断章80

 10月3日、ソフトバンクグループ(SBG)の株価は、年初来安値をつけた。7月29日に5,886円の高値をつけたが、10月3日には4,071円の安値をつけた。

 株の解説者によれば、「SBGが出資したシェアオフィス大手ウィーカンパニーの新規株式公開(IPO)の延期が株価下落のトリガー」だそうである。「そこで、ウィーの最高経営責任者(CEO)のアダム・ニューマン氏がCEO職を退くよう大株主のSBGが求めている」そうである。

 「SBGはウィーカンパニーに累計で100億ドル超を出資してきた。SBGのロナルド・フィッシャー副会長がウィーの取締役に就いている。ウィーの想定企業価値はSBGが1月に出資した際に470億ドル(約5兆円)とされていたが、足元のヒアリングでは7割減の150億ドル程度まで減る見通し」だそうである。

 7割減! 結局、ニューマンはCEOを辞めた。

 

 しかし、SBGが「ウィーの企業統治や赤字脱却への道筋が見えないまま事業拡大を進める経営戦略を疑問視した」というなら、「いったいどの口が言うか」という話である。

 なにしろ、「通信子会社のソフトバンクの上場が承認されたソフトバンクグループ。親会社は投資会社の色合いを強め、孫正義会長兼社長(61)は名実ともに『世界の買収王』となる。だが、有利子負債は18兆円にふくらみ、格付けは投機的水準というのがもう一つの顔だ」(経済誌)ということは、周知のことである。

 SBGという会社は、「困ったちゃん」である。上場会社による子会社の証券市場への上場は、大衆投資家の利益を損なう「親子上場」として問題視されたが、上場案件を確保したい証券取引所、大きな手数料がほしい証券会社、大量のCMがほしいマスコミの弱みにつけこんで、通信子会社ソフトバンクの上場をごり押しするような会社である。

 証券アナリストなるものが、「SBGには中国・アリババの株式含み益などがあるから問題ない」と言っているが、中国の巨大民間IT企業への中国共産党の支配・介入は強まるばかりである(つい先日、アリババの創業者も退陣してしまった)。

 世界的な株高が継続するうちは安心かもしれないが、先のことは分からない。

 

 SBGは大博打をしている。世界最大規模の米運用会社、オークツリー・キャピタル・マネジメントのハワード・マークス共同会長は言う。「一種のバブルだ。(SBGの)ビジョンファンドは非常に前のめりで、とても気前の良いマネーの出し手といえる。歴史的にみて、ベンチャーキャピタルファンドの大きさはせいぜい数10億ドルだ。ところがビジョンファンドは約1,000億ドルのお金を動かし、いとも簡単に出資しているようにみえる。マーケットはリスクに慎重で、規律が働く場であるべきだ。彼らが巨大なマネーをハイテク業界で安全に賢く投資できるのか。そのうち分かるだろう」(2019/6/22 日本経済新聞)。

 そのうち分かるだろう・・・、なにもかも。

 

【参考】

 「最近注目された親子上場は、ソフトバンクグループ(以下SBG)による通信子会社(ソフトバンク)の新規公開だ。

 親子上場が大手を振ってきたのは、経営者や投資家に合理的な意思決定や判断の能力が欠如していたからだろう。企業側として、ある事業に成長性と高い利益率が見込めるのなら、それは宝物である。その事業の権利の一部といえども、外部投資家に売却するのは正しくない。

 では、ある事業を子会社として分離し、その株式の一部を外部投資家に売ったとして、その背景は何か。当該事業が宝物ではなくなったか、他にもっと有望な宝物が見つかったからだろう。しかし、そう判断したのなら、部分的な売却に対する説明が難しい。完全売却がより望ましい。

 もっとも、魅力度の低下した事業の一部分を子会社として残すのは親会社にとって保険となりうる。魅力度が高いと考えた新規事業の成果が芳しくなければ、残しておいた子会社の利益を強引に吸い上げればいい。投資家側からすれば、そんな子会社株式とは残りかすか二番手事業でしかない。しかも部分的に保有させられる子会社の経営権を肝心な局面で剥奪されてしまうのなら、リスクが高すぎる。

 以上、親子上場には、企業側にはメリットが残りうる。投資家側にはデメリットしかない。そんな上場制度を許してきたのは、投資家がきわめて従順だったからでもある。

 さらにいえば、政府もまた親子上場制度のメリットを享受してきた。国有事業の民営化において、親子上場を利用してきたのは周知の事実である。そもそも、上場した親会社の経営権さえ政府が掌握している。投資家としては、政府の利益が優先されるリスクを強く意識せざるをえない。

 親子上場の本質とは、株主総会という最高意思決定の場において、一般投資家が影響力を発揮できないことにある。社外取締役の人数を含めた取締役会の構成ではなく、親子上場そのものを許すかどうかが問われている」(2019/4/19 日本経済新聞コラム)。

 

【補】

 まるで「憂国の志士」のようなもの言いをする企業人がいる(しかも、その会社は時にブラック企業とみなされる)。金儲けが上手いからといって、政治的発言内容が正鵠を得ているとは限らない。しかも、直接的な社会貢献では、XジャパンのYOSHIKIに及ばなかったりする。

 

 それはさておき、ソフトバンクグループ(以下SBG)だが、「財務省は、SBGが用いたM&A(合併・買収)に絡んだ節税策を防止する方針を固めた」そうである。

 「同一グループ内の資本取引で実態に変化がないにもかかわらず巨額の赤字を意図的につくり出して、ほかの部門の黒字と相殺して法人税を減らす手法を認めない。予期せぬ大規模な節税につながった制度の抜け穴をふさぐ。財務省が問題視しているのは、子会社などが中核事業を放出して企業価値が落ちた状態にしてから売却し、簿価と売却額の差だけ赤字を発生させる仕組みだ。このため、子会社の中核事業を手放す際には簿価も目減りさせるルールを軸に検討する。子会社を売却しても簿価と売却額の間に差がなくなり、意図的に赤字をつくれなくなる。

 与党の税制調査会での議論も踏まえて、2020年度の税制改正大綱に関連法令の見直し方針を盛り込みたい考えだ。

 SBGは買収したアーム・ホールディングス(HD)と、その中核事業を担う子会社の「アーム・リミテッド」に関する資本取引で大規模な節税を実施した。開示資料などによると、SBGは18年3月にリミテッド株の4分の3をアームHDから配当という形で吸い上げた。これにより、アームHDの実質的な価値は大きく目減りした。

 SBGは買収時より価値が大幅に落ちたアームHD株の8割弱を同じく傘下にあるソフトバンク・ビジョン・ファンドなどに売却して赤字を発生させた。この赤字をほかの事業で生じた黒字と相殺し、SBGの法人税負担はゼロになった(引用者注:SBGの純利益は1兆4千億円)。中核事業のアーム・リミテッドは親会社が変わったが、SBGの傘下にあることに変わりない。

 一つ一つの取引には違法性はなく、制度の抜け穴となっていた。国税庁からの相談を受け、財務省は今夏ごろから対策の検討を始めていた。財務省は意図的に赤字をつくりだすことを問題視している。

 一部有識者の間では、包括的に税逃れを制限する規定をつくるべきだという意見もあった。こうした規定は一般的租税回避防止規定(GAAR)と呼ばれ、英国やインドなども導入している。ただ発動の判断が難しいこともあり、各国当局もまだGAARを使いこなせていない。企業側からは、税務当局の出方が読みづらくなり、予期しない追徴課税を受ける可能性も高まるとして慎重な声も多い。財務省は現段階でGAARの検討に踏み込まず、個別の節税策を封じることにした。」(2019/10/20 日本経済新聞

 孫 正義は、トランプ大統領、サウジ皇太子、韓国サムスン御曹司などとの絡みにみられるように政商的な行動が得意である。

 節税封じの「花火」は上がったが、さて上空で開くかどうか? 「パスッ」と音だけに終わるかどうか見届けよう。

 

【補】

 「ソフトバンクグループ(SBG)は10月23日、企業や個人事業者にオフィスを貸し出すシェアオフィス『ウィーワーク』を運営する米ウィーカンパニーに追加の金融支援策を発表した。同社の既存株主から株式を買い取るなど総額95億ドル(約1兆円)を投じる。

 ウィーカンパニーはSBGなどが作った10兆円規模のファンドなどから累計100億ドル(約1兆800億円)超の出資を受け、それを元手に事業を拡大。一時は企業価値が470億ドル(約5兆円)と推定され、4月末にはIPO(新規株式公開)に向けた手続きを開始したと発表した。だがそれに前後して、ビジネスモデルの将来性やずさんな経営を問題視する声が投資家などから噴出。IPOは延期され、資金繰りが悪化しているとの指摘も相次いでいた。

 ウィーカンパニーの株式公開で巨額の利益を得るはずが、逆に経営再建への追加支援を余儀なくされた形のSBG」(2019/10/29 日経ビジネス)。