断章200

 「戦にこれを戦わせ、それが死んで哀れまなければ、誰が汝の前で死戦しようとするか。死ねばこれを悲しみ、傷つけば見舞いに行き手当をするのが兵の主、旗の主というものであるぞ。そのようであれば、兵士は命を惜しまず主の前で死のうとするぞ」

 

 先日、モデルでタレントの紗栄子(さえこ)が、栃木県大田原市狭原の「那須ファームビレッジ」=旧那須野ケ原ファーム=の乗馬・牧草管理・飲食事業の運営に乗りだしたそうである。

 「殺処分となる競争馬たちをこの牧場で引き取り、穏やかな環境でもう一度人と触れ合い、自信を取り戻すことのできるように、“馬を守るための事業”を通して保護馬が新たに輝ける場所を提供したい。人のために頑張って働いてくれた馬たちの余生が幸せであって欲しいと願っています」と彼女はツイートした。

 

 日本のエリートたちは、馬のようにピンと耳をそば立てて、紗栄子の言葉を傾聴すべきである。

 というのは、日本国民の一部は、例えば、「5月末、緊急事態宣言の全面解除を受け安倍晋三首相は『感染リスクをコントロールしながら、段階的に社会経済活動のレベルを引き上げる』と、経済活動の再始動に舵を切り始めた。しかし、自粛の要請で商業施設や飲食店などが休業を余儀なくされた4月から5月にかけて、日本各地で経済活動は停滞し、国民が打撃を受けている。アパレル大手『レナウン』は経営破綻に追い込まれ、大手旅行会社『HIS』は夏のボーナスを支給しないことを決定。コロナ不況がじわりじわりと広がり、非正規労働者が4月に、97万人減少していたことも判明。踏み止まっている人も6月いっぱいでの『雇い止め』が懸念される中、シングルマザーも生活を脅かされる日々を送っている。(中略)

 NPO法人『しんぐるまざあず・ふぉーらむ』の小森雅子さんは、『相談に来られる方の特徴としては、経済的にお困りの方が多いです。ここ1、2か月は何とかなるけど、その後に不安を持っている人が多い。子どもが休校になり、家で面倒を見るために仕事に行けないという方がたくさんいます』と現状を伝え、生活の一端を次のように明かす。『切り詰めるところは食費しかないので、子どもには食べさせますが、自分が1日に1食だけ、なかには2日に1回しか食べません』とおっしゃるお母さんもいます。健康を害するレベルの切り詰め方で、体重が4キロ減りましたという方もいます。肉体的精神的にも追い込まれていますが、過去に役所に相談した際に、何の保障も得られなかったこともあり、どうせ助けを求めてもダメだろうと、あきらめている方は大勢います」(週刊女性プライムから抜粋)という現実に置かれているからである。

 

 “国民を守るための本格的な施策”を講じることが必要である。それを通して、困窮している国民が自信を取り戻し新たに輝ける場所を提供しなければならない。

 例えば、希望者には、6カ月~1年間に及ぶ、手に新たな職をつけるための、あるいは潜在能力を目覚めさせるための職業訓練(職種転換)学習システムを提供する。リモート学習も考慮して、パソコン(もちろん日本製)を無償貸与する。学習に打ち込めるように、期間中は十分な生活給付金を支給する、といったようなことである。

 

 一生懸命頑張っている国民は、誰であれ応援し支えなければならない。一生懸命頑張っている国民(国の土台石であり未来である)を打ち捨てていく国は、滅ぶだろう。

 大清国皇帝になったスレ・ハンがした喩え話がある ―― 岡田 英弘著作集から。

 「昔、或る人を鬼が捕らえて食べようと格闘するとき、その人のカサラ、バサラという二頭の犬が主人を助けて格闘するうちに鬼を咬み殺して主人の命を救った。そして家に還ってくる時、二頭の犬は格闘が激しかったので、疲れて家に辿りつけなくなった。主人は『俺が先に行って食べるものを持って迎えに来よう』と言ったが、家に帰って妻子に会い飽食すると、苦しんだことを忘れ、犬を迎えるのを忘れてしまった。二頭の犬は、『主人は迎えに来ない。我らが死ぬほど格闘して主人を救ったのに、主人は我等を忘れて迎えに来ないならば、我等は主人のもとに何故帰ろうか』と、そのまま気が変わって山に入って狼になったという。それは外でもなく、おそらく恩を知らず人の苦労を忘れるのを諷しているのであるぞ。そのように汝等大臣が先に家に帰って、汝等のために死戦した兵士を、忘れて迎えず、彼等が道中で苦しみ、まだ帰らないで苦労しているならば、犬を迎えに行かなかった者と何の異なるところがあろうか」。

 酷薄な戦死傷者処理があたりまえだった時代でも、優れたリーダーはこうだった。“国民を守るための本格的な施策”を講じることが必要である。

 

 そして、できれば頑張って働いてきた下流老人たちの“余生が幸せなものになる政策”も欲しいものである。