断章122

 アフリカを、“戦争”“革命”“崩壊”“疫病”が席巻し始めている。まず、間欠泉のように勃発する部族間戦争(ジェノサイド)、またイスラム原理主義派による内戦がある。

 

 戦争やテロの原因は、「ユース・バルジ」(注:直訳すると『若者の膨らみ』)にあると、グナル・ハインゾーンは言う。

 「15歳から29歳までの男性が、人口に占める割合の30%を超えると、雇用機会が限られてしまい、居場所を見つけられない若者が増える。多くの若者は、野心や目標を抱いているのに、社会で手に入れられるキャリアや職業といった『ポジション』が極めて少ないとなると、どうなるのか。人口統計上は“余剰”ともいえる若者たちが、激しいいら立ちを覚え、ストレスにさらされる。怒れる若者たちが向かう先は、限られる。チャンスを求めて、移民として他の国へ渡るか、犯罪に走るか、国家への反逆あるいは革命を起こすか、内戦を起こして社会の少数派を排斥し、暴力によって国を征服しようとする」と言うのである。

 

 この「ユース・バルジ」をさらにわかりやすく説明しようと、グナル・ハインゾーンが考案したのが『戦争指標』だ。

 「男性の年齢階層別のうち、55歳から59歳までの間もなく引退を迎えるグループと、15歳から19歳までのこれから社会で競争していくグループの二つを比較し、どれだけ社会に活躍する場所が生まれるかを測る指標だ。

 1,000人が引退して年金受給者になれば、社会の中に1,000人分のポジションが空くはずだ。単純に計算し、二つのグループの人数が1対1であれば、次の世代に仕事があるということだ。ちなみに日本の戦争指標は0.82。つまり1,000人が引退したとき、若者は820人しかいないため、理論上は全員が仕事に就けるということになる。

 アフリカの『戦争指標』をみてみよう。最悪のザンビアは7.0、ウガンダジンバブエは6.9だ。ザンビアでは1,000人分の職業を巡り、7,000人の若者が競い合わなければならない。戦争指標が3以上の国は、若者の社会不安が大きいと言え、何らかの形で暴力に訴える危険性が高い。そしてそういった若者の比率が極端に高い国は現在、アフリカや中東を中心に52カ国もある。暴力に訴えようとするユース・バルジの若者の数は、2050年に20億人になると推定される。(中略)

 人口推移でみると、1914年にフランスとドイツの人口は合計9,800万人、アフリカ大陸は1億1,500万人だった。しかし、2015年にはフランスとドイツは合計1億4,600万人に対し、アフリカは12億人と急激に増加している。(中略)

 アフリカだけではない。中東から欧州を目指す移民希望者は、8,300万人いると言われている」(『週刊エコノミスト』2016年10月4日号)。

 

 戦争・内戦に加えて、食糧生産の“崩壊”と“疾病”新型コロナ肺炎の危機である。

 

 「いまアフリカ北東部で今世紀最大規模のバッタの襲来により農作物が壊滅的な被害を受け、食料不足が深刻化しています。

 Q.バッタの大群ですか?

 サバクトビバッタと呼ばれ体長は5センチほどで、1日に自分の体重と同じ量の植物を食べます。ケニアでは1千億匹から2千億匹のバッタに主食のメイズやソルガムなどの穀物が食い荒らされ、過去70年で最悪の被害となっています。ソマリアでは農作物が壊滅したとして今月はじめ非常事態が宣言され、エチオピアでは旅客機が緊急着陸を強いられました。すでに被害は7つの国に広がっています。アフリカは人口増加と異常気象、紛争などによって慢性的な食料不足に陥っていますが、そこにバッタによる被害が追い打ちをかけ、FAO・国連食糧農業機関によれば1,300万人以上が深刻な食料不足に陥っているということです。バッタの大量発生による深刻な被害を『蝗害』と呼びますが、FAOは今世紀初の『蝗害』になる可能性もあると警戒しています。

 Q.なぜこれほど多くのバッタが発生したのですか?

 気候変動が原因と見られています。インド洋の海面温度の上昇による大量の雨やサイクロンの襲来が大発生を招いたと専門家は見ています。サバクトビバッタは本来、群れを作らないのですが、気象条件によって密集した状態で育つと変異が起きて子どもは群れを作って行動し植物を食べつくすようになるということです。そうして生まれたバッタは今も増え続け、3か月で20倍、9か月後には8,000倍にもなるそうです。

 Q.手の打ちようはないのですか?

 各国で殺虫剤を散布してきましたが、バッタは猛スピードで1日に150キロも移動するため手に負えませんでした。そこで国連は最新鋭のドローンを使ってバッタの大群を追跡し殺虫剤をまく計画を立てています。現地では穀物の植え付けがまもなく始まりますが、バッタの孵化も始まり今後数が飛躍的に増えることが予想されるだけに、早急に制圧しないと食料危機によって数千万人の命が危険にさらされかねません。さらにアフリカだけでなく南西アジアも要警戒だということで、国際社会全体で取り組む必要があります」(2020年02月17日 NHK・二村 伸)。

 

 「エジプトを含む北アフリカサハラ砂漠より南の地域(サハラ以南アフリカ)と比べて所得水準が総じて高い。それに比例して医療水準にも差があり、世界銀行の統計によると、例えば住民1000人当たりの医療従事者の数はサハラ以南アフリカの平均で0.2人だが、エジプトでは0.8人である。それでも先進国と比べて低い(例えば日本では2.4人)が、エジプトの医療体制がアフリカ大陸のほとんどの国と比べて『まし』であることは確かだ。実際、WHOがあげた特にリスクの高い13カ国にエジプトは含まれていなかった。

 そのエジプトで感染者が確認されたのは、むしろ医療水準がそれなりに高いからで、それがもっと低い国では、ただ感染を確認できていないだけではないかという疑念は大きくなる。この疑念をさらに大きくするのが、中国との往来だ。

 中国のアフリカ進出にともない、アフリカ大陸と中国の間のヒトの往来はかつてなく増えており、デジタル航空情報会社OAGによると、双方の間の渡航者数は2018年にのべ254万人にのぼった。WHOが特にリスクを警戒した13カ国のほとんどは中国との直行便をもつ国で、これもアフリカでの新型コロナ拡散に懸念がもたれた一因だった。

 この観点からエジプトをみると、エジプト航空はカイロ国際空港から北京、広東省広州、四川省成都の他、昨年11月29日からは浙江省杭州への直行便を就航させている。エジプトは中国とのヒトの往来が特に活発な国の一つなのだ。

 ただし、カイロ国際空港は1月末の段階で中国からの航空便を全てキャンセルしている。それでもエジプトで感染者が確認されたことから、中国との直行便をキャンセルしていない国での感染リスクは、さらに大きいと想定される。

 このうちエチオピアでは、エチオピア航空が首都アディスアベバと中国4都市との間で直行便を就航させているが、エジプトと異なり、周辺国から懸念や批判が噴出しても、これらをキャンセルしていない。しかし、これまでのところ感染者は確認されていない。

 その一方で、エチオピアはエジプトよりはるかに貧しく、住民1000人当たりの医療従事者数はサハラ以南アフリカの平均をも下回る0.1人にすぎない。

 これらの条件を重ね合わせれば、エチオピアで感染者が確認されていないことが、実際に感染者がいないことを意味するかは、大いに疑問と言わざるを得ない。

 こうしてみたとき、エジプトで感染者が確認されたことは、すでにアフリカで感染が広がりつつあるのではという疑念を深めるものだ。

 ただし、ヒトの動きがグローバルである以上、『感染者を一人も出さないこと』は事実上不可能とみてよい。その意味で、むしろ重要なことは、適切な検査・治療に関する知見の普及はもちろんだが、感染状況に関する正確な情報を各国が共有することだろう。

 だとすると、エジプトの問題はアフリカ大陸で初めて感染者を出したことではなく、感染者の移動経路などを含む情報を公開していないことにある。感染が蔓延しているとみなされれば、現在の日本がそうであるように、観光業などに大きなマイナスとなることは確かだが、情報が不十分なら感染はさらに拡大しかねない」(2020/02/16 ニューズウィーク・六辻彰二)。

 

 アフリカ・中東からさらに多くの移民・難民が、地中海を渡り、ヨーロッパに押し寄せるだろう。