断章120

 今朝の「動物王国」は、身を切るような寒さである。

 朝っぱらから、騒々しくハチ男が飛んできた。「てぇへんだ、てぇへんだー!」。

 ネズミ男「なんでぇ、ハチ、騒々しいぜぇ」。ハチ男「何をのんびりしてるんですよー。ほら、この前、教えてくれた『増毛隊日記』の話ですよー」。

 ネズミ男「待て、待て。いくらわたしが薄毛だからって、『増毛隊』はないだろ。『草莽隊日記』だよ」。ハチ男「そうでしたっけ? それよりも大変なんすよ。『増毛隊』(こらこら。こいつは人の話をちゃんと聞いているのか)の『お上のパンデミック対策が甘すぎる』って話ですけどね。『対策が甘すぎる』のは、実はー、巨大な陰謀だってウワサがあるんすよ」。ネズミ男「いつも言ってるだろー。陰謀論は聞いても人に言うなって」。

 ハチ男「でもー、聞いたら驚きますぜー。防疫が甘いのは、大騒ぎして、習近平国賓来日に水を差したくないという中国への忖度(そんたく)からじゃなくって・・・、あの新型肺炎は持病持ちの老人の死亡率が高いんで、パンデミックが起きて、持病持ちの老人が大勢死んだら、将来の『年金』支払いや『国民医療費』が助かるから本気で防疫してないって言うんですぜ」。

 ネズミ男「馬鹿馬鹿しい。今ここで感染爆発が起きて困るのは、誰よりも、お上じゃないか。持病持ちの老人は、案外気にしてない。うちのハムスター女なんか『もう人生十分楽しんだから、罹って死んだらそれまで。さよならだけが人生よ』って、キョロットでスーパー巡りしてるぜ。

 これは、王国の官僚の悪癖なんだよ。まぁいろいろ諸説はあるけど、太平洋戦争でのガダルカナル島を巡る攻防(注:ミッドウェー海戦と共に太平洋戦争における転換点となった。日本側は激しい消耗戦により兵員に多数の餓死者を発生させたうえ、軍艦、航空機、燃料、武器等多くを失った)も“戦力の逐次投入”が敗因のひとつと言われてるなー。

 一般的には、“戦力の逐次投入”を愚策と評価するのは、古典から現代までの戦史を通じた鉄則の一つなんだが、バブルの不良債権処理にも見られたように、また大事なところで王国の官僚の悪い癖が出ているのさ」。

 「そうなんですかねー」と尻をふりふり、ハチ男は帰っていった。ネズミ男は、「おお、寒~」とひとりごちて宅配バイトに出かけたのでありました。