断章100

 「ふるさとはどこですかと 私は聞いた 南の海の町と あなたは答えた ああ、そして幼い日のことを 瞳をかがやかせ 歌うように夢のように 話したわ」(『ふるさとはどこですか』♪テレサ・テン

 

 戦後復興から経済高度成長・バブル期にかけて、若者たちは奔流のように都会に出て、東京圏に住み着き、その故郷は「空き家」ばかりの過疎地・限界集落となった。

 「第一次産業に従事する人の数は、・・・2014年に発表された人口統計資料によると、全体の4%の238万人しかいません。また、そのほとんどが高齢者です。地方から若者が流出していくだけでなく、地方に残っている若者ですら第一次産業に従事しない傾向にあります。これから人数はさらに減少していくと考えられています」。

 「地方にあった企業や商業施設などは営業できなくなり、さらに若者は都市部に流出せざるを得ない状況になりました」(「地域百貨編集部」を再構成)。

 近年は首都圏などの一部都市圏を除いて全国的に過疎化がさらに進行している。

 

 「東京圏は、過度の人口集中に基づく通勤時間が長い、住宅面積が狭いといった課題を抱えている。 通勤時間を含む仕事に関する時間全体を見ても、東京圏は長く、余暇が少ないことが見て取れる」(総務省「社会生活基本調査」2016)けれども、なお人口流入が続いている。というのは、東京圏には魅力的な何かがあるように思えるからである。

 「東京圏転入者が現在(東京圏)の仕事を選ぶにあたって重視したことは、男女ともに『給与水準』や『自分の関心に近い仕事ができること』が相当程度高い(6割超)。また、男性では『企業の将来性』、女性では『一都三県で仕事をすること』とする割合も高い。女性では、さらに『育児・介護の制度が充実していること』も一定程度重視。東京圏転入者が地元の就職先を選ばなかった理由は、男女ともに『一都三県で仕事をしたかったから』が最も高い。また 、男性では『希望する仕事がなかったから』が、女性では『一都三県で暮らしたかったから』も相当程度高い割合。女性では 『親元や地元を離れたかったから』も高い割合」(「東京圏に転入した若年者の『働き方』に関する意識調査」2015)を占めているからである。

 

 東京圏(都会)に出れば、得るものもあるが、失うものもある。

 先の敗戦において、日本人が喪ったものは、親兄弟だけでなく、“国家”も亡くしたのであるが、今では故郷も無くしてしまいそうである(自称「知識人」リベラルとは、共産主義に色目を使い、自らすすんで“国”を捨て、根無し草《デラシネ》になった者たちのことである)。

 

 シモーヌ・ヴェイユは、「根をもつこと、それは魂のもっとも切実な欲求であり、もっとも無視されてきた欲求である。職業・言語・郷土など複数の根をもつことを人間は必要とする」と言ったそうだが、人が根をもたなくなれば、いったい何が起きるだろうか?

 

【補】

 以下は、『根を持つこと』(シモーヌ・ヴェイユ)への、あるアマゾンレビュワーの評の一部である。

 「フランスの哲学者で、第二次世界大戦時に亡命先の英国で34歳という若さでなくなったヴェイユの代表作の一つです。上巻では人間の魂に必要なものは何かをリストアップし、そのなかでも特に著者が重要と考えている『根を持つこと』についての論が始まります。植物にとって根が養分を吸収する重要な役割を果たしているように、人間もなんらかの根を持たなければ魂が死んでしまう。そして根から無理やり引き剥がされた状態、つまり『根こぎ』の恐ろしい影響について上巻では詳しく論じていますが、その中心的話題は祖国の喪失です。フランスはナチスドイツに占領されフランス人は『根こぎ』の状態になりますが、ヴェイユはいかにしてフランス人の魂を回復させるべきかについて最後に述べています」。