断章88
「祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ」(『平家物語』)。
「ソフトバンクグループ(SBG)が10月6日発表した2019年7~9月期の連結決算(国際会計基準)は、最終損益は7001億円の赤字(前年同期が5264億円の黒字)に転落した。配車サービスの米ウーバーテクノロジーズなど出資先企業で株安が進行。シェアオフィス『ウィーワーク』を運営する、出資先の米ウィーカンパニーでも企業価値が低下傾向にあり、主力のファンド事業で多額の損失が発生した。同損失額は9702億円と前年同期(3924億円の黒字)から大幅に悪化した」。
「ソフトバンクグループ(SBG)の『ビジョンファンド』による巨額投資のひずみが目立ってきた。米シェアオフィス『ウィーワーク』の運営会社ウィーカンパニーへの投資では本体で5千億円、ファンドで4千億円規模の損失を計上。ファンド投資先で上場した7社のうち5社の株価は初値を下回る。市場シェアや規模拡大を優先する経営が曲がり角を迎えた企業も多く、市場では『第2のウィー』への警戒も強い。
『今回は例外だ』。孫正義会長兼社長は6日の記者会見で、ウィーの支援に関してこう述べた。同社への投資は、孫氏が創業者ニューマン氏の手腕を見込んで即断したとされる。だが、結果は裏目に出た。想定外の追加投資を余儀なくされ、ウィーの経営については当面、規模拡大を止めて採算重視に転換する。2017年に立ち上げた10兆円の『ビジョンファンド』は当初、投資期間を5年間としていた。実際は約2年で88社に出資し、投資枠を使い切った」(2019/11/06・日本経済新聞)というのだ。
この先どうなるかは、誰にも分からない。とくに株価は。
酷い決算でも、この決算において意図的な“膿み出し”をしたので(税金問題のからみもあって)、「悪材料出尽くし、来期は良くなるだろう」と言って暴騰するのが博打場だから。
だが、例えばバークシャー・ハサウェイと比べてみれば、孫 正義の投資スタイルが、極めてリスキーなものであることは間違いない。
「アメリカで『オマハの賢人』と呼ばれているウォーレン・E・バフェットが率いる世界最大の米保険・投資会社バークシャー・ハサウェイの2019年7-9月(第3四半期)は、多くの意味で新たなピークを迎えた。まず、営業利益が過去最高を更新した。バフェット氏が過去最大の買収で傘下とした鉄道会社BNSFの業績が過去最高となり、バークシャーの利益を押し上げた。また、株式投資利益も寄与してバークシャーの純利益は520億ドル(約5兆6300億円)に達し、同社は世界で最も利益を上げている上場企業となった。さらに、手元現金は1280億ドルとこれも過去最高」(2019/11/03・ブルームバーグ)だった。純利益5兆円!
現在の情勢下で、「ボロボロ。真っ赤っかの大赤字、大嵐」(孫 正義)と言っているようなら、もしブラックスワンが降り立って世界が闇に閉ざされたら、SBGはいったいどうなるのだろうか?
【参考】
「ウォーレン・バフェットの運用者としての凄味は、彼が『暴落した時に買える唯一の投資家である』ということである。2000年のドットコムバブルの時、誰もが『バフェットは時代遅れの終わった投資家だ』と叩いていたが、ドットコムバブルに踊った投機家たちはこの世界から去って行った。近視眼的(マイオピック)な投資家は、遅かれ早かれ、市場から消えていくものなのだ。金融危機から10年、ボルカールールの撤廃や骨抜きによって、いまのウォール街は金融危機(リーマンショック)前の状況に戻っている。また、昔と同じことを繰り返している」(石原 順)。
【補】
「米著名投資家ウォーレン・バフェット氏は1日、自ら率いる投資会社バークシャー・ハザウェイの保有株式のうち、時価総額で36億ドル(3900億円)相当を5つの慈善活動財団に寄付すると発表した。バフェット氏は保有する自社株のすべてを慈善活動に寄付することを表明。今回の寄付を含めて、これまで340億ドル相当の自社株を5財団に寄付した。
寄付先は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、バフェット氏の子弟がそれぞれ運営するスーザン・トンプソン・バフェット財団、シャーウッド財団、ハワード・G・バフェット財団、ノボ財団の5つ。これらの財団は貧困の撲滅や貧困地域の人々の医療サービスの向上、公立学校教育の充実などの活動をしている」(2019/7/2・日本経済新聞)。
【補】
「SBG傘下の『ビジョン・ファンド』では2019年6月30日時点で、簿価ベースの総資産822億ドルのうち輸送・物流部門の資産が335億ドルを占めている。普通の感覚を持ったポートフォリオ・マネジャーなら、特定のセグメントにこれほど偏った資金運用はまずしないだろう。だが、孫会長とSBGはそうするのに何のためらいも感じていない。ビジョン・ファンドが出資している配車サービス企業には、株式の12.8%を所有するウーバーのほかに、中国の滴滴出行(傘下にブラジルの同業99を持つ)、インドのオラ、東南アジアのグラブがある。主要な配車サービス企業でSBGが投資していないのは、同社の日本でのライバル、楽天が出資する米リフトくらいだ。(中略)
だが、ウーバーの今年1〜9月のキャッシュフローがマイナス29億3000万ドルという途方もない額に達したことは、この業界は単にもうからないということを示しているのだとしたら?(中略)
SBGは決算発表を自社が事業会社であるかのように行っているが、傘下の米携帯大手スプリントの持ち株比率が、提案している米同業のTモバイルUSとの合併によって低下すれば、シリコンバレーのサンドヒルロードに集まる典型的なPE投資会社にますます似てくるだろう(米連邦通信委員会はこのほど両社の合併を承認した。合併が実現すれば、新会社に対するSBGの出資比率は27%になる見通しだ)。(中略)
孫会長はどのくらいまで痛みに耐えられるだろうか。SBGはこれまで低金利を活用して社債を発行し、それによって調達した資金の一部を自社株買いに充ててきた。しかし、もしこうした資金繰りのサイクルが終わりを迎えれば?」(フオーブス/Jim・Collins)
【補】
「ソフトバンクグループ(SBG)が出資する英衛星通信企業『ワンウェブ』は27日、米連邦破産法の適用を申請したと発表した。新型コロナウイルスによる金融市場の混乱などで資金調達が難しくなり、資金繰りに行き詰まったという。
ワンウェブは人工衛星を打ち上げ、世界の様々な場所で高速インターネットを使えるようにする計画を進めてきた。米CNBCテレビによると、SBGはワンウェブに約20億ドルを投じる筆頭株主だが、新たな資金支援は難しいと判断したという。ワンウェブは『新型コロナウイルスによる経済的な打撃が今回の結果を招いた』としている」(2020/3/28 読売新聞)。
「3月25日には格付け会社ムーディーズ・ジャパンがSBGの発行体格付けを2段階引き下げると発表した。保有資産が割安な価格で現金化され、残った投資先の価値が低下する恐れがあるとしたためだが、SBGは『当社が市場で性急に資産を売却し、さらに財務を改善しないという誤った理解に基づく』と反論し、ムーディーズに依頼していた格付けを取り下げた」(2020/3/29 日本経済新聞)。
【補】
「ソフトバンクグループの投資事業の業績悪化が加速している。約10兆円を運用する『ビジョン・ファンド』の1号は積み上げた利益が吹き飛んだ。立ち上げ準備を進めていた2号ファンドは外部の資金は集まらず、当面の代替策だった自己資金での投資も凍結する。ファンド事業を軸に成長を目指す戦略が暗礁に乗り上げている。
『新型コロナウイルスの影響は長引く前提でみなければならない』。13日、巨額の赤字見通しを発表した直後に、ソフトバンクGの幹部は語った。当面は保守的に事業を運営し、新規投資は当面は控えるという。
1号ファンドは昨春までは順調で、昨年7月の2号ファンド立ち上げ表明につながった。規模は1号を上回る12兆円だった。ところが、米シェアオフィス大手ウィーカンパニーの問題が浮上し『色々な反省を含めて今回はいったん規模を縮小してやるべきだと思っている』(孫正義会長兼社長)と、自社の資金だけで投資を開始する方針を示していた。
そこにコロナショックが追い打ちをかけた。未公開の投資先の価値がさらに減少し、2号ファンドの投資は凍結せざるをえなくなった。新型コロナの感染が広がる世界では、投資先の米ウーバーテクノロジーのようなシェアビジネスにも逆風だ。ウィー社への投資損失は拡大している。
昨年6月末には2兆円強まで膨らんでいた1号ファンドの累積投資利益は、12月末時点で1兆円と半減した。今年3月末時点でついにマイナス圏に沈んだもようだ。
高い運用実績をもとに投資家からさらに大きな規模の資金を集め、それを次なる投資に回す。当初描いていた投資会社としての『順回転』のシナリオは、修正を余儀なくされている。
ソフトバンクGの決算では、ビジョン・ファンドの投資先の価値の変動を営業損益に反映する。ファンドの規模が大きいため、損益が振れやすい。新型コロナの影響で20年1~3月期にファンド事業の営業赤字は1兆円に膨らんだ。3カ月で1割程度、投資先の価値が低下した計算だ。新規投資を凍結し、当面は自社株買いと負債の圧縮に資金をあてる」(2020/04/14 日本経済新聞)。