の研究テーマとなっている。集団の創始者がたまたま持っていた珍しい病気を引き起こす変異の頻度がボトルネック ――人口ボトルネックとは、比較的少数の個体が多くの子供を持ち、その子孫もまた多くの子供を持つと同時に、社会的または地理的な障壁によって周囲の人々から遺伝的に隔離され続けたときに起こる現象 ―― のせいで劇的に増加しているからだ」。

 

 「インドでは、カースト制度(公式には1947年に非合法化された)による厳格な族内婚により、強いボトルネックを経験したグループに属する人が多数いる。インドでは見合い結婚がごく普通に行われているため、潜性遺伝するまれな病気の調査を通してかなりの医学的な成果をあげられるだろう。

 欧米人に、結婚に制約が課せられると言うと当惑したような顔をされるが、インドの無数のコミュニティで見合い結婚が行われていることは事実だし、超正統派ユダヤ教徒の社会でもそうだ。私のいとこもそうやって配偶者を見つけている。アシュケナージ系正統派ユダヤ教徒の社会では、自分の子供4人をテイ-サックス病で亡くしたラビのジョーゼフ・エクスタインによって1983年に遺伝子検査機関が設立されて以来、多くの潜性遺伝疾患の根絶に成功した。

 米国やイスラエルの正統派ユダヤ教徒のハイスクールの多くでは、ほぼすべてのティーンエイジャーを対象に、アシュケナージユダヤ人社会によく見られる潜性遺伝病を引き起こす変異の有無を検査している。もし持っているとわかれば、同じ変異を持つティーンエイジャーに引き合わせることは決してない。

 インドでは、強いボトルネックを経験したグループに属する人の数がはるかに多い。インドでも同じようにできる可能性は大いにあるし、もしそうなれば、恩恵を受けるのは数百人どころではない。1億人以上に大きな影響を与えることができる」(『交雑する人類 古代DNAが解き明かす新サピエンス史』を抜粋・再構成)。