断章66

 庶民の暮らし向きは、相変わらずカツカツである。

 庶民から寄せられた家計の悩みに回答する「マネープランクリニック」には、以下のような家計相談が目白押しである。

「43歳貯金50万円。子どもの進学が迫っていますが、教育資金が足りない」

「39歳、夫に病気が見つかり、家族が共倒れになる前に相談させてください」

「37歳貯金0、夫がうつ病で無職。月23万円あれば…」

「36歳子ども2人。貯金ゼロで毎月7万円以上の借金返済」

「45歳貯金200万円。遺族年金と月収6万円で老後は?」

「50歳月収16万円、月1万円の貯金。妻は体が弱く働けない」

「34歳貯金1000万円。病気が再発しそうで正社員で働く自信がありません」

 内容をみれば・・・「今回の相談者は、3人のお子さんを抱える32歳の主婦の方です。

 Q:貯蓄がなかなかたまらない。老後資金は勿論、特別出費や家の維持費などに貯金が回せない。ボーナスはないし、退職金制度もないので将来が不安です。今年から固定資産税の支払いも始まるし、かといって、真ん中の子どもは幼稚園に通い、末っ子を他の託児所や保育園に通わせてパートに出るのは逆にマイナスかプラスマイナスゼロな気がして収入が増やせません。これから教育費もかかってくると思うと不安しかないです。」など悲鳴に近いものもある(ウツを発症して苦しんでいる例が多い)。

 「厚生労働省が9日発表した2019年5月の毎月勤労統計(速報、従業員5人以上の事業所)によると、基本給や残業代などを合わせた1人当たりの現金給与総額(名目賃金)は前年同月比0.2%減の27万5597円だった。物価の影響を加味した実質賃金は1.0%減で、名目、実質ともに5カ月連続のマイナスとなった。」(2019/7/9 共同通信

 少しはゆとりがあっても、「家計で必要な消費や経費を差し引いた後に残るお金の比率を示す『黒字率』が上昇している。総務省が8日発表した家計調査によると、2018年の家計黒字率(2人以上の勤労者世帯)は00年以降で初めて30%を超えた。働く女性が増えて家計収入を押し上げている一方、不要不急の消費を控えてお金をためている家計の動きを示す。」(2019/2/8 日本経済新聞

 生活防衛に汲々とせざるをえない現実があるのだ。

 

 「平成時代に入ってバブル経済が崩壊し、雇用形態は大きく変わり始めました。年々増えていったのが非正規です。政府によると非正規社員の数は約2100万と、いまや労働者全体の4割近くを占めます。(中略)

 非正規社員の特徴をまとめると短時間労働、有期契約、転勤がない、というのが一般的です。近年、企業は人件費を抑制するため、雇用調整のしやすい非正規社員を増やしました。子育てや親を介護するために短時間勤務を望む人が増えていることも背景にあります。

 非正規社員の増加は多くの問題を引き起こしています。

 まず賃金格差です。2018年の賃金構造基本統計調査によると正規社員の平均賃金は月32万3900円、非正規社員は20万9400円です。正規社員には労働時間が長い、転勤を伴う、といった理由があるとはいえ、それだけでは説明できない『不合理な格差が目立つ』と弁護士の上柳敏郎さんは指摘します。

 そこで政府は働き方改革関連法に基づき来年4月から正規、非正規の賃金の均等化、均衡化を図ります。これが同一労働同賃金の原則です。

 労働者災害補償保険雇用保険、健康保険、厚生年金保険の加入問題もあります。非正規社員の中には加入要件を満たすのに『会社が加入を怠っているケースも依然目立つ』と社会保険労務士井上大輔さんは話します。

 例えば雇用保険は『週労働時間が20時間以上』といった基準を満たす社員を被保険者として加入させる必要があるのに加入させないケースです」(2019/8/24 日本経済新聞)。

 

 自ら積極的に食事・睡眠・健康管理に力を入れ、法律・支援制度のことも知り、視野を広げ新たなスキル・仕事・環境に挑戦しなければ、グローバル経済・AI自動化経済の時代を生き抜いていくことはできない。ストレスフルでもそれが現実なのだ。

 

 レオス・キャピタルワークスの藤野 英人は、こう言っている。

 「うつむく必要はない。日本では、この国の未来を悲観的に語る人が少なくありません。私には、多くの人がうつむいているように思えます。しかし日本はGDPの世界ランキング第3位の大国であり、その強さは簡単に崩れるものではありません。

 これほどのベースを持ち、安全で、美味しいご飯が食べられ、働く機会もたくさんあり、やる気があれば資金を提供してくれる人もいます。日本の中で挑戦心を持っている人は、『世界最強』と言ってもいいのではないかと思います。そんなにうつむく必要はないのです。

 日本がつまらない、息苦しいなどと感じるなら、アジアで挑戦するのもいいと思います。実際にVIP(ベトナムインドネシア・フィリピン)で頑張っている人は少なくありません。

 たとえばベトナムではいま、『ピザ フォーピース』というピザのお店が大人気。『平和のために』という名前のこのお店を経営しているのは、ベトナムに移住した日本人夫婦です。

 現地においしいチーズがないからとベトナムで自家製チーズまで作るこだわりようで、そのおいしさが評判を呼び、現地の人はもちろんベトナムに滞在する日本人や欧州の人々も魅了しています。同じくベトナムで大人気の『FUWAGORI(フワゴオリ)』という名前のかき氷店も経営者は日本人で、今後はアジアの国々への展開を視野に入れているといいます。

 うつむきがちになっている人や煮詰まっている人は、一度アジアの国々に出かけみてもいいかもしれません。のんびり観光でもしながら、自分を見つめてみるのです。そこには成長する国の姿があり、一方では日本の素晴らしさを改めて感じることにもなるでしょう。

 『日本にまだまだ自分が活躍できる場があるんだ』と気づくのか、それとも『アジアに出て働いてみよう』という気持ちになるのかは、みなさん次第です」。

 

 「自らの力を信じ、自ら決する者だけが、道を切り拓いてゆける。国も同じであることを、歴史は語っている」(岡田 英弘)。

 

【参考】

 「周囲の人とは違う(貧乏な)境遇で育ち、せつない思いもあったけれど、自分の得意な勉強に打ち込み、実績を作った。そして、何よりそれを成し遂げた自分を信じることが『自信』につながった。コンプレックスはそう簡単に拭い去れるものではないかもしれないが、乗り越えた自分の存在を信じて日々を過ごしている」

(クイン・エマニュエル外国法事務弁護士事務所 東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン)。

 

【参考】

 「Q:(人生100年時代でも)一向に変わらない企業や国家に対し、個人は何をすべきなのでしょうか。いくら『人生100年時代』に応じた動きをしようとも、制度が変わらなければ大変だと思いますが。

 グラットンA:一向に変わらない企業に対して、異を唱える人が増えてくれば、次第に企業は変わっていきます。だから、個人として、会社に対する不満を示す一つの方法は、会社を辞めることなのです。ただ当然ながら、こうした戦略を取るためには、自分が労働市場で通用する人材でなければなりません。そこで、自分のキャリアを常に考え、新しい知識やスキルを獲得することが求められるのです。(中略)

 本来は企業や国家のリーダーが気づき、『人生100年時代』にふさわしい制度改革を進めるのが望ましい形です。しかし、それはすぐには進みませんから、しばらく個人として交渉力を強めていくしかないのです。オートメーションが進み、寿命が伸びた現代においては、われわれは学び続けなければならないのです」(『未来を読む』)。