断章168

 「熊本県南部を襲った豪雨で、熊本県は7月5日、3市町で計19人が死亡したと発表した。八代市はこれとは別に3人の死亡を公表し、死者は計22人となった。熊本県内では18人が心肺停止状態で、11人が行方不明となっている。警察や消防、自衛隊は行方不明者の捜索や被災者の救助活動を続けた」(日本経済新聞)。

 

 コロナ禍だけでなく、日本全国、傷跡だらけである。例えば、今なお、「2018年7月の西日本豪雨で被害の大きかった広島、岡山、愛媛の3県で計2009世帯4642人が仮設住宅などで『仮住まい』を続けていることが27日、各県への取材で分かった」(2020/6/28 中国新聞デジタル)。

 阪神・淡路大地震東日本大震災などで被災して自宅を再建できない多くの高齢者が、仮設住宅などで、どうにかこうにか暮らしている。いま、東南海(南海トラフ)大地震、首都直下地震、内陸大地震などのひとつでも襲来すれば、日本中が仮設住宅暮らしの高齢者で溢(あふ)れるだろう。

 

 「熊本県など九州南部の豪雨を受け、政府は7月5日、非常災害対策本部を設置し、首相官邸で初会合を開いた。安倍晋三首相は『被災者へのきめ細やかな支援は急務だ』と述べ、即応予備自衛官の招集を表明。各省横断の『被災者生活・なりわい再建支援チーム』の設置も明らかにした。この後の持ち回り閣議予備自衛官招集を決定した。

 現地では5日、警察、消防、海上保安庁自衛隊が4万人超の態勢で救命・救助活動を続行。100人超の政府職員が被災者支援などに当たった」(2020/07/05 時事通信)。

 

 コロナ禍と戦う医療関係者、そして災害対策に奮闘する警察、消防、海上保安庁自衛隊予備自衛官)などの危険業務従事者に、心からの感謝を伝えたい。

 

【参考】

 以下は、『VOICE』2020年7月号から一部抜粋・編集したものの無断転載 ―-

 「自衛隊は、今年1月31日~3月16日までのあいだ、中国・武漢からのチャーター機で帰国した邦人や横浜に入港したクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』において、感染対応のための災害派遣活動を行ないました。予備自衛官を含む延べ約4,900名の隊員をもって、医官等による回診や問診票の回収、クルーズ船内の消毒、陽性者の輸送支援などを実施しました。

 3月28日からは海外からの帰国者・入国者を対象とする水際対策強化のため、国内の主要な国際空港で検疫や輸送、宿泊施設における生活支援などを実施しています。

 4月3日以降は市中における感染拡大防止のため、PCR検査で陽性反応が出た患者の空輸や宿泊施設への輸送支援、同検査のための検体採取支援、さらには感染防護の教育支援などを実施しています。

 特徴としては、地方自治体の職員や医療関係者、宿泊施設、タクシーなどの民間事業者に対する感染防護の教育支援ニーズが高かったことです。教育支援では、実技も含め約1,470名の方に『ダイヤモンド・プリンセス号』における自衛隊の活動や防護基準、教訓を紹介しました。

 『ダイヤモンド・プリンセス号』への対応では、派遣隊員から一人も感染者を出すことなく任務を完遂しました。

 『勝因』の第1は、防衛省自衛隊組織力を発揮できた点が挙げられるのではないでしょうか。船内で起きている状況を迅速かつ的確に把握したうえで、計画を作成、実行できました。第2に、隊員一人ひとりが責任感と使命感をもち、防護のための基本動作を愚直に実践してくれたこと。第3に、指揮官が現場で明確な指示・命令を出し、強いリーダーシップを発揮してくれたことです。

 今般の感染症対応の災害派遣は、自衛隊創設以来、まさしく未曾有の経験でした。他方、1995年に地下鉄サリン事件、2011年には福島第一原子力発電所事故において、それぞれ化学物質と放射線汚染下での災害派遣を行なっています。これらは『見えない敵』との戦いである点で、新型コロナへの対応と共通しています。さらにいえば、部隊は平素からNBC放射能、生物、化学)防護の訓練をしていたため、その恐ろしさや感染防護における基礎動作の重要性を認識していました。

 われわれは『ダイヤモンド・プリンセス号』における災害派遣の業務ごとの感染リスクを判定し、防衛省独自の防護基準を設定するとともに、隊員がとるべき基本動作を明らかにしました。また、活動するうえでの動線、待機場所の『ゾーニング』も設定しています。自己完結型の組織である自衛隊には、ウイルスの感染防護に知見を有する衛生部隊がいます。彼らが現地において、一般の部隊に対して教育を行なったことで、感染防護に必要な知識を派遣前から普及しました。

 長期の活動に備えて、クルーズ船に近い本牧埠頭に宿泊及び休養場所を確保するため、防衛省が契約している民間船舶『はくおう』を運用しました。その後、派遣隊員の規模増大により、緊急に民間船舶『シルバークィーン』やコンテナハウスも借り上げました。当初は『ダイヤモンド・プリンセス号』の船内で何が起きているのかわからず、活動の具体的要領は定まっていなかった。まさしく手探りの状態です。それでも部隊は日々の活動で得た教訓を、直ちに次の活動に活かしてくれた。日ごろの訓練の賜物です。

 自衛隊中央病院では、新型コロナの陽性患者を多く受け入れながらも、5月下旬現在、院内感染は起きていません。自衛隊中央病院では、標準的な予防策を徹底しています。患者の対応にあたる医官や看護官は、必要に応じてN95マスクやガウンを着用し、手指消毒の感染防護策を実施するほか、日々の業務終了時に体温を測定し、健康管理に万全を期しました。

 同病院は新型コロナ以前から感染症指定医療機関に指定されており、定期的に対処訓練を実施していました。今回は初めての実際の任務でしたが、訓練と同じ構えで対処できたことが奏功しました。とくに院内感染を防止するため、罹患した可能性のある患者の誘導要領や、感染のリスクに応じた個人防護具の選択及び感染症病床の確保は、対処訓練の成果を活用できた事例といえるでしょう。これまでの教育訓練が間違っていなかった証左だと考えています。

 自衛隊は集団生活・集団行動を基本としているため、ひとりの隊員が一度感染症に罹患すると、隊内に一気に感染が広がる恐れがあります。もしそうなれば部隊の活動基盤は損なわれ、即応性に悪影響を及ぼしてしまいます。この事態を避けるため、自衛隊の部隊長及び隊員一人ひとりが、新型コロナを含むあらゆる感染予防に対する高い意識をもち、注意を払っています。具体的には、手洗いやうがいなどの基本的な衛生管理を徹底しているほか、部隊長は部下の健康状態をつねに管理しています。駐屯地や基地には医務室や健康管理室があり、インフルエンザの蔓延や食中毒の発生防止のための衛生管理も万全です。隊務の運営においては、部隊の精強性を保つために『規律の維持』も重視しています。(中略)

 翻って国外に目を向けると、米軍やフランス軍の空母で感染者が続出するなど、世界の軍隊では新型コロナが蔓延しましたが、他国軍の感染状況をみて、あらためてわれわれの職場は感染拡大のリスクが高いことを痛感しました。自衛隊では、先ほど述べた感染症対策や教育訓練要領の設定に加え、交代制勤務、テレワークを含む在宅勤務、不要不急の外出の自粛を実施してきました。現段階では防衛省自衛隊が一丸となって対策に取り組んできた結果が実を結んでおり、今後も決して気を緩めることなく真摯に対策を講じていきます」(山崎幸二・第六代統合幕僚長の談話から)。