断章86

 3カ月ほど前になる。ある韓国紙に掲載されたコラムに目がとまった。

 タイトルは、「韓日『経済戦争』究極的目的は何か」であった。韓国の歴史的な進路選択にかかわるコラムだった。以下に、引用・要約して紹介する。

 

 「日本は韓国との関係を通じて韓日米三角同盟を強化し、中国の膨張を防ぎ北朝鮮核武装を抑制して自国の安保と経済的利益を守ろうとすることを究極的な目的とするとみられる。いま日本が韓国にする行動は、友邦としての信頼が壊れたので信頼できる友邦国であるということを改めて確認させてくれというものと解釈される。

 

 米国の韓日関係に対する立場は両国で円満に解決しろというものだ。韓国に対する立場は米軍駐留費をさらに多く負担し、北朝鮮核武装できないよう米国を助け、対中制裁に参加し、世界覇権を維持するのに軍事的に支援しろということだ。

 韓米関係で米国の究極的な目的は韓日米三角同盟を固め、北朝鮮核武装と中国の膨張を防ごうということだ。もっと大きくインド、台湾、シンガポールだけでなく、さらにロシアとも連合して中国を包囲し世界覇権を維持しようということのようにみられる。韓日対立状況で助けてほしいという韓国の要請にまともに応じないのを見れば米国は自国の究極的な目的達成に協力しない国と韓国をみているようだ。

 

 もし韓国が韓日米三角同盟を破り中国と同盟を結ぶといえば米国はどうするだろうか。覇権維持のため中国の膨張を防ぐことが米国の究極的である目的のため、どのようにしてでも韓国の国力を弱めようとするだろう。米国が韓国に経済制裁を加えれば韓国は日本の制裁とは比較できないほどの被害を受けるだろう。在韓米軍が撤収することになるが、北朝鮮が韓国最大都市20カ所に核爆弾を撃つと脅迫すれば韓国はどのように対応できるだろうか。毎年北朝鮮に途轍(トテツ)もない朝貢を捧げたり、あるいは金 正恩の支配を受けること以外に他の代案があるだろうか。

 

 中国は今回の韓日対立に対し公開的に明らかな立場を明らかにしていない。韓日間の経済戦争がさらに激化すれば中国も短期的に損害を受けるだろうが、長期的に『中国製造2025』に役立つため、中国の立場では慶事になるかもしれない。韓日関係悪化で韓国が中国と同盟しようと考えるなら中国は究極的に望む世界覇権をもっと早く握れるかもしれず両手を挙げて歓迎するだろう。

 

 韓日が両国関係で究極的に得ようとするものが韓日米三角同盟の強化による国家安保維持と経済成長ならば統合的交渉を試みなければならない。両国が望む究極的な目的が同一なので簡単に妥結できる。この時、ひとつの事案だけめぐり交渉するのではなく、両国の利益に影響を与えかねないさまざまな事案を同時に交渉テーブルにのせて交渉しなければならない。日本とまだ締結していない自由貿易協定(FTA)も上げられない理由はない。それぞれが必要とするものを得て、あまり重要でないものを譲歩すれば、交渉妥結しない時と比較して互いに利益にできる。これを通じ両国が過去史に対してはこれ以上言いがかりをつけない究極的合意をすれば良いだろう。

 

 もし韓国政府が望むものが3国同盟を破棄し中国と同盟を結ぶことならば交渉自体が行われず経済戦争が本格化するだろう。韓国政府は経済戦争を通して韓国が究極的に得ようとするものが何かを明確にしなければならない。戦争が本格化すれば米国も韓国に背を向けさらに大きな経済と安保危機を経験するだろう。韓国政府はその道を選択しないだろうと信じる。韓日両国が合意できる代案を見つけられなければ過去という『尻尾』が現在と未来という『胴体』を揺るがす格好になる。過去よりも未来指向的な観点から両国関係を再確立する契機にしなければならない」(2019/7/31 中央日報コラム)。

 

 当該コラムニストの期待に反し、その後の経過は芳しいものではない。文在寅政権の実質を伴わない“談話”や“親書”なるものは、「交渉しようとしたが、反動的な日本にはその気がなかった」とか「頑固な日本は、歴史修正主義的主張に拘泥した」と、今後の「反日」の名分を得るためのアリバイ作りにみえる。というのは、時々刻々、次から次へと、元徴用工訴訟に関わる対日本企業訴訟判決、資産差押え、資産売却が差し迫っているが、文在寅政権にはこれに取り組む様子が見られないからである。

 

 元々、韓国という国は、「1945年8月、憎き日本のくびきから脱したとき、韓国は自力で新しい国を作ることができなかった。アメリカやソ連などの大国に翻弄され、結果として民族が分断されて、今日に至っている。

 それ以来、韓国人の心の底には、あからさまには口にできない『国家の正統性』という問題が重苦しく沈殿することになってしまった。南北ともに信ぴょう性に疑問はあるものの、北朝鮮の言う『金日成は日本と戦って北朝鮮を作った』という主張に韓国は自信をもって反論することができない。そのため事あるごとに『親北』勢力が台頭」(ブログ「韓国はなぜこんなにも『反日』なのか」)してくる素地がある。

 

 そんな素地のあるところに、「米国の元政府高官が『北朝鮮はここ1年間、韓国左派へのイデオロギー攻勢で大きな成功をおさめた』と指摘した。2018年4月の南北首脳会談をはじめとして、韓国国内の左翼勢力に対話攻勢を仕掛けることで彼らの民族感情を刺激し、北朝鮮に同調する勢力として引き入れることに事実上成功したということだ。

 ブッシュ政権で東アジア太平洋担当の筆頭国務次官補を歴任したエバンス・リビア氏は10月17日、米政府系放送ボイス・オブ・アメリカVOA)に出演した。リビア氏は北朝鮮が韓国に対して露骨な暴言などを使っていることについて『北朝鮮としては韓国を外交的、政治的、イデオロギー的に(利用する)都合の良い位置に置いたことを把握し、蔑視しているということだ』とした上で、上記のように述べた。

 北朝鮮がいかなる行動をとったとしても、韓国は無条件でそれに従うため、かえって韓国を無視するようになったというのだ。

 リビア氏は『このような(イデオロギー攻勢の)成功は、韓国国内における北朝鮮に同調する動きや反応を北朝鮮が当然視するレベルにまで達した』『北朝鮮は自分たちよりも韓国のほうがより対話や協力を願っていることと、北朝鮮がどんな行動をとっても韓国は常に手を差し出し、協力を求めることを確信するようになった』と指摘」(2019/10/19 韓国紙ワシントン特派員)されるような情勢になった。

 

 こうした情勢を背景に、「韓国の親北朝鮮団体『韓国大学生進歩連合』に所属する男女17人が18日、ソウルにある米大使公邸の敷地に侵入し、米国が在韓米軍駐留費の負担増を要求していることを非難するデモを行った。警察は、侵入しようとした2人を含む計19人を建造物侵入などの疑いで拘束した。

 大進連は昨年来、北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長を礼賛する集会を開催。日韓対立に絡み、今年7月には三菱重工業の系列会社や日本メディアのソウル支局に対し、それぞれが入居する建物に不法侵入してデモを強行した。

 聯合ニュースによると、17人は、はしごで公邸の塀を乗り越え、建物前で横断幕を広げて『ハリス米大使はこの地を去れ』などと主張した。ハリス大使らは不在だった。米大使館は強い懸念を示し、韓国側に公館の保護強化を求めた。釜山の日本総領事館でも7月に大学生らが侵入してデモを行う事件」(2019/10/19 産経新聞)が起きている。

 

 「人権」を掲げながら「北朝鮮金王朝と同衾しようとし、「自由と民主主義」を謳いながら「反日」「反米」を辞めず中国に媚びを売る。韓米同盟を結んだまま中国に従属しようとする。まるで鵺(ヌエ。掴みどころがなく立ち回りは巧みだが得体の知れない人物の喩え)のようではないか。「鵺の鳴く夜は恐ろしい…」

 

【参考】

 「防衛費分担金特別協定(SMA)、北朝鮮、戦時作戦統制権還収問題が韓・米同盟にうず巻きを起こしている。過去にも韓米関係が危機に直面したことはあった。イ・スンマン元大統領は安保条約をめぐってトルーマンアイゼンハワー政府と葛藤した。カーターはパク・チョンヒの独裁をコントロールするために在韓米軍の撤収を推進した。ノ・ムヒョン候補が大統領に当選すると、米格付け会社ムーディーズは韓国の格付けを直ちに下方修正した。ノ・ムヒョン元大統領の反米の歩みを懸念したためだった。

 だからといって同盟が根本的に揺れることはなかった。だが、現在、暗雲が立ち込められた3つの問題は本当に危険な暴風を追い立てるかもしれない。(中略)

 このような問題が完全な破局をもたらすと確信することはできないが、米国の外交専門家らは深く懸念しながら見守っている。世論調査によると、米国人は韓国に米軍を駐留させることを強力に支持している。下院でも在韓米軍の撤収を主張する議員は誰もいない。共和党議員は随時国防授権法に言及してトランプ大統領が在韓米軍撤収の口実を見出せないように遮断している。(中略)

 (しかし、)米国人の米軍(韓国)駐留への支持を文在寅政府は活用しない。同盟関係の発展より北朝鮮との妥協に没頭している。日本をはじめとする米国同盟国との関係改善には力を注がない。韓国と米国企業に同盟の重要性を強調する姿も見ることが難しい。

 まだ完全に遅れたわけではない。11月中に韓米例年安保協議会がソウルで開かれる予定だ。それまでSMA合意が実現するかどうかは分からないが、韓米両国は協議会を機会にして同盟が両国だけでなくアジア全地域にも大きな意義を持つという事実を明らかに示す必要がある」(2019/10/25 中央日報コラムに掲載:マイケル・グリーン)。