断章170
およそ60年前、日本共産党の不破 哲三は、共産党の機関誌『前衛』1959年6月号に、こう書いた。
「『世界革命の勝利以前に、少なくとも西ヨーロッパの革命が勝利する以前に、経済的に遅れたロシアで完全な社会主義社会を建設することは不可能だ』とする理論は、トロツキーの『世界革命』理論の土台石を形づくっており、この一国社会主義批判は、それがもし誤りだとなったら、国際共産主義運動に対置させてつくりあげたトロツキズムの全体系が一挙に崩壊してしまうほどの比重をしめていた。だが、スターリンを先頭として遂行された20年代の理論闘争の経緯をふりかえるまでもなく、10月革命以来40年間の世界史の発展は、トロツキズムのこの最大の支柱を打ち破りがたい歴史的事実の力でうちくだいた。すなわち、世界革命の不均等な発展が主要な先進資本主義国をまだ資本主義体制のもとにとどめているあいだに、ソ連は社会主義社会の建設を完了し、社会主義は資本主義的包囲を打ち破って世界体制となり、帝国主義者のいかなる攻撃をも撃退しうる力をもちながら共産主義社会への移行をめざして巨大な前進を開始しているのである。ソ連共産党第21回大会でフルシチョフがのべているように、『一国における社会主義の建設と、その完全かつ最終的な勝利にかんする問題は社会発展の世界史的工程によって解決された』のである」。
共産主義(マルクス主義)にとっては、まだ中ソ対立も中国文化大革命もカンボジア・キリングフィールドも中越戦争も起きていない幸せな時代だった ―― とはいえ、すでに欧米では、ソ連・ソ連衛星国での粛清・強制収容所のことは知られていた。日本共産党と同伴者「知識人」たちは、それを無視していたのである。というのは、彼らは、「わたしたちのバックには強大な『社会主義の祖国(ソ連・中国)』がついている。わたしたちが正義だ」と思い込んでいたからである。この不破哲三の言説には、「はしゃいでいる安心感」がある。
かつてソ連では、レーニンの「秘密指令」など多くの“不都合な真実”の文書が文書館(アルヒーフ)の奥に隠された。いま、中国では、検閲があり、一般人の読めない「禁書」がある。日本では、学界・マスコミ・教育界に隠然たる影響力をもつ日本共産党と同伴者「知識人」が、今も陰湿な工作を続けている。
日本共産党が政権を獲得すれば、日本共産党にとって“不都合な真実”の文書一切が、図書館・古書店からも一掃され焼却処分されるだろう(というのは、文書館に隠しておいたのでは、ソ連のように暴かれる日が来るかもしれないので)。
【参考】
「日本共産党は、ソ連崩壊まではソ連等の体制を『生成期社会主義』と呼んでいたのに、ソ連崩壊後、突然『スターリン・ブレジネフ型政治経済体制』という奇妙な造語に置き換え、また1994年の第20回党大会では、それまで『一言の誤りもない』と誇っていた党綱領の文書を説明らしい説明もなしに、ソ連や東欧諸国は『・・・社会主義に到達しえないまま、その解体を迎えた』と変更した」(中野 徹三)。