断章213

 主権国家体制とは、中世における普遍的世界の崩壊に伴って16世紀~18世紀のヨーロッパで形成された国家のあり方と世界秩序のことである。それは、国家より上位の権力を認めず、国家間は対等であるとする。

 

 科学技術革命は、まずイギリスにおいて、18世紀半ばから19世紀にかけて「産業革命」として結実した。産業革命において特に重要な変革とみなされるものには、綿織物の生産過程におけるさまざまな技術革新、製鉄業の成長、そしてなによりも蒸気機関の開発による動力源の刷新が挙げられる(その後の技術革新により、蒸気機関が1馬力・時間当たりに消費する石炭は45ポンドから2ポンドまで減った。そのため、イギリス以外でも蒸気機関を導入できるようになって、イギリスが独占的に享受していた競争力は失われていった)。

 

 資本主義とは、〈市場〉での自由な競争をとおして、より良い商品・サービスを提供する企業・個人が勝ち残っていくシステムである。

 資本主義確立の条件は、二重の意味で自由な労働者が生まれることである。

 「二重の意味で」とは、第1に、奴隷ではなく、(労働力の所有者として)自由に契約できる主体ということであり、第2に、生産手段をもたない ── 生産手段から自由な ── 主体ということである。

 かかる資本制的生産様式は、世界で最初にイギリスにおいて胎動を始め、「産業革命」後に支配的生産様式となり、やがて資本制的社会構成体として全面的に確立した。

 資本制社会における支配階級による被支配階級への支配と搾取は、奴隷制社会や封建制社会のように「経済外的強制」という直接的な形態をとらず、蓄積された過去の労働としての資本家的私有財産(資本)による、生きた労働(その源泉としての労働力商品)の支配と搾取という商品形態をもって媒介的におこなわれ、資本家と労働者の階級関係は、資本家の持つ貨幣と労働者のうちなる労働力商品の自由・平等な等価交換という外見の下に隠される。

 『広辞苑』は、資本主義を、「封建制下に現れ、産業革命によって確立した生産様式。商品生産が支配的な生産形態となっており、生産手段を所有する資本家階級が、自己の労働力以外に売るものを持たない労働者階級から労働力を商品として買い、それを使用して生産した剰余価値を利潤として手に入れる経済体制」と定義している。

 

 こうして、ついに近現代の世界に欠かせぬ「トリデンテ」―― トリデンテとはスペイン語で三又(みつまた)の槍を意味し、アタッカートリオを指します ―― 、すなわち主権国家、科学技術革命、資本制的生産様式が出そろったのである。